「ロク姉ちゃん、スマイル五個」
私は慣れないバイト先で、目の前の少年に引きつった笑いを提供した。
何だ、このクソバイト。
金稼ぐってホント大変だな。
死にてー。
「つか、毎度スマイルだけ頼むな。何か買えし。あと五個とかおもしろくないし殺すぞ」
「金ねーし。つか、ナチュラルに客を脅すなし!」
施設時代に一緒だったタダアキが、ニカっと白い歯を見せて笑った。
中学になって少年野球のチームに入ったらしく、焼けた肌に坊主頭がよく似合う。
以前は小学生で小さかったのに、今じゃ私より背も高い。
昔はあんなにかわいかったのに。
あーあ、こんなになっちまって。
ま、私みたいにグレなかっただけ及第点か。
「姉ちゃん話しやすくなったよな。今のがいいと思うよ。あ。あと今度、施設に遊びに来なよ」
「だから、いかねーっつの」
「じゃ、俺がまた来る」
「もう来るな」
私は背を向けたタダアキを呼び止めた。
「忘れもん」
振り返ったタダアキに、好物のベーコンレタスバーガーを投げつける。
今日も来ると思って用意しておいたのだ。
タダアキはさすが野球部。
暴投バーガーも物ともせずキャッチ。
不思議そうな顔でこちらを見ていた。
驚くタダアキに、何と声をかけるべきか迷う。
自分でもラシクナイと思って頭を掻く。
自分が持つ言葉じゃあ、どれも響足りない気がした。
だから――誰かの言葉を借りることにした。
「お前は、よく頑張ってるよ」
タダアキはもう一度ニカっと笑って、店を後にした。
生きていてもいいことなんてない。
それでも、生きていかなければならない。
生きていかなければならない。
それなら――。
格好よく生きようじゃあないですか。
つづく