抜き去った聖剣は光を集めたように光り輝いた。
天が裂け、光が降りる。雷が鳴り響き、辺りは天変地異のような騒々しさと荒々しさに満ちる。
「なに!」
「女王!」
切りつけたその切っ先から、光の刃が伸びて女王を虚空へと押し返す。
ロッシュの瞳には、強い意思があった。
「……そう、貴方も抗うのね」
悲しげに、女王は呟く。
そして、光が乱舞する天を見上げて、憎らしげに舌打ちをした。
「どん底に落としたまま、私の手に委ねるでもない。人に希望を見せるだけ見せて、甘やかすのでもない。何を考えているのかしらね、ベルーン」
騒々しい場所を逃れるように、女王は夜に溶けて消えていく。
空はいっそう騒々しく、光は辺りを巻き込んで真昼よりも明るくなる。
そしてその光の道を、一人の男が降りてきた。
『ほぉ、目覚めたか』
男はふてぶてしい態度でロッシュを見下ろす。
それに負けぬよう、ロッシュも男を睨み上げた。
ロッシュには分かっていた。この男の正体が。
「全ての人が絶望に沈んだ。多くの勇士が倒れた。これだけの命と嘆きにすら耳を貸さぬ貴方が今頃何用だ、主神ベルーン」
『私を創造主と知っての暴言とは、人の王も偉くなったものよ』
主神ベルーンはロッシュを見下ろし、笑みを浮かべる。
神を恐れぬ彼の姿が気に入ったのか、腕を組んで白い髪を指で遊ぶ。
そして、身を屈めてロッシュの顔をマジマジと覗きこんだ。
『他に、言いたい事はあるか』
「……もう、全てが遅い。散った命は戻らない。受けた傷は消えない。この世から楽園は消えた。貴方が傍観しているうちに人の心は絶望した。今更現れ、貴方は人に何をさせようというのか」
『確かに、少々遅参が過ぎたようだ。これではこの世も人も氷付けになるな』
「なに!」
自分は関係ないと言わんベルーンの言葉に、ロッシュは激昂して掴みかかる。
憎しみの宿る鳶色の瞳は、可能ならば目の前の男を殺す勢いがある。
それを見つめ、ベルーンは口の端を吊り上げた。
『まぁ、お前達は唯一の希望だ。労おうではないか』
「なに?」
鋭いまま、ロッシュは問う。
ベルーンは掴みかかるその手を軽く払い落として、腕を組み高慢なままに契約を口にした。
『お前が見事レンカントを滅ぼしたならば、その功績を認めお前の願いを一つ叶えてやろう。何でもいいぞ。この世を楽園に戻す事も、お前の育ての兄を生き返らせる事も』
その言葉に、ロッシュは衝撃を受ける。
そして、手にした剣をマジマジと見つめ、その後でグラディスを見た。
痛みや苦しみに身動きも取れず、気を失っている彼を。
『よく考える事だな』
その言葉を残し、ベルーンは再び光の中に消えていく。
騒々しさが嘘のように静まって、辺りはまた月のない夜に戻っていった。