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第44話 テホムパイオニア


聖ゴリル山の北山では、銀色のモンスターの影が猛然と突進していた。

それは九尾、すなわち聖ゴリル山で最後の、探索者とまだ正面から戦っていないモンスター。


精神の限界に近づきながらも、九尾は理性を振り絞り、ダンジョンの支配に抗って前進していた。


九尾は可能な限りペースを遅らせ、一番敵が少ない方向を選びながら進み続けた。

それでも、雷竜の巣穴はすでにその目の前に迫っており、突入するまであと一分もかからないことは確実だった。



一方、雷竜の巣穴内では、石川の目が驚きと焦りで大きく見開かれていた。

彼の手には、成否を分ける重要な水晶がしっかりと握られている。


目の前では、ダンジョンズコアが完全に金色に変わり、呼吸するようなリズムよく異様な光を放ち続けていた。


突如、ダンジョンズコアが爆発するように割れ、金色の光が一瞬で巣穴全体を包み込んだ。

その爆発的な空間の波動が巣穴を激しく震わせ、ダンジョンの核心を具象化した球体は、爆発と共に消え、代わりにワームホールのような光のポータルが現れた。

最初は手のひらほどの大きさだったその扉は、瞬く間に窓ほどの大きさに広がり、さらに膨れ上がっていった。


石川は仙人スキル「ガーディアンシールド」の強力な防御を使って、なんとかその衝撃を耐え抜くと、すぐに手にした水晶をポータルに投げ入れた。

彼の任務は、このエスパスクリスタル空間水晶を下層へ届くことだ。


が、水晶がポータルに呑み込まれようとしたその瞬間、突然、緑色の巨大な人型の手が現れた。


パチッ


まさに封印の鍵となる水晶が、その手に掴まれてしまった。



その光景を目の当たりにした石川は顔色を変え、背後の薙刀を引き抜き、怒声を上げながら突進した。


緑色の怪人の半身はすでにポータルから出ており、石川は全力で一撃を繰り出し、その肩口を斜めに斬りつけて殺すつもりだった。

しかし、石川の全力の一撃が相手の粗い皮膚に触れた瞬間、予想に反してその斬撃は弾かれてしまった。


緑色の怪人はポータルから完全に姿を現し、その身長は約2メートル。手足は長く、筋肉が発達しており、かなりの力を秘めた感覚を与える。

皮膚は細かい鱗で覆われ、目は人間の2倍ほどの大きさで、瞳孔は蛇のように細長く、黄緑色の不気味な光を放っていた。

鼻はなく、口の端は耳元まで裂け、頭には二本の羊の角が生え、背中には太くてしなやかな尻尾があり、その先端には鋭い刺がいくつもついている。


その姿は、石川に圧倒的な力と恐怖を感じさせた。

Gamma3級の強者である石川でさえ、全力で斬った一撃が相手の防御を打破できなかったことに、驚きと信じられない思いが渦巻いた。


(いくら下層のモンスターといっても、こんなに強いわけがない…)


石川が再び攻撃を仕掛けようとしたその時、その怪人が声を発した。

「ククク…愚かなミミズ人間ども…我はテホムパイオニア深淵先駆者、モモール。お前たちの世界は、これより深淵に支配される…ククク…ハハハハハ…」


その声を聞いて、石川は驚愕した。

まさか人間の言葉を話すとは。


しかし、驚きながらも、彼はその隙を逃さず、狂ったように突進し、刀を振るった。

(テホムパイオニアが何者かはわからないが、強いのは確かだ。 俺は何としてでも水晶を取り戻し、任務を完遂しなければならない。 命が代償だとしても…)


石川の薙刀が煌めき、その威力を増していった。

全力の攻撃がモモールに少しの威圧を与えることができたが、それでもモモールは微動だにしなかった。


モモールは怒りを顕にし、叫んだ。

「死にたいのか!」

モモールが話し始めたとき、まだ不明瞭だった言葉が今や明瞭に吐かれた。


シュッ

モモールは両腕で石川の薙刀を受け止め、その瞬間、背後にある尻尾をしなやかに振って無防備な石川の腹部に突き刺した。


石川が探索者協会の研究部が開発した高防御性の鎧を着ていても、攻撃の半分しか防げなかった。

石川の体は吹き飛ばされ、腹は尻尾に貫かれ、十数メートル先の壁に激突した。


「深淵の外にあるこんなに輝かしい世界が、お前ら弱い人類に占領されているのだなんて…不公平だな。 我は先駆者、我らの王の降臨を待っている。 お前は、我モモールの手で最初のいけにえとなり、供え物となる」


