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第47話 ウェイスグロ防衛戦の幕切れ


宮本と石川が嵐の雷竜の巣穴から姿を現すと、数台のドローンが素早く周囲に集まってきた。


巣穴内では深淵の力が満ちており、宮本に同行したドローンの多くが制御信号を失い、次々と墜落していた。

その結果、モモールを秒殺した場面も記録されていなかった。


今回現れたドローンも、Y社が宮本のために新たに送り込んだ配信用のものだった。

何しろ、宮本は現在貢献ランキングで堂々の1位に輝いている。


黒竜討伐によって、一気に20万を加算した宮本の貢献値は、巣穴突入前627,000に達し、美月の496,000点を大きく引き離していた。



宮本視点の配信はY社に莫大な注目をもたらしており、彼の姿をいち早く捉えることが急務となっていた。

宮本がドローンの前に姿を現すと同時に、黒画面だった彼の配信が明るくなり、画面には待ち焦がれていた視聴者たちのコメントが雨のように流れ込んだ。


:やっと出てきた!無事でよかった…

:巣穴の中で何してたのか気になる

:肩に乗ってんの何?

:きつねさんだー!めっちゃかわいい!

:あれ、モンスター図鑑257ページに載ってる九尾銀狐じゃね?でもサイズが違う気が…

:おじさん強すぎなのでは?X級黒竜を秒殺して、IX級の九尾までペットにしてるとか

:前戦ってたもんね

:(投げ銭5000円)確か、探索者の中でIX級のモンスターペットを持ってる人10人もいないよね?おじさん、巣穴に入ってからそんなに経ってないのに、どうやって…

:(投げ銭6000円)かわいい!

:(投げ銭50000円)一緒にペット飼いたいんだけど



視聴者たちが九尾の愛らしい外見に魅了されている間、宮本は垂直にそびえる崖を一瞥し、そして重傷を負った石川を見て眉をひそめた。


(どうやって降りれば…。石川くんは大怪我をしている。このまま抱えて飛び降りたら、傷が悪化してしまうかも…)


宮本の肩に乗っていた九尾は、主の思考を察したのか、静かにシュッと飛び降りた。

地面に着地すると、その体が急速に大きくなり、瞬く間に本来の姿を現した。


体長3メートル、尻尾の長さ4メートル。全身を覆う銀色の毛並み、燃えるように赤い瞳。その姿から漂うIX級モンスター特有の威圧感は、周囲を圧倒するほどだった。


「ご主人さま…ぐ…我に乗ってください!」



数分後、宮本と石川は九尾の背に乗っていた。

九尾は何の前触れもなく口から絶え間なく氷の息を吹き出し、目の前に霜の道を作り出した。

それは崖の上から下へと斜めに伸び、千メートルの崖がまるで平坦な道のように変わった。


九尾は霜の道を悠然と歩き、崖の下へ向かって降りていった。


宮本は九尾にこんな能力があるとは思いもしなかった。

空中に氷の道を作り出し、行き止まりを平坦な道に変えるその力を見ながら、彼は満足げに九尾の頭を撫でた。


「キュウ、お前はこれから俺についてこい。安心しろ、俺の命はそう長くないが、最後にはお前に一番良い家を探してやるよ」(小声)


九尾は宮本の言葉を感じ取ったものの、「命は長くない」という意味を理解できなかった。

ただ、「うー」と答え、誇らしげに頭を上げて、氷の息を吐きながら空中の道を踏みしめ、聖ゴリル山のふもとへ向かって進んでいった。


その光景を見た宮本の配信視聴者たちは、興奮の渦に包まれた。

:なんてこった、おじさんカッコよすぎ!九尾を乗り物にするなんて、ナ◯ト超えたね

:(投げ銭3000円)生きてる間に九尾に乗れたら、死んでもいい!

:(投げ銭10000円)最高すぎて涙出そう!

