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〝遺跡〟に到着

「やっぱり〝探索者〟が増えてるな」


 俺は馬車から街行く人々を見て言った。昨日この都にやってきたときと買い出しに出たときに比べて、〝探索者〟たちの数が目に見えて増えている。

 俺の見ていた方を同じように見て、マリウスが頷きながら言う。


「今日が終われば〝遺跡〟への出入りはある程度自由になるだろうからね」

「いち早く入れたほうが有利ってことか」

「うん。とは言っても、まるきり何もない可能性もあるからね。彼らにとっても博打だと思うよ」


 今日これから俺達が潜っても地下1層で2~3部屋しかなく、何も残っていなかったとなれば、ここまで移動してきた彼らのコストはまるきり無駄ということになる。

〝遺跡〟が地下深くまであったとしても、せいぜい「期待がもてる」程度の話であって「必ずなにかある」というわけではない。


 俺はどちらも経験はないが、ダイヤ掘りや金鉱掘りのようなものだろうか。

 それでいくと「道具を売りつけるやつが一番儲かる」わけだが、昨日の都の様子から言えば、すでにその兆候も見えていることになるな。

 程度はあるだろうが、できるだけ全員が不幸にはならずに帰っていってほしいものである。


 ここの〝遺跡〟が見つかってから、そう日数が経過していないこともあってか、町中の〝遺跡〟という珍しいものを一目見ようと集まってきている野次馬たちをかき分けるように馬車は進む。

 人が集まればそこには商売がある。野次馬向け相手に果実や水を売る行商らしき人々も数多くいた。


「着きました」


 ややあって、馬車は都の衛兵――王家の紋章が入っていたので、王家直属の近衛兵かも知れない――が封鎖している一角に入って止まった。

 少し離れたところから喧騒が聞こえてくるが、ここいらは完全に人払いをしているらしく、内街のように静かだ。


 俺とヘレンはマティスに礼を言って馬車から降りる。マリウスに手を貸そうかと思っていると、そこへカテリナさんが駆け寄ってきた。


「エイゾウさん、ヘレンさん、どうもです」

「どうも、カテリナさん」

「よう」


 カテリナさんはいつもの使用人さんたちの服装ではなく、少し硬そうな服の上に、胸甲に篭手とすね当てを装着しており、腰には長剣を佩いている。

 そう言えばこの人、家事みたいな仕事はあんまりないって言ってたな。

 俺たちへの挨拶もそこそこに、カテリナさんはマリウスが馬車を降りるのを手伝う。マリウスは優雅に馬車を降りた。


 ササッと先導するカテリナさんに着いていきながら、マリウスは彼女にたずねた。


「どうなってる?」

「王弟殿下はまだ到着なさってません。〝遺跡〟に今のところ動きはありません。潜る準備は整ってます」

「うん」


 俺とヘレンはマリウスの後ろに着いていく。周囲に人影はないが、警戒するに越したことはない。

 やがてポッカリと空いた穴と、直ぐ側に天幕が張られている場所に着いた。ここが前線基地ってことらしい。

 そういえば、こんな感じのを前の世界のゲームで見たなぁ……。この世界でもリディが住んでた森に行ったときに見たけども。


「我々は外でお待ちしております」

「うん、任せた。準備を済ませたらすぐに出てくる」

「かしこまりました」


 打ち合わせなら王弟殿下が来てからだろうし、今この天幕の中に入ったとて、俺とヘレンがやることはほぼない。一応外にいるので丁寧に接する。そのあたりはマリウスも理解しているようで、鷹揚に頷いて中に入っていった。

 並んで一緒に待っているヘレンが口を開く。


「エイゾウってさ」

「ん?」

「やっぱ、ああいう対応できるんだな」

「そりゃあ……なあ」


 俺は多少口ごもりながら答える。実際には前の世界での社会経験というか処世術というかといったもののおかげだが、それを言うわけにもいかないからな。

 まあ「北方から流れてきた家名持ちで、それなりの教育を受けたことがある」という俺の主張を受け取れば、あまり不思議はないだろが。


「ヘレンだってできるだろ?」

「アタイもそれなりに偉いさんの前に出る機会はあったからね」


 腕っこきの傭兵であるヘレンはなんだかんだと貴族や王族に呼ばれることも多かったらしく、そういう対応もできるのだ。俺と同じで隠しきれない部分もあるが。

 ヘレンの場合はそういうところもあって、呼ばれる機会が多かったんじゃなかろうかという気もする。

 俺は肩をすくめて言う。


「ま、今からもっと偉いのを相手せにゃならんわけだし、これくらいはな」

「だな……。おっ、噂をすれば」


 少しだけ聞こえていた喧騒から、大きなどよめきが起こる。ガラガラと大きな車輪の音を響かせてやってくるのは、装飾のついた馬車とそれを引く白馬。

 どうやら思いの外、早くにいらっしゃったらしい。


 俺とヘレンは気を引き締め、直立不動の体勢を取るのだった。

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