ルーシーを撫でた後、俺はサーミャとルーシーが持ってきた石を見た。
ヘレンとアンネ、つまりうちのフルパワーコンビが持ってくる大きさには、さすがに敵わないとはいえ、十分な大きさのものが鎮座ましましている。
「重かっただろ。もっと小さくても大丈夫だったのに」
ほんの僅かばかり前に発した言葉を俺は繰り返した。
「いや、これくらいなら平気。それにこれはルーシーが見つけて持っていくって言い張ったやつだし」
「ルーシーが?」
「うん」
頷くサーミャと、それに合わせて「ワン!」と吠えるルーシー。
サーミャは少しだけクルルやルーシー、ハヤテの言葉が分かる。獣人だから、というのは間違いではないが一面的な話で、実際のところは「感情の動きが人間よりは単純なので匂いがわかりやすい」ということらしい。
しかし、ルーシーは本当に大きくなったな。1歳にもまだなっていない――彼女の親から預かったときには既に産まれてからそこそこの月日が過ぎていたようなので正確なところは不明だが――にも関わらず、時折見かける森狼の群れでも一番大きい個体くらいか、それより僅かに大きいように見える。
もちろん、これは魔力の影響で成長が早いことは間違いない。それに、種の限界を超えて成長しつつあるのだろう。
前の世界の大型犬は、犬種によっては2年ほど成長することもあるらしいので、ルーシーもそれくらい成長していく可能性が非常に高い。
いずれ単独で猪を狩るほどになってもおかしくはないな。その姿を見たいような、見たくないような。
やはり、今のうちにクルルの小屋を作り直すことを考えようかな。本人達から不満は出ていないが、ハヤテとマリベルもいるわけだし、いつまでも何の仕切りもなく、ただ雨風を防げるだけというのもよろしくなさそうだ。
馬房のように柵で囲うかはともかく、仕切りとハヤテの止まり木、マリベルの寝床を整備はしたい。
まぁ、これも今回の全てを終えて家に帰ってからの相談だな。
「ワフ?」
「ああ、ごめんごめん」
考えから引き戻された俺を、ルーシーが見上げている。俺は再び彼女の頭を撫で回し、ルーシーの尻尾がブンブンと振り回される。
「サーミャも、これだけ大きければ作業するには十分だ。ありがとう」
「お、おう」
サーミャはそう言って顔を赤らめたが、すぐに俺に背を向けると、
「よし、次だ! ルーシー!」
「ワン!!」
止める間もなく、風のようにサーミャとルーシーが走り去っていった。
こと地面を駆ける速さは、あのコンビに勝てるのはいない……いや、ヘレンとクルルなら勝てる可能性があるな。
「うーん、何をあんなに急いでるんだろうな」
あっという間に姿を消した2人を見送り、なぜか馬鹿デカいため息をつくリディの近くへ戻って、すっかり置き去りになっていた鋼の様子を確認した。
どうやら今の時間でちょうど良く温度が上がってくれたらしい。ベストにはもう後ほんの僅かだけ時間が必要だが、戻ってくるタイミングとしては問題ない。
「よし、それじゃあ始めるか」
俺は鋼を火床から引き出す準備をすると、更に集中を深めていった。