「新しい魔法かぁ……。作り出すことは可能なのか?」
俺は聞いてしまったあとで、可能か不可能かであれば可能だろうなと思った。前の世界の仕事でも「技術的には可能ですが、道義的にはやりたくないですね」という回答を幾度となくした覚えがある。
案の定、リディは頷く。だが、すぐに困ったように眉根を寄せた。
「はい。ただ、もちろんこれまでの人々の営みの中で生まれてこなかったものですから、おいそれとできるようなものではありませんが……」
この世界ができ、人々が生まれて幾星霜。「魔力を固定する」という、謂わば「魔力電池」として使える魔法などは思いついた誰かが開発しているはずだ。
特に、魔力がなければ身体の維持が難しいエルフの人々にとっては、魔力のある森などを経由して移動しなくても遠くにいける大きなメリットがある。そして、リディが言ったようにエルフには時間がたくさんある。新しく開発する時間もあったはずだ。
それでも、その便利な魔法がないということは……
「最も楽観的に考えれば、世界のどこかに存在しているが俺たちが知らないだけ。次に希望があるのは、今現在誰かが作っているところ。でも」
「一番考えられるのは、作ろうとしたけど何らかの要因でできないことが分かったから諦めた、ですね」
「うん」
今度は俺が頷く番だった。これも前の世界の話にはなるが、「あれば良いはずなのに、今ないもの」はだいたい「よくよく考えればいらなかったから」か「不可能だったから」のどっちかだと思っている。
ニッチ過ぎるけど、どうしても必要になったり、あるいは技術の進歩で不可能だったものが可能になったことで出てくるものはあるだろう。
今回前者はないとして、後者を待つ必要があるかも知れない。
「探すにせよ、作るにせよ、いずれ時間がかかりすぎるな。今回は魔法で解決するのは諦めよう」
「残念ですが、いたしかたないですね……」
俺とリディは肩を落とした。あ、もちろんリケも一緒にだ。
「今はカミロの返事を待つしかないな」
最悪の場合はここにある竜の鱗を使って、ジワジワとカリオピウムを変性させていく方法をとるか。
そう考えていると、外から声が聞こえた。人の声ではない。
「キューイ」
あの甲高い声はハヤテだな。俺とリケにリディ……以外のみんなも聞こえたらしく、手を止めてぞろぞろと外へ向かった。
「よしよし、頑張ったな」
「キューゥ」
ハヤテを撫でてやると、嬉しそうに俺に頭を擦り付けてくる。脚には何もついていない。
手紙を読んで、俺が言ったものがあるかどうか確認して、それから返事を書いてとなると時間がかかるから、先に帰してくれたのだろう。
と、思っていたら、
「あ、アラシも来た」
サーミャが呟き、俺達は空を見上げる。そこにはハヤテと同じシルエットが浮かんでいて、こちらへ向かって一直線に降りてきた。
アラシは伝言板のところに止まった。ハヤテとは違って少し息が荒そうに見える。もしかして、急いでくれたのかな。
「アラシもご苦労さん」
俺がアラシに近づいて撫でてやると、嬉しそうに一声鳴いた。
アラシの脚には手紙が入っているのであろう筒がくくりつけられている。筒なのでモノはないようだ。
俺がその筒から手紙を取り出すと、息を整える間もなくアラシが飛び立った。
「あ、おい。行っちゃったよ」
あっという間に小さくなっていくアラシの姿に、俺と家族は、
「気をつけてな!!」
と大声をあげ、手を振るのだった。