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第13話

「折原は真面目だな。で、合格祈願のお守りってどこだ?」


 先輩の言葉に物思いから引き戻される。神社の喧噪の中、朔也も人だかりの間からそれらを見た。


 受験シーズンだからだろうか、お守りは社務所の中でも一番混雑していた。だが、高身長の朔也は後方からでもお守りが見える。色とりどりに刺繍の施されたお守りたちは寒そうにぎゅぎゅっと詰め合うように並んでいた。「サクラサク」のイメージだろうか、ピンクの「合格祈願」を見つけて姉用にと手を伸ばす。


 こういうとき、背が高いと便利なんだよな。


 朔也が内心思ったことが伝わったのか、お守りが見えないらしい仲間から注文が入る。


「折原、俺にも青いの一つ」

「朔、私にも緑か黄色で」


 ちょっと笑いながらそれぞれを渡すと、次は自分用にと朱色の「心願成就」を一つとった。その隣に「学業成就」があり、ふと山宮のことが思い出される。今日も帰ってから宿題の解説をする約束だ。


 これ、山宮にどうだろう。休み明けに全校模試があるし、これを渡せば少しは点数あがったりして。


 一瞬そう思ったが、嫌味っぽいなと自分で打ち消した。だが、思いついてしまったのに買わないで帰るのもなんだか躊躇われる。


 せっかく来たのだから、なにか気持ち程度のものを。ぐずぐずと悩んでいる朔也の背中へ遠くから声が飛んできた。


「折原くーん?」


 部長の声に朔也は慌ててそちらを振り返った。混雑から離れたところで今井や先輩たちが神社の紙袋を手にしている。


「すみません! すぐ行きます!」


 山宮と言えば、マスク。


 とっさに紺色の「健康祈願」を手にしていて、朔也は全部で三つのお守りを買った。


「あっちで甘酒を配ってるみたいですよ」

「行ってみよう」


 先輩たちの後ろを歩き出すと、キャメル色のコートのポケットでスマホが振動した。山宮からメッセージが来ている。


『英語が意味フ。プリーズヘルプ俺』


 最後、なんで日本語にしたの。


 噴き出しそうになるのを堪え、毛筆体の「御意」のスタンプを送る。すぐさま『パねえ正月書き初め感』『何時代よ?』『秒速で令和の世に帰還しろ』と連続で返信が来た。下校放送のきれいな口調や音読とのギャップにまた笑い出しそうになる。


 朔也はスマホをしまうと、足取り軽く皆の後ろをついて行った。


 その日の夜「また明日」と電話を切ると、いそいそとお守りの入った袋を鞄にしまい、早めに布団に潜り込んだ。

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