モモールの言葉が終わると同時、一筋の銀色の影が巣穴に飛び込んできた。

その速さに、巣穴の入り口で石川を待っていた龍太でさえ気づかなかった。


ついに、九尾は下層のポータルの前で立ち止まり、モモールをじっと見つめていた。

その目に浮かんでいた狂気の色が、徐々に薄れていった。


それはダンジョンズコアの変化が完了し、下層の扉が開かれたことで、上層のモンスターを操る能力を失ったための必然的な結果だった。


「我は一体……てか何この緑の奴、キモいし怖すぎる…あの服を着てない人間よりはマシだけど…。 家に帰りたい……」


このように、九尾銀狐が不意に現れたおかげで、重傷を負っていた石川はすぐにモモールに殺されることなく、壁に寄りかかりながら腹を押さえて立ち上がることができた。


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ダンジョンズコアがついに変異を遂げたその瞬間、ウェイスグロはまさに天変地異のような変化を迎えた。


数千、いや数万もの転送ポータルが至る所に現れ、その中には激戦が繰り広げられている戦場のど真ん中に出現したものもあった。


そこからは、異形のモンスターたちが続々と這い出してきた。

爬虫類のエイリアンのようなものや、恐ろしい鬼とか、悪魔のような姿をした奇怪な存在モンスターたちが、広がるポータルから次々と顔を出した。


その登場により、すでに圧倒的な優位を持っていた探索者たちは、突如として重圧を感じ、戦況は一変した。


ただ、唯一の救いは、ウェイスグロの上層で暴走していたモンスターたちが、次第に理性を取り戻し始めていたことだった。

特に、VII級以上のモンスターたち──知恵を持つ者たちは、予想外にも自ら撤退し始めていた。


だが、空間封印魔法陣の中心で杖を握りしめたニーセルの顔には、依然として険しい表情が浮かんでいた。

ウェイスグロの下層が開放されたにもかかわらず、彼女は依然として、空間封印魔法陣を起動させるべき重要な契機が訪れていないことに気づいていた。

つまり、下層に投下されるべき水晶が、まだ成功していない。

「石川と龍太、何かあったのか…」


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黒竜の素材を楽しく収穫していた最中、宮本は突然、頂上からの異変に気を取られた。

(嵐の雷竜の巣穴で、何か起きているようだな。 頂上のあの人影…龍太か? でも、龍太がどうしてあそこに…。 やっぱり何か起こっている)


激しく震える上方の巣穴を見つめると、そこから金色の光が時折突き出すのが見えた。

宮本は素材収集を中断し、じっとその様子に目を凝らした。


迷うことなく、宮本は動き出した。

彼の速度なら、もしモンスターの妨害がなければ、数十秒で巣穴の前に到達できるはずだ。


「宮本さん? どうしてここに…」

焦った様子で、龍太は突然目の前に現れた宮本に驚き、思わず声を上げた。

「それはどうでもいい」

宮本は鋭い気配を感じ取り、巣穴内に強力な存在が隠れていることを察した。彼は眉をひそめて言った。

「誰が巣穴にいる?」

「石川副隊長…僕たちの任務は……」


龍太は隠すことなく答えた。

目の前にいる宮本がどれほど強大な存在であるかを、彼はひしひしと感じ取っていたからだ。

宮本こそが、今、石川を支援できる唯一の人物だ。


龍太自身、戦闘力に自信があるわけではなく、もし石川の指示通りに行動していたなら、すでに1分前には単独で去っていたはずだ。


前後の状況を素早く把握した宮本は、決断を下した。

「君は先に離れろ、俺は中に入って確かめてくる。 安心しろ、石川くんを必ず連れて帰る」

宮本とはあまり深く接したことがない龍太だったが、この瞬間、彼から感じる強大な強さと信頼は疑いようのないものだった。


「…はい。どうか、くれぐれも気をつけてください」

機動力に優れた龍太は、決断力も早かった。


自分がここに残っても何の役にも立たない、むしろ足を引っ張るだけだと感じ、ひと声かけてから舞風船を使い、山の下へ飛び立った。


龍太が去ったのを見届けた宮本は、もうためらうことなく雷竜の巣穴へと突入していった。

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