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第1部 8話 エピローグ

「ロク姉ちゃん、スマイル五個」


 私は慣れないバイト先で、目の前の少年に引きつった笑いを提供した。

 何だ、このクソバイト。


 金稼ぐってホント大変だな。

 死にてー。


「つか、毎度スマイルだけ頼むな。何か買えし。あと五個とかおもしろくないし殺すぞ」

「金ねーし。つか、ナチュラルに客を脅すなし!」


 施設時代に一緒だったタダアキが、ニカっと白い歯を見せて笑った。

 中学になって少年野球のチームに入ったらしく、焼けた肌に坊主頭がよく似合う。


 以前は小学生で小さかったのに、今じゃ私より背も高い。

 昔はあんなにかわいかったのに。


 あーあ、こんなになっちまって。

 ま、私みたいにグレなかっただけ及第点か。


「姉ちゃん話しやすくなったよな。今のがいいと思うよ。あ。あと今度、施設に遊びに来なよ」

「だから、いかねーっつの」

「じゃ、俺がまた来る」

「もう来るな」


 私は背を向けたタダアキを呼び止めた。


「忘れもん」


 振り返ったタダアキに、好物のベーコンレタスバーガーを投げつける。

 今日も来ると思って用意しておいたのだ。


 タダアキはさすが野球部。

 暴投バーガーも物ともせずキャッチ。


 不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 驚くタダアキに、何と声をかけるべきか迷う。


 自分でもラシクナイと思って頭を掻く。


 自分が持つ言葉じゃあ、どれも響足りない気がした。

 だから――誰かの言葉を借りることにした。




「お前は、よく頑張ってるよ」




 タダアキはもう一度ニカっと笑って、店を後にした。



 生きていてもいいことなんてない。


 それでも、生きていかなければならない。


 生きていかなければならない。


 それなら――。




 格好よく生きようじゃあないですか。












 つづく



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