昼飯を終えてから、ハヤテにカミロ宛の「明日行く」旨をしたためた手紙を託す。今日2回目なので体力的にどうかという不安は多少あるが、朝送り出したときのような「うまくやれるだろうか」という不安はない。
ディアナも今朝のような心配そうな表情では……いや、結構心配そうではあるな。まあ、今朝ほどではないので大丈夫だろう。
「頼んだぞ」
「キュイッ」
脚に手紙を携えたハヤテは、一声鳴いて矢のように空を駆けていった。あの速さで飛べるなら体力面も大丈夫そうだな。
「そういえば、デカいドラゴンってどれくらいの速さで飛ぶんだろうな」
身体がデカくて翼が大きかったり、あるいは魔力を使って速いのか、それとも逆に図体のデカさであまり速くは飛べないのか。
あいにくドラゴンを見たことがないし、〝インストール〟の知識にもないので、どっちなのかは不明だ。
ヘレンが名残惜しそうにハヤテの去った方を見ながら言った。
「アタイも見たことないからなぁ」
「お前で見たことがなかったら、うちで見たことがあるやつはいないだろうな。旅をしてきたリケか、あるいはリディはエルフだから見たことがあるかもくらいだけど」
だが、その2人も首を横に振る。ドラゴンに出会うのはレアな体験なのだな。サーミャからいるらしいと聞いたときにも思ったが、出会ってみたいような、そうでないような複雑な気持ちだ。
「ちょっと見たいけど、この庭に来るのだけは勘弁して欲しいな」
「確かに」
アンネが笑って言って、皆で鍛冶場に戻った。
俺達は普通の製品作りに専念することにした。一般モデルはサーミャたちで作れるのでそこは任せて、高級モデルを俺とリケで作っていく。
「心なしかまた精度が上がった気がする」
出来上がったナイフの1本を確認しながら俺は言った。高級モデルは一般モデルよりもかなりよく切れる。
なので、普段から剣などの武器を含めた、刃物を普段からよく扱っている職業の人――兵士や料理人など――をターゲットにしたものになっている。
とはいえ、切れ味が良すぎて危ないことに使うのが便利なのもな、ということで、チートをフルに使った特注品よりは性能を落として作っているのだが、今作ったものは割と特注品に近くなっているような気がする。
俺が窓から入ってくる陽の光にかざすようにしていると、横からリケが覗き込んだ。
「おー、とても良いですね!」
キラリと光るナイフに負けず劣らず目を輝かせて、リケは言った。
「うーん、やっぱりそうか」
「浮かぬ顔ですね」
「あまり良いもの過ぎてもな……」
「なるほど」
リケは頷いた。製品が出回ること自体についてはもう考えないことにしたが、なんでもかんでも流していいというものでもあるまい。と、俺は考えている。
「このくらいなら、いつもより出来が良い、で済ませられるから、こいつはこのままにしておこう。次から気をつけるよ」
「別に構わないと思うのですが……わかりました! 良くなりすぎてると思ったら言いますね!」
「理由のわからない注意だが、頼んだ」
出来が悪い、ではなく出来が良いことで弟子からアラートが上がってくるのである。
その変な話に俺は思わず噴き出し、リケも同じことに思い至ったのか、同じように噴き出すのだった。