店内はどのコーナーも人が多かった。
アクセサリー、日用品、書籍とどこを巡っても視界に数人はいる状態だった。
「もうちょっと人の少ない日に行けばよかったな」
「休日だと難しいと思うけど。放課後は皆の予定合わなかったし」
「ならもうちょっと人を減らせばよかったな」
「そこはかとなく物騒なこと言ってるように聞こえたんだけど、どういうこと?」
「そこはほら、まあアレだよアレ。ちょっと察してほしいというか」
「言葉濁してる時点で悪意しか感じないよ」
「まあアレだ、わかんないなら気にすんな」
「気になって夜も眠れなくなりそうなんだけど……」
安達が俺から一歩ほど距離を置いた。このまま物騒なことを呟いていれば安達が最終的に地平線の向こうまで離れてくれるんじゃなかろうか。
俺が心に淡い期待を抱いていると、
「ちょっと休んでいかない?」
安達が俺の服をつまみベンチの方を指で示した。
広い通路の真ん中にどっしりと構えており、全体がマットのように軟らかく反発しそうな素材でできているベンチだった。
周りに人は多いものの、不思議と腰掛けている人はいなかった。
「おお、安達は休憩していいぞ。その間俺は他のコーナー見て回るから」
「君は何としても一人になりたがるよね……」
「おう。安達にはその姿を幾度となく見せてきたはずだが」
「何偉そうにしてるのさ」
安達が俺の服を引っ張ったままベンチにシットオン。そうなると俺も必然安達に体勢を合わせることになり隣へシットオン。
結果、二人でベンチを占領することに。
「あれ、俺の話聞いてた? 俺はまだ見て回るつもりなんだが」
「そのまま雲隠れする恐れがあんのに認めるわけないよね」
「ハハハ、そりゃ昔の話だ。さすがに今は懲りたし反省したし二度としないと誓ってるさ」
「ものすごーく口だけ、て雰囲気がするんだけど……」
安達はまだ俺の服を引っ掴んでいた。
「離した後に逃げたりしないでね」
「信用ないな」
「信用を裏切るシーンを幾度となく見てきたからね」
「どうせ逃げたら加賀見が見つけそうだしな」
アイツからは逃れられる気がしない。一年のときに嫌というほど思い知らされた。
「マユちゃんが一緒にいてよかったよ、ホント……」
安達から、俺の服が解放された。これで晴れて自由の身だ。
「それにしても、ここ座り心地いいね」
「結構軟らかいな」
もうちょっと硬いのを想像していたが、厚めの座布団ぐらいにはフカフカしていた。
「ウチの高校にもこういうベンチ置いてくれるといいんだけどな」
「私もそうだといいなって思うけど、やっぱ難しいんじゃない? 置き場所とか」
「だだっ広い校庭なら沢山置けるだろ」
「球技とかできなくなっちゃうでしょ」
「そのときは都度どかせばいい」
「いろいろとムダ過ぎるよ」
安達は両手の平をベンチの座る部分にくっつけている。
俺はスマホをいじりつつ、安達の会話に付き合っていた。
スマホの方に突然メッセージの新着通知が届いた。
内容を確認すると、
「黒山君はもうサッちゃんへのプレゼントに当たり付けた?」
という本文とともに意外な人物の名前が差出人の欄に記されていた。
「……口頭で直接聞けばいいだろ」
メッセージを送りつけたお隣の安達さんのいる方を振り向く。
安達の方は自身の正面に差し出したスマホを見つめているため、俺からは安達の顔が真横に映った。
安達の額・鼻・顎を形作る曲線と透き通るような白い肌が博物館に飾られる西洋の人物画をイメージさせた。
「黒山君スマホを見るのが大好きみたいだからさ。こっちの方が気付きやすいと思って」
安達がまたもメッセージで返信する。顔の向きも変えないまま舌をペロンと出していた。
「スマホ見ながらでも普通に会話してただろ」
「うん。でもこっちの方が黒山君もやりやすいんじゃないの」
「いや全然。メッセージがスマホで遊ぶのを邪魔してる」
「それは残念。なら一旦スマホいじるのやめた方がいいんじゃない」
「お前が普通にコミュニケーション取ればいいだけだ」
「黒山君がスマホ見てる間はメッセージでコミュ取ろうと思います」
主張は平行線を
「わかったわかった。そろそろプレゼント選び再開しよーぜ」
俺はスマホをポケットの中に入れた。
安達も俺の様子を見た後、フッと小さく笑って同じくスマホを仕舞った。
「うん、じゃ行こっか」
ベンチから立ち上がる際、正面にあるインテリアのコーナーが視界に入った。
洋館の一室を