:え、これって九尾がおじさんのペットってこと?それとも実はおじさんが九尾に飼われてるとか?w

:(投げ銭20000円)九尾が人間の言葉を話したように聞こえたんだけど、聞き間違いかな…?

:IX級のモンスターで、しかも狐族なら、人間の言葉を少し理解しててもおかしくないよ

:九尾はただのIX級モンスターで、X級の赤竜を持つライーン会長には及ばないが…優雅さと美しさでは完全に勝ってる

:モンスターペットは現実世界に連れて帰れるんだよね?

:おじさんに会いに行きたい!九尾ちゃんモフりたい~!

:(投げ銭60000円)私も九尾みたいに、あなたをご主人様としてお仕えしたいわ



九尾に乗った宮本と石川が聖ゴリル山のふもとに降り立つ頃には、四方の防衛線でのモンスターの殲滅はほぼ完了していた。

九尾が霜の道を悠然と降りる姿は、多くの探索者たちの注目を集め、その一部は警戒心を隠せずにいた。

IX級モンスターが自然に放つ威圧感は、その場にいる探索者たちの大半にとって大きな圧力となっていたのだ。


その空気を察した宮本は、九尾の背から降りると、石川を抱えながら地面に降ろし、九尾に軽く命じた。

「小さくなって」


九尾は素直に頷き、瞬く間に子猫ほどの大きさに縮むと、とある黄色いネズミのようにピョンと宮本の肩に飛び乗った。



「宮本さま!ご無事で本当に良かったです!」

最初に駆け寄ってきたのは神楽、川谷、そして山崎だった。

陰陽師の少女・神楽は疲れた顔をしていたものの、その目は喜びに満ちて輝いていた。


「みんな無事か。俺も心配してたよ」

迎えに来た仲間たちを見て、宮本はほっとしたように微笑みを浮かべた。


その時、神楽が九尾をじっと見つめていることに気づいた宮本は、九尾を肩からそっと抱き上げ、彼女の腕の中に渡した。

「はい、こいつは『キュウ』だ」


神楽は九尾を両腕で優しく抱き上げた。

おそらく美少女に対して天性の好感を抱くのだろう、九尾は一切抵抗せず、むしろ彼女の柔らかな胸元に甘えるように、体を寄せてきた。


「わあ、かわいい!手触りもふわふわしてて最高!」

神楽は心から嬉しそうに言いながら、九尾の頭を優しく撫でた。

「キュウちゃん、私の酒呑童子より100倍かわいいわ」


その言葉を聞いて、神楽の傍らにいた式神の酒呑童子は若干不満げな顔をし、九尾に鋭い視線を向けた。

しかし、九尾はそんなことお構いなしに、大きな欠伸をひとつし、氷の息を吹きかけて、酒呑童子を凍らせそうになった。

それを目の当たりにした酒呑童子は、神楽の愛を争うのを諦めたようだった。



ウェイスグロ防衛戦は、これで完全に終結した。

残るのは戦場の整理と、功績に応じた報酬の分配のみとなった。


宮本が自分のチームに戻ると、隊長のジェイソンが彼を待ち構えていた。

「宮本、君のような仲間がいるのは、俺にとって光栄だ」

普段は狂気じみた雰囲気を纏っているジェイソンだったが、この時ばかりは真剣に感謝の意を伝えた。


その横で全身血まみれ(モンスターの)になった川谷も近づき、豪快に笑いながら声をかけた。

「宮本、最初から言っただろう、僕は運がいいんだ。君こそが、僕たちの幸運だ」


宮本は頭を掻きながら、照れくさそうに笑みを浮かべた。

「いやいや、そんなの…ただの偶然だよ」


一方、山崎は宮本に軽く挨拶をした後、すぐに神楽にべったりとくっつき、九尾を撫でたがるそぶりを見せた。

しかし、IX級モンスターの威圧感に、すぐに圧倒されてしまった。


(ぐ…我はオスだぞ!ご主人さま以外…いや、ご主人さまと美少女以外には興味ないぞ!)


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