帝国女将軍ヴィネガー、彼女は人造魔法兵といえる存在だ。
人間でありながら、幻獣の力を薬で注入された存在で、後天的に魔法の力を手に入れた実験体。
宰相ヴィーガンの卑怯な人質作戦や毒混入作戦の非道さを知り、帝国を裏切る事になる人物で、プレイアブルキャラクターの一人。
本名はヴィネガー・スライス・マリーネ、彼女の隠しアイテムであるヴィネガーのパンツはレアアイテムでコレを頭に被る兜にすると、全ての状態異常や属性に耐性が出来る。
だが、魅力と信頼が一気に0になってしまうというジョークアイテムともいえるモノで、しかも装備できるのは男だけというモノである。
縛りプレイの必須アイテムではあるが、これを頭に被る奴とはマジでお友達にはなりたくない。
まあそれはさておき、この女将軍ヴィネガー、今のところは帝国が非道な作戦に乗り出していないので特に問題も無く帝国軍人の中にいるはず。
というか、今頃ちょっと可哀そうな人体実験中かもしれない。
そうだなー、本編では幻獣の力を薬で注入されるシーンの回想シーンがかなりキツいもので子供には結構堪えるものがあったか。
まあそのシーン、薄い本ではよく使われたシチュエーションだがその件には今回触れない事にしておこう。
「おい、ヴィネガーは今どこにいる?」
「あの小娘でしたら、今頃魔法実験室かと思われますが」
「そうか、オレをそこに案内しろ」
「え? 殿下自ら行かれるのですか?」
このヴィーガンの狼狽えっぷり、どうやらオレに見られては困るものがあるのかもしれないな。
てか、小娘って……一応ヴィネガーって確か帝国将軍のひとりじゃなかったっけ?
あ、そういえば、まだこの世界って本編の物語の六年前だったっけ、という事は……まだヴィネガーは女将軍でも何でもない子供だったか。
まあいい、今のヴィネガーをオレの忠実な部下にしておけば、帝国を裏切る事も無く最後まで忠義を尽くしてくれることになるだろう。
なんせ、本編のヴィネガーは、一番良いタイミングで武器防具を与えておけば、そのシナリオの時点で裏切って敵になったりするもんだから、武器防具の良い状態で敵対してしまい全滅という事を二回三回やってくれたキャラだ。
なので彼女が敵対するシーンではその前に装備全部剥がしという選択肢をする事になるので、いざ敵対した際には全裸の女の子を数人がかりでフルボッコにするという何ともシュールな光景が繰り広げられることになるのだ……。
まあヴィネガーで検索すれば、ヴィネガー 裏切り、ヴィネガー 全裸、ヴィネガー パンツ、といった彼女にとっては不本意な検索ワードがサジェスト上位に出るような結果だ。
しーかーしー、今の時点では彼女は帝国将軍でも無ければ、裏切る要素のあるキャラでもない。
それなら今のうちにしっかりとオレの側から離れないようにしておくべきだろう!
