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第48話 ライーン会長到来


Y社社長室。

Y社社長は満面の笑みを浮かべながら、自らウィスキーを注ぎ、絵里に手渡した。


「今回のウェイスグロ戦、宮本大活躍だったな。それに、びっくりするくらい人気を集めてくれた。 

 今、彼のチャンネル登録者数はすでに322万人を超え、ランキングは9位。戦時中の同接数はピークで245万人に達した。まさに新記録だ。

 運営部の予測によると、今後宮本の配信同接数は安定して20万から50万の間になるだろう。彼は間違いなく、我々Y社の最もヒットするダンジョン配信者となり、フライヤーの地位を奪う可能性すらある。

 だから、絵里。君には宮本にすべての注意を向けてほしい」


絵里は少し疑問を抱き、社長を見つめながら尋ねた。

「社長がおっしゃる‘すべての注意’とは、どういう意味でしょう…?」

社長は意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりと答えた。

「24時間、完全に付き添ってサポートすることだ」


絵里は少し驚きながら、そして少し赤面しながら考え込んだ。

「でも、私には他の配信者もいますし…。それに、宮本くんが私がずっとそばにいるのを困るかもしれません……」


社長はグラスを手にしながら、軽く振り返って言った。

「他の配信者のサポートは、たまに連絡を取る程度で構わん」

そして、グラスを軽く掲げ、乾杯した後、続けた。

「今回の配信祭りで、宮本は完全にT社の目に留まったらしい。信頼できる情報によると、T社は大阪に専任者を送り込んでいるとのことだ」


その言葉を聞いて、絵里は思わず心配そうな顔をした。

「T社がわざわざ宮本くんを奪いに来てる、ということですね…。」

社長はウィスキーを一口飲んで、笑いながら言った。

「絵里、現状では確かに宮本は私たちと契約している。ただ、もし仮に宮本が先にT社と契約していても、今頃君を大阪に送って契約を引き抜かせていただけだろう。我々にとっても、T社にとっても、彼に支払うべき違約金を彼の価値と考えれば、たいした額ではない」


その言葉で絵里は即座に状況を理解し、冷ややかな表情を浮かべた。

「ふーん、私から人を奪うつもりですね」

そう言って、絵里はグラスを置き、立ち上がった。

「すぐに大阪に向かいます」


社長は、絵里が立ち上がるのを見ながら、机から一つのファイルを手渡した。

「これは、大島とイリスと同じ、S級配信者契約だ」

絵里は驚きと共にそのファイルを受け取ると、目を大きく見開いた。

「っ!?」

その契約の重さをすぐに理解した絵里は、社長が未来に向けて大胆に投資していることに感心した。


以前、大島とイリスがS級契約を結んだのは、それぞれのチャンネル登録者数が600万に達したときだった。

「これは…宮本くんへのものですか?」と絵里は確認した。

「もちろんだ」と社長は答えた。


「いいか、どんな手段を使ってでも宮本をY社にしっかりと引き寄せろ。必要な時には君の…ある程度のも厭わない。その際には、君にも十分報いる」

その言葉を聞いた絵里は、何かを悟ったような表情を浮かべ、微笑みながら言った。

「承知いたしました。でも、個人的にはそのが必ずしも無理なことではないと思います。宮本くん、本当にかっこいいんですから」


絵里が部屋を出ようとする前に、社長は最後に一言を付け加えた。

「それと、前の任務はキャンセルだ。今の宮本には、あれほど過剰な宣伝はもう必要ない。ああ、君の弟の件については、私が直接対応する」

「ありがとうございます、社長!」


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旭岳、山腹の城にて。

ライーン会長は、城の裏手の森を静かに散歩していた。

風の音と鳥のさえずりが心地よく、彼は一息つきながら歩を進める。


その時、突然、目の前の巨大な洞窟から圧倒的な威圧感が放たれ、周囲の空気が一変した。

ライーン会長が立ち止まったその瞬間、洞窟の入り口から小山ほどもある大きなドラゴンの頭が現れた。

その額には一本の角があり、目の前に迫ったその姿はまさに圧巻だった


ライーン会長は、その恐ろしいまでに巨大なドラゴンの前に立つと、まるで小さな虫のように感じられた。


「ゼフィロス、我が相棒…」

ライーン会長は少しも動じることなく微笑みながら、空中に浮かび上がった。

そして、軽やかにドラゴンの頭の上に足を踏み入れ、片手でその角を支えながら、穏やかに言った。

「一度、大阪まで飛ばしてくれ」


(ウェイスグロ戦は、ただの人類と深淵のモンスターとの争いの始まりに過ぎない。この数十年にわたって隠されてきた残酷な真実を、今こそ世界に明かさなければならない。この世界の文明を継続させるためには、もっと多くの探索者が必要だ...)


