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第21話 餌付け



「ここがレブルの部屋か!」



 部屋に到着するなり、ククリちゃんは肩車から飛び降りて部屋を走り回る。

 その姿は10歳どころか、5歳くらいの子どものように見えた。



「そんなに走り回ったら危ないよ」


「ダイジョブだぞ! ……っと!?」



 言った傍から、ククリちゃんが足を机にぶつけてしまう。



「ちょ、大丈夫ククリちゃん!?」


「ん? ダイジョブだぞ?」



 僕が慌てて近寄ると、ククリちゃんは何を大げさにとでも言うような様子だ。

 痛くなかったのだろうかと見てみると、ククリちゃんの足には傷一つついていなかった。

 代わりに、机の角が少し凹んでいる。



(結構頑丈そうな机なのに……)



 この頑丈そうな木の机を凹ましたということは、ククリちゃんの耐久力は少なくともこれ以上ということになる。

 ステータスはまだ確認していないが、この分だと相当高そうであった。



「まあ、無事なら良かったよ」



 そう言って頭を撫でると、ククリちゃんは再び嬉しそうに目を細める。

 撫でられるのが好きなのだろうか? ともかく可愛い……



「そうだ、ククリちゃん、コレ食べる?」


「コレってなんだ?」


「え~っと、多分クッキーかな」



 机の上には、クッキーの詰まった缶が置いてあった。

 前世にはこんなのなかったのに、魔王軍にはあるらしい。

 というか、どこから流通してるんだろうコレ……



「うまいのか!?」



 ククリちゃんが目を輝かせて尋ねてくる。ハイ可愛い。



「うん。ちょっと甘すぎるかもしれないけど」


「甘いのか!?」


「うん。はい、あーん」


「あーん!」



 ククリちゃんの大きく開けた口にクッキーを放り込む。

 瞬く間に咀嚼したククリちゃんは、目を輝かせて次を要求してくる。



「あーん!」


「はいはい、あーん」



 なにこの子、本当に可愛いんですけど。お持ち帰りしたい。……あ、もう持ち帰ってた。

 僕はこの可愛い生物を餌付けすべく、しばしクッキーを与え続けた。



「ん~、うまいぞ!」


「それは良かった……っと、サムソンもいる?」



 ククリちゃんに集中し過ぎて、サムソンのことをすっかり忘れていた。

 なんだか悪い気がしたのでサムソンにもクッキーを勧めてみる。



「い、いいんですか?」


「いいよ。まあ、サムソンには物足りないかもだけど……」



 クッキーのサイズは、前々世で一般的に売られていたクッキーとほぼ同じサイズだ。

 僕よりも二回りは大きいサムソンには小さそうである。



「そ、それじゃあ、頂きます。あーん」


「うぇっ!? えっと、あーん?」



 なんとサムソンが、ククリちゃんと同じようにあーんをしてくる。

 流石に少し引いてしまったが、ここまできてしないのもどうかと思うので、素直にあーんに応えることにした。



「っ!? これ、美味しいです!」


「そう? ならここから自由に取って食べていいよ」


「ありがとうございます!」



 もう一度あーんを求められても困るので、サムソンには自由に取るよう促す。

 サムソンは嬉しそうに缶から直接クッキーを食べ始めた……のだが、それをククリちゃんまで真似し始めてしまった。



(ああ、僕の至福の時が……)



 まだ餌付けを楽しんでいたかったが、今さら止めても不興を買うだけだろう。

 僕は大人しく二人が満足するのを待つことにした。



 コンコン



 しばし二人の様子を眺めていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 どうやら、先程呼んだ二人が来たようだ。



「どうぞ、入ってください!」



 僕がそう声をかけると、ドアを開いて二体のゴブリンが入ってきた。

 彼らは僕が下級居住区で契約した、ゴブリンアーチャーのスケさんとカクさんである。



「ようこそ、スケさん、カクさん」


「ど、どうもです。レブル様……」



 二人は恐縮した様子で部屋をきょろきょろと見回している。



「ん? どうしたの? この部屋が気になる?」


「き、気になるというか、幹部の部屋なんて初めてでして、その、ちょっとビビっていやす」


「ああ、そういうこと。大丈夫だよ。別にこの部屋には危険なモノとかないから」



 そんなモノがあったら、僕自身が落ち着かない。

 むしろ、何かそういった物を見つけたら教えて欲しいくらいだ。



「とりあえず全員集まったことだし、これからのことについて話し合おうか」



 丁度クッキーも底を尽きたようだし、本題に移らせてもらうとしよう。





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