オレは渋るヴィーガンから鍵を取り上げ、関係者以外立ち入り禁止の魔法実験ラボに足を踏み入れた。
後ろからはチルドとソイソスたんがついてきている。
まあもし何かあった場合は、チルドのフリーズバリアで身を守らせるか、ソイソスたんに魔法を使ってもらうためだ。
オレが足を踏み入れると、そこには透明の筒の中に全裸で液体の中に浮かぶ少女の姿があった。
ってか……なんだよこのお子様体型、オレの知っている女将軍ヴィネガーはもっとナイスバディの美女だったのに、オレはなんだかやる気が激減してしまった。
「で、殿下……なぜこのようなところに?」
「お前達、ここで一体何をやっているのだ」
「そ、それは……ヴィーガン様の命令で魔法兵の実験を……」
オレは炎剣スルトを振るい、無人の円筒の筒を割った。
「誰の許可で動いているだって? 宰相は皇帝よりも偉いのか?」
「そ、そんな事はありませんが……」
「いいか、すぐにその少女をそこから出して服を着させろ!」
「は、はいっ!! 承知致しました!!」
まったく、ここで変にヴィネガーを魔法漬けにするから後々の人格破綻に繋がるってのに、それなら彼女にはもっと効率的な魔法兵としての素質を開花させる方法があるんだっての。
……まあ、その方法が見つかるのは六年後の本編開始後の話なので、今は誰も知らないんだけどな、この話を知っているのはあくまでも本編プレイ済のオレだけって事だ。
オレは円筒から取り出させたヴィネガーを抱え、魔法実験ラボを後にした。
後でこの建物、閉鎖しておく必要があるな。
こんなモンよりもっと重要な施設が必要なんだから。
ヴィネガーはオレの命令で女官達に抱えられ、服を着替える為に別室に移された。
そして少し経って、ヴィネガーがオレの前に呼び出された。
「あ、あの……アタシ、どうなるんですか?」
「安心しろ、どうもしない。お前はこの帝国に必要な存在だからな」
「そう……ですか」
うーむ、コレが本編で男勝りの狂将軍と呼ばれたヴィネガーと同一人物はとても思えん。
彼女の得意技はバーサーク、狂戦士化だったからな。
魔法を全身に受け、全ての魔力を自らの力に変えながら相手が死ぬまで解けない狂戦士化、これが彼女のスキルだった。
今考えると……コレって、間違いなく魔法実験の失敗のせいじゃないのか!?
オペラ座での女優と入れ替わりの彼女は、帝国から少し離れ、薬の影響が切れかけていた時の状態でオペラに挑戦したから狂戦士化が使えない状態だったが、その際の彼女はとても大人しく、とても同一人物だとは思えるようなモノじゃなかった。
そうか、あの狂戦士化が薬で作られた彼女だったとすれば、この気弱な女の子が本来のヴィネガーの姿だったのかもしれないな。
それならそれでオレが彼女の理解者になれば、彼女は帝国から離れず、オレの野望の駒の一つになってくれるはずだ! よし、やってやる!
実は彼女にはバーサークと違った別のスペシャルスキルが存在する。
この後半で覚醒するスキルに比べれば、前半で使うバーサークがまるで使い物にならないのがよくわかる。
そう、そのスキルはオーラブレード。
魔力を集め、そのMPの高さが高いほど攻撃力になるチート技だ。
しかもこのスキルの凄い所は、彼女に魔法が吸い取られ、敵も味方も強力魔法が使えなくなるという事だ。
これは、ラスボスのアトミッククェーサーですら吸い取ってしまうので、最終決戦に彼女を入れておくと途端にヌルゲー化する程だ。
なお、これだけのスキルなので、攻撃のほとんどが魔法攻撃のソイソスたんを入れておくと、ソイソスたんが全くの役立たずになってしまう。
だからこのオーラブレードを使う場合は全員体力回復はエリクサーやメガポーション頼り、パーティーメンバーは魔法を使わない脳筋パーティーで押し切るしかなくなる。
そのオーラブレードは、後半シナリオで会得するのだが、その方法は遺跡に行かないと分からない。
しーかーし、オレはその遺跡がどこにあるのかわかっているので、今ここで下手に人格破綻のバーサーカー魔法兵を作られるくらいなら、もっと彼女に合った成長方法を進めた方が良いのだ。
というわけでオレは彼女を女サムライのマヨに預ける事を考えた。
マヨは本名をマヨ・オオモリという東方の島国出身の女剣士だ。
彼女ならこのヴィネガーを立派な戦士に育ててくれるはず。
そして、オレはこのマヨが何が好きかをよく知っている。
そう、彼女は何よりも食事が好きなのだ。
だから、帝国の美味い食材を彼女に与え、そしてなおかつ転生前の現代の料理方法で味付けをすれば確実に餌付けする事が可能!
よし、次に向かうのは東方の島国だ。
その為には飛行船を早く遺跡に行って掘り起こさないと。
オレは一度玉座に戻り、今後の計画を部下に伝える事にした。