ライーン会長のモンスターペットである赤竜、ゼフィロスは、長年この開かれた巣穴に住んでいた。

今、主の命令を受け、静かに動き出すと、ゼフィロスは全長100メートルほどの巨大な体を空に広げ、ライーン会長を乗せて空へと舞い上がった。


その羽ばたきが空気を切り裂き、まるで空を飛ぶ戦艦のように、大阪を目指して飛んでいった。


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ウェイスグロの転送ゲート前では、光の粒が次々と輝き、探索者たちがチーム単位で転送されてきていた。


彼らはすぐにその場を離れず、探索者協会のスタッフに導かれ、少し離れた大規模なスタジアムへと向かった。

ライーン会長の直接面会を待っていたからだ。


ジェイソンチームもその時、ウェイスグロから転送されてきた。

石川の言う通り、宮本と魂のリンクを結んだ九尾は、何の障害もなく宮本と共にダンジョンを出てきた。

注目を避けるため、宮本は九尾に体型を小さくさせ、IX級のモンスターとしての威圧感を抑えるようにした。

その姿は、外見だけ見ると、まるで無害で可愛らしい子狐のようだった。


ダンジョンを出たばかりの九尾は、宮本の肩からすぐに神楽の胸元へ飛び込んだ。

どうやら、九尾は主の肩よりも、美少女の胸元の方が好ましいようだ。


それに対して、神楽は大喜び。

どんな少女でも、この毛むくじゃらのかわいい生物を拒絶することはできないだろう。


ただし、神楽に一目惚れしている山崎は、少し切ない気持ちを抱えていた。

九尾が山崎を嫌っているから、神楽は無意識に距離を取ろうとし、九尾の機嫌を損ねないようにしていた。

(くそ…!あの憎たらしいきつねに勝てないばかりに…)


川谷は、むっとしている山崎を見て、肩を軽く叩きながら笑った。

「女の子に好かれるには、ずっと後ろにくっついてるだけじゃダメだぞ」

「か…川谷さん、どうしてわかったんですか…?」

「表情。誰が見ても零ちゃんが好きだってわかるだろ」

山崎は照れくさそうに笑いながら、頭をかいた。「そんなに…?」


その時、ちゃんと服を着終わった宮本も興味深げに近づき、ニヤリとした笑顔で言った。

「山崎、おじさんがちょっと助けてやろうか?学生時代、そういう経験は少しあるんだ」


恋愛経験がゼロの山崎は目を輝かせ、真剣に尋ねた。

「宮本さん!教えてくれるの?」

宮本は神秘的に笑いながら言った。

「実はとても簡単なんだ。特に零ちゃんのような純粋な子には、ただ…」


山崎は耳を澄ませて聞こうとしたが、急いで言った。

「宮本さん!もう少し大きな声で話してくれませんか!」


「告白だ!」宮本は山崎の肩に手を回し、にっこり笑って言った。「心をつかむような告白…!君ならできる!」

「で…でも、告白の仕方とか分かんないよ!」

「分かんなくても大丈夫さ。そうだな…称号試験が終わったら、君のために遠足を企画して、チャンスを作ってあげよう!」

「本当っすか!?やったー!」山崎は興奮して腕を振り回した後、少し心配そうに続けた。


「でも…」

川谷もまた笑って山崎の肩を叩きながら言った。

「心配すんなって、君がモンスターを倒すときの男らしさを見せればいいんだよ。応援してるぞ!」

「男らしさ…」

恋愛に全く縁のない山崎は、何かを理解したように言った。

「なるほど、男らしい告白をすれば、女の子に好かれるんっすね!」


宮本と川谷はお互いに目を合わせ、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


前方を歩いていた神楽は、後ろで肩を組んで話している三人に気付き、キュウを抱えながら振り返り、「宮本さま、どうかしました?」と声をかけた。


三人は見事なまでに一致したタイミングで手を振り、「なんでもない!」と答えた。

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