ミリヒ?
まるで熱烈な告白みたいなことを言い出すから、首を傾げてしまう。
「大丈夫だよ、おれはもう、この世界にしか居場所はないんだろ? ちゃんと、わかってる……ここにいるよ。ここで『世界』のために祈る」
「祈りなんて、二の次でいい」
握ったおれの手に口づけて、ミリヒがとんでもないことを言った。
「は?」
「ジュタがいてくれることの方が大事だ」
「だってミリヒは、『世界』の為に、おれを呼び戻したんだろ?」
二回目にこの世界に来てから、何度もそう聞いた。
『世界』がおれを望んだんだって。
だから『聖女』の仕事はしなくていいから、ここで穏やかに暮らして『世界』のために祈ってくれって、おれに何度もそう言ったのは、ほかならぬミリヒだ。
「呼び戻したのは確かに『世界』がジュタを気に入って、ジュタに祈りを捧げて欲しがったからだ。だけど、ジュタと一緒にいたいと思ったのは、ぼくだ。呼び戻してあとは放置しておくことだってできた。でも、ジュタの世話をしたかったんだ。少しでも一緒にいたいと思ったんだよ」
はくって口だけが動く感じがして、息だけがでた。
だってそんなのおかしい。
息だけじゃ伝わらないって思って、懸命に声を出した。
「そんなのおかしいだろ……まるで……まるで、ミリヒがおれのこと……好きみたいな……」
だって、おかしい。
ミリヒは『世界』が最優先の人のはず。
必死に問い返したおれを優しい目で見つめて、ミリヒはまた涙をこぼした。
「好きだよ」
おれの手に何度も口づけて、もう片方の手でおれの髪を撫でつけて、ほろほろと涙をこぼしながら、ミリヒが言う。
「君が好きだ」
「うそ……」
「嘘なものか。確かに呼び戻したのは、『世界』の為だった。でも、ぼくは君が好きだ。君と過ごせるのを、どれだけぼくが楽しみにしていたのか、知らないだろう?」
ミリヒが、まっすぐにおれの目をのぞき込む。
視線に温度があるんじゃないかってくらいに、おれの顔がホカホカしてくる。
ここにちゃんとおれがいるのを確かめるようにおれを撫でる手が、震えていた。
「ぼくらは勝手なことばかり言っている。『世界』も、王宮も、ぼくも。君はもっと荒れたっていいし我儘を言っても良かったんだ。なのに君が望んだのは、身のことだけだ。初めはイルス王と相愛でいること、イルス王が息災であること。次に呼び出されてからは、ただ穏やかにいること。ぼくはね、そんな君の望みをかなえたくなったんだよ」
おれの手に口づける唇も、かすかに震えている。
「君の印が消えるのを、心待ちにしていたんだ……ぼくたちは……ぼくは、君にあまりにたくさんを求めているって、ちゃんと知っていたから。まだ、イルス王に気持ちが残っているなら無理強いはしちゃいけない。気持ちが落ち着くのを待たなくちゃいけないって。でもそうじゃないならお願いだ、ぼくを見て。誰よりも幸せにする。どんな君でも見失ったりしないから……だから、ぼくを見て」