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第46話 封印と九尾


空間封印魔法陣の中心で、ニーセルは突如として放たれた空間の力に鋭敏に反応した。

その力は、冷たく、邪悪な気配を帯びていた。


「テホムの気配…石川、任務を完了したのか…。 よし、この忌々しい下層を永遠に消し去ろう!」


ニーセルはこれが初めて扱う空間封印魔法陣ではないことを自覚していた。

すでに素早く呪文を口にし、手に持った魔法の杖から煌めく魔法の光が放たれる。


周囲に設置された魔法水晶が一つずつ点灯し、空高くまで光が溢れ出す。

広大な封印陣を覆うその光は、地面までも無意識に震わせるほどだった。


「くぅ…魔力が…足りない…やっぱりモンスター化して、魔力の消耗を補わないと駄目か…はぁ…どうしてもあの醜い姿にはなりたくないんだけど…」


封印を発動するための恐ろしい魔力消耗を感じ、体内の魔力が激しく吸い取られていく。


ニーセルは不本意ながら軽くため息をつき、全身に黒い霧が立ち込め、外見が大きく変化していった。

霧が晴れると、かつて知性的で大人っぽい女性だったニーセルは、すっかりモンスター化していた。


身長160cmの姿に変わり、背中には二対の漆黒の翼、紫色の肌、銀色の髪、赤い瞳、緑の眉毛といった悪の精霊の姿になり果てていた。

それがダークスピリット黒魔精霊、ニーセルのモンスター化した姿だ。


凄まじい魔力が黒と紫の空気となって渦巻き、周囲に邪悪で暗い気配を放つ。


「EDRO...DARO...」

ダークスピリットは人間の言語体系を超えた呪文を呟きながら、魔法の杖が耐えきれずに折れる。

カキッという音とともに、魔力の衝撃に魔法の杖が壊れた。


その瞬間、空間封印魔法陣を囲んでいた199枚の魔法水晶が一斉に点灯し、中心から天高く光の柱が立ち昇った。

眩い光は四方にいる探索者たちの注目を引きつけた。


「SEALING!」


ダークスピリットが印を結んだ瞬間、天と地を繋ぐ光が轟音とともに爆発。

数百の黒白が交じり合う奇妙な光の点が四散した。

それらの光点は、まるで意思を持つかのように正確に下層へのポータルに飛び込んでいった。


ニーセルは体内の魔力をすべて使い果たし、元の姿に戻ると、その場に力尽きて倒れ込んだ。

再び立ち上がる力すら、もう残っていなかった。


光点が次々と下層ポータルに当たるたび、そのポータルは封印されていった。

その感覚はまるで虚無空間をジッパーで閉じ込めるようで、すべてのものが隔絶されていく感覚だった。


かつてウェイスグロの領域に流れ込んでいた深淵のモンスターたちは、今や絶望の咆哮を上げ、凶暴さを露わにした。

しかし、ポータルが次々と封印されるにつれて、支援を失ったモンスターたちは孤立し、統領たちの指揮の下、探索者たちの圧倒的な戦力によって次第に減少していった。


あとは時間の問題だった。


________________________________________


嵐の雷竜の巣穴で、宮本は興味深そうに、急速に収縮し、最終的に空気中で消えていった下層へのポータルをじっと見つめていた。


「ニーセルさんが封印を完成させたみたいだな!」

その横で、傷口を押さえながら痛みを堪える石川が、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。

「宮本さん、もしあなたがあのタイミングで支援してくれなかったら、どうなっていたことか…」


宮本は嬉しそうに歯を見せて笑いながら言った。

「偶然だよ」


その時、宮本の足元から「ぐ…ぐる…」という鳴き声が響いた。

見下ろすと、かつて数メートルの大きさだった九尾が、今では小型犬ほどの大きさになり、宮本の足に頭を擦り寄せて、甘えたような低い鳴き声を発している。

「ご主人さま…ぐ…ぐるる……」


九尾は「契約の実」を食べ、さらに宮本が無意識に垂らした血で契約を結んだため、二人は魂の絆を結んでいた。

宮本は九尾が自分に対して抱いている「依存」の感情を、はっきりと感じ取ることができた。


驚きと少しの残念さを感じながら、宮本は九尾を引き寄せて言った。

「お前、IX級のモンスターだろ!?その毛皮、かなり高価なものだよな…。まさか俺のペットになっちまったとは…ちょっと残念だな…」


九尾は人間の言葉を理解し、簡単な言葉でコミュニケーションが取れる。

その言葉を聞いた九尾は、全身を震わせて丸まった。

「ご…ご主人さま、九尾は…ぐ…生きて…死んでほしくない…」

「え?殺すつもりじゃないよ!冗談だってば、冗談!」


宮本は予想外のペットに対して、新鮮さと面白さを感じていた。頭をかきながら、九尾の頭を慰めるように撫でて、微笑みを浮かべながら言った。

「お前が『ご主人さま』って呼んだから、ちゃんと飼ってやるよ」

「ぐ、ぐるる…ご主人さま…!」九尾の目はキラキラと輝いていた。


(ご主人さまに皮を剥かれたり、骨を抜かれて素材として使われることはもうないんだろうな…主人は見た目こそ野生的だけど、心は柔らかいんだ!)

(ご主人さま、九尾はすごく役に立つんだよ!ベッドも温めてあげられるよ!)


宮本と九尾の絆を見ていた石川は、驚きで口を大きく開けていた。

これがIX級のモンスター、九尾銀狐だ。

単独でなら、自分のようなGamma級では到底敵わないほど強力な存在だ。

それなのに、宮本の前では従順で賢く、心が痛むほど可愛らしかった。


驚きのあまり、石川は声をかけた。

「宮本さん、この子を…どこで飼うつもりなんでしょう?」

「どこで飼うって?まさか、上級のモンスターもダンジョンを出られるのか?」

「宮本さんがこの子と魂の絆を結んだなら、ダンジョンを出ることも可能です。ただし…」

「ただし…?」

「ただし、登録をしなければならないんです。九尾銀狐のようなIX級のモンスターが現実世界に現れた場合、もし制御が効かなくなったら、大きな災害を引き起こす可能性があります」


九尾はその言葉をしっかり理解したらしく、ルビーのように輝く瞳で石川を睨みつけた。

「ぐ…悪い奴!ご主人さまとの仲を壊そうとしてる!」


宮本の腕の中ではおとなしくしている九尾だったが、その威圧的な目線に石川は額に冷や汗をかいた。IX級モンスターの敵意を、はっきりと感じ取ることができた。

石川は九尾の視線を避けるように、続けて説明した。


「探索者協会には専用のペット登録所があります。ウェイスグロを離れた後、この子を連れて行けば、ペット保証書にサインすれば問題なく登録できますよ」

そう言って、石川は宮本の腕の中でおとなしくしている九尾に笑顔を向け、悪意がないことを示した。


宮本は頷いて応じ、石川の傷を気遣いながら、九尾を自分の肩に乗せ、石川を支えて巣穴の外へと歩き出した。


「みんなと合流しよう!」


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