色素が薄い儚い見た目と同じように、静かな人だと思っていた。
そのミリヒが、ぼろぼろと泣きながらおれに愛を乞うなんて、想像もしてなかった。
踏ん切りがついたら、おれはきっとミリヒのことを好きになるだろうから、そしたら思いっきり片思いしようって、そう思っていたのに。
「うれしい」
だから、傷で動きにくいけど、精一杯伸び上がってミリヒにすり寄った。
「ジュタ?」
「すっきり踏ん切りがついたら、おれから言おうと思ってたんだ……だから、嬉しい……」
「言うって……ジュタ?」
「好きだよ。痣はまだ残っていたけど、でもおれは、ミリヒのこと好き」
誰かに『好きな人は誰?』って問われたら、きっとおれは、ミリヒの名を答える。
イルスじゃなくて、ミリヒだと、即答すると思う。
傷に障らないようにって、必死におれを抱き留めてくれるミリヒの唇に、噛みついた。
涙の味。
温かくて柔らかい唇。
はむって噛んで放したら、ぎゅって抱きなおされて後頭部を抑え込まれて、激しいキスになだれ込んだ。
ミリヒの舌がおれの口の中を暴れまわる。
唾液が流し込まれて、唇を吸われて、声も呼吸も飲みこまれた。
待って、待って、苦しい!
痛い!
傷が痛くてミリヒの背中をたたいて訴える。
唇が離れるとき、ちゅぱって音がした。
「痛いよ、ミリヒ」
「ごめん……ちょっと暴走した……嬉しすぎて……」
むうってミリヒを見た。
髪はぼさってなっててちょっとやつれた感じだけど、目はウルってなってて頬はいい色で、唇がとっても美味しそうになってる。
普段はいかにも妖精族ですって涼し気な感じだから、こんなミリヒは初めてで嬉しい。
「ミリヒ、かわいい。続きは、また今度、な」
おれは嬉しくてミリヒにすり寄る。
「また、暴走したらごめん」
「あ、でも、男では初めてだから、お手柔らかにお願いします」
「ジュタ! どうしてそう、わざわざ!」
俺を抱きかかえて悶絶する様は、妖精族にはあるまじき姿なんだろうけど、すごくかわいい。
何度も世界を行き来して、流されて失って、どうしようもなく寂しくて。
でも。
なあ、『世界』。
おれが祈るだけでご機嫌になるなら、いくらでも祈ってやる。
だから今度は……今度こそは、おれが幸せになってもいいだろ?
見たことも感じたこともない相手だけど、たぶん、ミリヒとの幸せは叶えてもらえると思うんだ。
だって、ミリヒは『世界の守人』だからさ。
優しい腕に抱きしめられて、おれはもう過去の夢を見て泣くことはないんだろうなって、ほっと息をついた。
end