「なにか面白いものでもあればいいなと思ってたけど、そこまで甘くはなかったな」
ルイ殿下はあたりを見回して言った。今俺達がいるのは他にも6つほどあった部屋の、最後の6つ目である。
あまり大きくない部屋に朽ちた棚がいくつかあった。棚が朽ちているのが、先客が捜索したときに破壊されたのか、それとも経年劣化によるものなのかは分からないが、経年劣化でここまで移動はしないだろうと言うところまで動いているので、少なくとも家探しをされたことは確実である。
隠し部屋や隠し通路のようなものがないかも確認したが、やけに慣れた手つきのアネットさんにルイ殿下、そしてヘレンが手伝って捜索しても何一つなかったので、これをもって調査としては打ち切って切り上げとなった。
キッチリ調査はしたが、見つけたいものがなにか明確な分、早く終わってしまったので、持ってきた食料をちょっと腹に入れて休憩をしてから上に戻ることになった。
「しかし、顔合わせが目的なら、私とヘレンをここまで連れてきたのはまずかったのでは?」
いささか埃っぽい石の床に腰を落ち着けた俺は、素直に疑問を口に出した。
ルイ殿下はここに潜る前、俺のファンで陰ながら支援してくれている(金銭など直接的な形ではないが)と言ってくれていた。
目的としてはそこで終わっているのだし、俺とヘレンは上で待たせていれば良かったのではなかろうか。
俺とヘレンをここまで連れてきたことで、王国にはなんらかの秘密があることを俺達に知られている。それも公爵派も知らないような内容をだ。
少なくとも身分の上では一般市民である俺達にそんな秘密を知られて良いものか。
詳細は聞かされていないので、何かあっても知らぬ存ぜぬで通せるのが救いだ。
俺の疑問に返ってきたのは渋面を作ったルイ殿下の顔である。
「やれやれ、さっき言っただろう?」
「何が聞いてるかわからない?」
返した俺に呆れた顔をしていたルイ殿下は一転破顔した。
「人払いもしていて天幕の中だけど、魔法があるからね」
そしてすぐに真剣な表情に戻る。
「目的は上で言ったようなこともあるし、〝遺跡〟の探索が必要なのも確かだけど、もう少し我々についても話しておきたい」
ルイ殿下の青い目が俺を覗き込む。揺らめく明かりでその目も揺れているように感じる。
「上でチラッと言っちゃったけど、私は〝黒ベールの目〟の長をしている。国内外の情報を集めて、不穏な動きがないかを監視したりする組織だ」
要は諜報機関というわけである。一見すると閑職がそういうところの長、って本当にあるんだな。たぶん帝国や北方にスパイを送ってたりするんだろうなあ。
帰ったら帝国に潜り込んでるがいるのか、それとなくアンネに聞いてみようかな。彼女なら「ああ、いるわね」で終わりそうな気もするが。
「ま、これ自体は叔父上――君たちが公爵派と呼んでいる一派の一番上だね――も知っていることだ。一応王室に名が連なる人だしね」
ルイ殿下は一瞬だが苦笑するような顔になった。親戚と言えども暗躍しているのが引っかかるのだろうか。
「さておき本題だ。君には少し頼み事をしたいんだ」
真剣な眼差しのルイ殿下。何が飛び出してくるものか、俺は思わず生唾を飲み込むのだった。