雷竜の巣穴の奥深くで、モモールは口角に冷ややかな笑みを浮かべながら、地面に頭を埋めようとする九尾を一瞥した。
「ふーん、結局雑魚か。人間どもよりちょっと強いだけの劣等生物が、深淵モンスターである我々を止めようだなんて、笑わせてくる」
九尾は体を震わせながら、流暢とは言えない人間の言葉で必死に説明を始めた。
「そ…そうじゃないんです…我は…ぐるる…ただ通りすがりの…無害の子狐で…」
九尾は高ランクの狐族としての言語能力を活かし、四肢を見せずに体を丸め、静かに後退しながらこの危険な場所から早く離れようと必死に試みた。
モモールは、後退する九尾の動きに興味深そうに目を向けながら、いつの間にか黒い果実を取り出していた。
その果実は、「契約の実」と呼ばれる深淵特産の珍しいもので、モモールのようなテホムパイオニアですら、一つしか持っていない貴重な品だった。
この果実を食べたモンスターは、所有者によって支配され、深淵の生物たちはこれを使って高ランクの上級モンスターを使役することが多い。
九尾は見た目こそ臆病そうに見えたが、確実にIX級モンスターであり、X級に昇格する可能性を秘めた非常に優れたポテンシャルを持っている。
つまり、良いペットになり得る存在だ。
モモールはこのチャンスを逃すまいと、にやりと笑いながら言った。
「人間世界を侵略するためには、ちょうど仲間が必要だ。君、これを食べれば生きていられる」
モモールの声は冷徹で、果実を軽く投げると、漆黒の物質を含んだその果実は、九尾の前に飛んでいった。
命の危険を感じた九尾は、迷うことなく「あうぅ」と一声上げ、果実を飲み込んだ。
そして、大人しそうに微笑むモモールを見つめながら、心の中でこの気持ち悪い深淵生物を罵倒した。
「ハハっ!我の奴隷になれることは、貴様にとって光栄なことだ」
モモールは満足げに頷き、指先から黒い血を一滴絞り出した。
その血はまるで命を持つかのように、九尾の額に向かって飛んでいった。
その瞬間、風のような速さで宮本が突如として現れ、モモールと九尾の間に割って入った。
モモールが九尾との契約を結ぼうと放った血液は、宮本によって偶然に阻まれた。
(これは一体、何のモンスターだ…? 外見は人間に似ているが、人間じゃない…というか、あまりにもブサイクすぎる! 強そうには見えるが…実際は大したことないかもな)
(あれ? こいつ、前に逃げた九尾じゃないか? どうしてこいつも…?)
モモールは、九尾を支配しようとした自分の行動を邪魔され、激怒した。
無駄な言葉は一切発せず、体を一瞬で消すと、次の瞬間には宮本の前に現れ、鋭い爪を立てて彼を引き裂こうとした。
「愚かな人間よ、我こそはテホムパイオニア、モモールだ。我の前に立つ者は全部殺す!」
モモールの攻撃速度はまさに驚異的で、わずかな瞬きの間にその爪は空間を引き裂き、宮本を粉々にしようとした。
(人間の言葉を話せるモンスター、珍しいな!)
宮本は避けず動かず、モンスター化した竜牙双刃を交差させて軽く一振り、モモールの襲撃を完全に受け止めた。
しかし、目の前の醜いモンスターが予想以上に強いことに、宮本は驚愕する。
うっかりした隙に、未だモンスター化していない肩の皮膚が少し切られ、その血が飛び散った。
その血は、震えながら見ていた九尾の額に、偶然にも滴り落ちていった。
その光景にモモールは激怒し、攻撃の勢いが一気に凄まじくなった。
テホムパイオニアであるモモールの戦闘力はX級モンスターにも匹敵し、戦闘における知恵はX級を遥かに上回っていた。
さらに、他の上級モンスターにはない深淵特有の能力も持っていたため、その攻撃は黒竜をも超える威力を誇った。
宮本はその瞬間、倒れて意識を失っている石川を遠くに見つけ、モモールに対する冷徹な視線を送った。
最初はモモールとの「激戦」を楽しむつもりだったが、その興味をすっかり失ってしまった。
「石川くんを傷つけたのはお前だな」
戦闘中、宮本は冷ややかに問いかけた。
「ふん、あの見かけ倒しの大馬鹿者か。心配するな、貴様を殺した後、すぐにそいつもお前の後を追わせてやる!」
「なるほど、やっぱりお前か」
宮本の目が一層冷たくなる。
「もうこれ以上聞く必要はないな、お前を殺す」
「ハハハ!愚かな人げ……」
モモールがその言葉を続ける前に、突然「シュン!」という音が響いた。
空気を切り裂くような音とともに、黒い光の刃が現れた。
次々と、第二、第三、そして…第七の刃が現れた。
ほんの瞬きのうちに、無数の黒い光刃が空間を切り裂き、まるでこの空間そのものを引き裂こうとするかのように乱舞し始めた。
光刃が消えた後、数百の緑色の肉塊が空から降り注ぎ、1秒前まで生きていたモモールは、細切れにされて塵となった。
黒竜との戦いで培った経験を活かし、宮本は竜牙双刃の必殺技「黒竜断空斬」を完成させた。
この技は、モンスター化した彼の双腕が持つ恐るべき力と速度に、モンスター化した竜牙双刃の相乗効果を加え、高頻度の斬撃で空間を切り裂く破壊的な力を生み出す。
黒竜を討った際には、まだ技が完成していなかったが、今回は怒りに駆られた宮本がその技を完成させた。
結果、モモールは笑いながら細切れにされていった。
不規則な形をした水晶が、無数の死体の中で転がり落ち、宮本はその水晶を拾い上げた。
石川の傷ついた体を支えながら、宮本は彼を起こそうと試みた。
意識が朦朧とした状態で、石川は目を開け、無意識に戦おうとしたが、宮本の手が彼を押さえつけた。
「石川くん、俺だ、宮本だ。大丈夫か」
「宮本…宮本さん…どうしてここに…?」
「えっと…たまたま通りかかっただけ」
宮本は頭を掻きながら、どう説明すべきか一瞬迷った。
その時、石川は宮本の手に握られたエスパスクリスタルに気付き、急いでそれを手に取った。
重傷の体で、近くの下層へ向かうポータルに急ぎ足で向かっていった。
ポータルにその不規則な水晶が吸い込まれ、消えていくのを見届けると、石川はその場に座り込んだ。
「やっと…使命が終わった…。 宮本さん、全部あなたのおかげです!ありがとうございます!」