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第18話 もうなかない

 色素が薄い儚い見た目と同じように、静かな人だと思っていた。

 そのミリヒが、ぼろぼろと泣きながらおれに愛を乞うなんて、想像もしてなかった。

 踏ん切りがついたら、おれはきっとミリヒのことを好きになるだろうから、そしたら思いっきり片思いしようって、そう思っていたのに。


「うれしい」


 だから、傷で動きにくいけど、精一杯伸び上がってミリヒにすり寄った。


「ジュタ?」

「すっきり踏ん切りがついたら、おれから言おうと思ってたんだ……だから、嬉しい……」

「言うって……ジュタ?」

「好きだよ。痣はまだ残っていたけど、でもおれは、ミリヒのこと好き」


 誰かに『好きな人は誰?』って問われたら、きっとおれは、ミリヒの名を答える。

 イルスじゃなくて、ミリヒだと、即答すると思う。

 傷に障らないようにって、必死におれを抱き留めてくれるミリヒの唇に、噛みついた。

 涙の味。

 温かくて柔らかい唇。

 はむって噛んで放したら、ぎゅって抱きなおされて後頭部を抑え込まれて、激しいキスになだれ込んだ。

 ミリヒの舌がおれの口の中を暴れまわる。

 唾液が流し込まれて、唇を吸われて、声も呼吸も飲みこまれた。

 待って、待って、苦しい!

 痛い!

 傷が痛くてミリヒの背中をたたいて訴える。

 唇が離れるとき、ちゅぱって音がした。


「痛いよ、ミリヒ」

「ごめん……ちょっと暴走した……嬉しすぎて……」


 むうってミリヒを見た。

 髪はぼさってなっててちょっとやつれた感じだけど、目はウルってなってて頬はいい色で、唇がとっても美味しそうになってる。

 普段はいかにも妖精族ですって涼し気な感じだから、こんなミリヒは初めてで嬉しい。


「ミリヒ、かわいい。続きは、また今度、な」


 おれは嬉しくてミリヒにすり寄る。


「また、暴走したらごめん」

「あ、でも、男では初めてだから、お手柔らかにお願いします」

「ジュタ! どうしてそう、わざわざ!」


 俺を抱きかかえて悶絶する様は、妖精族にはあるまじき姿なんだろうけど、すごくかわいい。


 何度も世界を行き来して、流されて失って、どうしようもなく寂しくて。

 でも。


 なあ、『世界』。

 おれが祈るだけでご機嫌になるなら、いくらでも祈ってやる。

 だから今度は……今度こそは、おれが幸せになってもいいだろ?

 見たことも感じたこともない相手だけど、たぶん、ミリヒとの幸せは叶えてもらえると思うんだ。

 だって、ミリヒは『世界の守人』だからさ。


 優しい腕に抱きしめられて、おれはもう過去の夢を見て泣くことはないんだろうなって、ほっと息をついた。


end




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