少しのぼせつつも風呂から上がり、ククリちゃんのことをタオルで拭く。
最初は恥ずかしいと思っていたのに、今となってはほとんど無心でやれていることに自分でも驚きだ。
「大丈夫? もう濡れてる所ない?」
「おう!」
「じゃあ、これ着てね」
「これはなんだ?」
「ククリちゃん用の寝間着だよ」
「寝間着?」
「寝る時に着る服だよ?」
「いつものやつは?」
「いつものは洗濯中。キレイにしておくから、とりあえず今はコレを着てね」
「わかったぞ!」
今まで着ていた服に愛着があって断られるかと思ったけど、その心配はなかったようだ。
洗濯に関しては、あとで僕の服とまとめて衛生管理係の人にお願いしておこう。
「じゃあ、お風呂にも入ったことだし、そろそろ部屋に戻って眠ろうか?」
「うー、まだ眠くないぞ!」
そりゃそうだろう。なんたって午前中からつい先程まで寝ていたのだから、眠気がないのも当然と言える。
「うーん、じゃあもう少しだけ部屋で遊んでく?」
「おう!」
部屋クローゼットには、なにやら使用用途のわからないトレーニンググッズのようなものがある。
ククリちゃんが気に入ったみたいなので、暫くはソレで遊んでもらっていればいいだろう。
その間に、僕はさっき考察した運用の書き出しと、明日の詳細スケジュールをまとめることにする。
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…………………………
………………
「すぴー……」
「……嘘でしょ」
ククリちゃん寝ちゃったよ!
さっき全然眠くないって言ってたのに!
やはり子供だからなのだろうか?
寝る子は育つというし、良いことだとは思うけど……
(どうしよう……)
普通に考えれば、このまま抱きかかえて彼女の個室に連れて行ってあげるのがいいのだろうけど、起こしたりすると可哀そうな気もする。
かといって、このままにしておくのも……
(……でもやっぱり、寝るなら自分の部屋の方がいいよね)
そう思い、僕はククリちゃんをお姫様だっこするように抱きかかえる。
「ん……、レブル……?」
すると、眠りが浅かったのか、ククリちゃんが目を覚ましてしまった。
……ちょっと悪い気もしたが、目覚めてしまったものは仕方がない。
「起こしちゃってゴメンね。でも、ここで寝ちゃうとマズいから、部屋に帰ろうか」
「……やだ」
やだって……、そんなことを言われてもなぁ……
「でも、ちゃんと自分の部屋で寝ないと……」
「やだ! 俺はここで寝る!」
「そんな……、駄目だよ流石に……」
「なんでだ!」
なんでと言われても、倫理的にとしか言いようがない。
さっきの風呂だって冷静に考えればアウトなのに、一緒の部屋で寝たりなんかしたらどう考えてもマズいだろう。
僕は誓って幼女に欲情する趣味はないが、体面というものがある。
魔物達にロリコンという概念が存在するかはわからないが、そういう趣味だと思われるのはとても宜しくない。
「えっと、ククリちゃんにはちゃんと自分の部屋が用意されているんだし、そこで寝るのは当たり前でしょ?」
「あそこは俺の部屋じゃない! 親父の部屋だ!」
それはそうなのかもしれないけど、ククリちゃんの部屋であることも間違ないハズだ。
「……なのに親父はいないから、俺はずっと一人なんだぞ」
っ!?
え、何、もしかしてククリちゃん、寂しがってるってこと?
だから僕の部屋で寝たいと?
確かに、彼女の精神年齢は、実年齢よりも遥かに幼いだろう。
しかしまさか、そんなに寂しがっているとは思わなかった。
……いや、さっきまでのククリちゃんの言動や行動を思い出すと、そんな節は確かにあった。
なるほど……、自分の部屋に戻りたがらなかったのは、そういうことだったのか……
「え~っと、そうだね。僕も一人だし、ちょっと寂しいかな」
「っ!? 寂しいのか!? じゃあ、俺が一緒にいてやるぞ! 俺は寂しくないけど、レブルは俺の上司だからな! 上司が寂しそうにしているのはほっとけないぞ!」
「は、ははは……」
ど、どうしよう! ポロっと出た言葉が拾われてしまった!
この流れでやっぱり寂しくないというのはアレだし、かといって無理やり部屋に帰そうとしてもグズられそうである。
「じゃあ、早速寝るぞ!」
「え、うわ、ちょっと、僕はまだ仕事が……」
「仕事はもうしたら駄目なんだぞ!」
そ、そうだった。僕は建前上仕事はしていないことになっていたんだった。
何か良い言い訳はないかと考えるが、中々良い案も浮かばず、ククリちゃんのパワーに引かれてどんどんベッドが近づいてくる。
「ほら、早く早く!」
「…………」
僕のことを引っ張りながら無邪気そうな笑顔を浮かべるククリちゃん。
その表情を見ていると、なんだか色々なことがどうでもよくなってきた。
(……いいか。もうまとめは粗方終わったし、今日はこのまま寝ちゃっても)
ククリちゃんと一緒に寝るという最大の問題さえ意識しなければ、寝てしまっても問題はない。
段々と思考が単純化されている気がしないでもないが、ククリちゃんの笑顔を守るためなら、バカになるのも悪くない。
……結局、僕はククリちゃんにベッドに引きずり込まれ、そのまま一緒に寝てしまうのであった。