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第17話 熱烈

 ミリヒ?

 まるで熱烈な告白みたいなことを言い出すから、首を傾げてしまう。


「大丈夫だよ、おれはもう、この世界にしか居場所はないんだろ? ちゃんと、わかってる……ここにいるよ。ここで『世界』のために祈る」

「祈りなんて、二の次でいい」


 握ったおれの手に口づけて、ミリヒがとんでもないことを言った。


「は?」

「ジュタがいてくれることの方が大事だ」

「だってミリヒは、『世界』の為に、おれを呼び戻したんだろ?」


 二回目にこの世界に来てから、何度もそう聞いた。

 『世界』がおれを望んだんだって。

 だから『聖女』の仕事はしなくていいから、ここで穏やかに暮らして『世界』のために祈ってくれって、おれに何度もそう言ったのは、ほかならぬミリヒだ。


「呼び戻したのは確かに『世界』がジュタを気に入って、ジュタに祈りを捧げて欲しがったからだ。だけど、ジュタと一緒にいたいと思ったのは、ぼくだ。呼び戻してあとは放置しておくことだってできた。でも、ジュタの世話をしたかったんだ。少しでも一緒にいたいと思ったんだよ」


 はくって口だけが動く感じがして、息だけがでた。

 だってそんなのおかしい。

 息だけじゃ伝わらないって思って、懸命に声を出した。


「そんなのおかしいだろ……まるで……まるで、ミリヒがおれのこと……好きみたいな……」


 だって、おかしい。

 ミリヒは『世界』が最優先の人のはず。

 必死に問い返したおれを優しい目で見つめて、ミリヒはまた涙をこぼした。


「好きだよ」


 おれの手に何度も口づけて、もう片方の手でおれの髪を撫でつけて、ほろほろと涙をこぼしながら、ミリヒが言う。


「君が好きだ」

「うそ……」

「嘘なものか。確かに呼び戻したのは、『世界』の為だった。でも、ぼくは君が好きだ。君と過ごせるのを、どれだけぼくが楽しみにしていたのか、知らないだろう?」


 ミリヒが、まっすぐにおれの目をのぞき込む。

 視線に温度があるんじゃないかってくらいに、おれの顔がホカホカしてくる。

 ここにちゃんとおれがいるのを確かめるようにおれを撫でる手が、震えていた。


「ぼくらは勝手なことばかり言っている。『世界』も、王宮も、ぼくも。君はもっと荒れたっていいし我儘を言っても良かったんだ。なのに君が望んだのは、身のことだけだ。初めはイルス王と相愛でいること、イルス王が息災であること。次に呼び出されてからは、ただ穏やかにいること。ぼくはね、そんな君の望みをかなえたくなったんだよ」


 おれの手に口づける唇も、かすかに震えている。


「君の印が消えるのを、心待ちにしていたんだ……ぼくたちは……ぼくは、君にあまりにたくさんを求めているって、ちゃんと知っていたから。まだ、イルス王に気持ちが残っているなら無理強いはしちゃいけない。気持ちが落ち着くのを待たなくちゃいけないって。でもそうじゃないならお願いだ、ぼくを見て。誰よりも幸せにする。どんな君でも見失ったりしないから……だから、ぼくを見て」




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