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第49話 逝去された勇者への敬意


広大なスタジアム内には、すでに多くの探索者たちが集まって座り込んでおり、そのほとんどは今回の探索家称号試験に参加した者たちだった。

その他にも、探索者協会の戦闘部や研究部に所属する数百人のメンバーが加わり、総人数は3000人以上に達していた。


ウェイスグロでの戦闘を経て、元々4000人が参加していた称号試験の探索者たちのうち、862人が戦死し、1000人以上が重傷を負った。

軽傷者を含めるとその数は膨大になるが、探索者協会の医療スタッフたちの活躍のおかげで、重傷者も迅速に治療を受け、回復状況は良好だった。


実際、この戦いでの死亡率は協会が予想していたよりもはるかに低く、真の意味での大勝利と言える結果となった。なにより、これはダンジョンがこの世界に現れて以来、全世界に見せた最も壮大なものだった。


過去に隠されていたいくつかの防衛戦ほどの厳しさではなかったかもしれないが、探索者の参戦人数は過去最大で、さらに全行程が制限なしでライブ配信されたため、この戦いと勇者たちの活躍は永遠に記録として残ることが確実だった。


スタジアムの上空には、各大テレビ局や動画配信サイトのために数百機のドローンが飛び交い、さまざまな角度から現場の様子を生中継していた。


中央には臨時で設置された巨大な舞台があり、そこには戦闘部大将の氷原、フライヤー大島蒼悟、調査隊隊長美月、星の少女イリス、魔導士ニーセルの5人が集まっていた。

彼らは、これから登場するある人物を待っていた。



客席の一角には、宮本と神楽たちが気軽に座り、楽しげに会話を交わしていた。

少し離れた場所から、麻宮琴音が肩に巨大な斧を担いだ少女を連れて、宮本たちの元に走ってきた。

「宮本おじさん!やっぱり無事だったんだね!」


琴音の明るい声が響き、宮本は驚きながら手を振り、嬉しそうに笑った。

「琴音!こっちこっち!疲れただろう、はよ座って」


琴音と宮本の紹介ですぐに打ち解けた二つのグループ。

特に、キュウを抱えている神楽は、明るい琴音と彩雲にあっという間に親しくされ、すっかり姉妹のような関係になった。


三人の美少女たちが集まると、きつねはその光景に満足して目を細めながら思った。

(美少女たちに囲まれて…えへへ…すごくいい匂い~!美少女三人…三倍の幸せだ! 人間世界って本当に素晴らしいな!またひとつ、ご主人さまについていく理由ができたぞ!)



宮本の隣に座っている川谷は、まるで新たに宮本を再認識したかのように感慨深げな表情を浮かべ、こっそりと親指を立てて低い声で言った。

「宮本、どうして周りにこんなに美少女が多いんだ…? おかしすぎるよ!僕、世界一運が良いはずなのに、君みたいに女運がないんだぞ!」

宮本は少し考えてから微笑みながら答えた。

「もしかしたら、俺の方が世界一運がいいのかも」


川谷は言葉を失った。


一方、川谷の感慨とは裏腹に、山崎は今、宮本を見つめる目が「憧れ」の感情を抱くほどの熱い視線に変わっていた。

恋愛経験ゼロの山崎は、まるで溺れている人が救命具を掴んだように宮本に寄り添って、気づいたように呟いた。

「宮本さん、教えてください、どうすれば……。あーー!もしかして、前言ってた男らしさのおかげか? そうだ、きっとそうだ!宮本さん、戦うとき、いつも上半身脱いで半裸で戦ってるからだ! …よっしゃー!!今度から俺も戦うときそれを真似する!上半身だけじゃなく、下半身も短パン一丁で……」


宮本と川谷は、山崎の言葉を聞いて思わず顔を見合わせて笑った。

そして、二人とも同時に頷いた。


宮本はさらに、山崎に向かって賛同の意を示すように言った。

「そうだ、山崎くん!なかなかいいセンス持ってんじゃねーか!」

山崎は拳を振り上げ、興奮して言った。

「やっぱそうだと思ったぞ!ハッハッハ!」


いたずらっ子なおじさん二人は、山崎が神楽の前であえて服を脱いで戦う「男らしさ」を象徴する奇妙な場面を想像していた。


「川谷よー、これ、ちょっとやり過ぎじゃないか?」

「いやいやいや。若者なら、多少バカなことして成長するもんさ!」

「確かに、山崎くんまだ18歳だろ?まだまだ若いんだから、こんな修行は必要だ!」

「そうそう、もし機会があったら絶対録画しておこう。後で高額で山崎くんに売っちゃおうぜ」

「はは、さすがにこれはまずいだろ」

「命を懸けて戦った仲間同士、何も問題ないさ!」



全員が楽しく会話を楽しんでいる最中、突如として晴れ渡った空が黒い雲に覆われ、スタジアムにいた人々は一斉に空を見上げた。


空から降りてきたのは、全長100メートルほどの赤い鱗を持つドラゴンで、額には一本の角が生えていた。。

ドラゴンの頭の上には、質素な服を着た、細身で禿げた老人が静かに立っており、その姿は、どこにでもいる普通の老人のようだった。


赤竜が現れると、賑やかだったスタジアムは一瞬で静寂に包まれた。

その理由の一つは、X級モンスターの巨大な体から漂う威圧感だったが、最も大きな要因は、ドラゴンの背中に立つその質素な老人にあった。


彼こそ、日本唯一の赤竜の使い手であり、探索者協会の会長、そして人類史上4番目のEpsilon級強者である、ライーン・ハーディス。


ライーン会長の名は、すべての探索者にとって神のような存在で、誰もがその名前を知っていた。

たとえ彼が質素な老服をまとった禿げた老人に見えても、その姿が彼の威厳を損なうことは決してなかった。


宮本のような、探索者になったばかりのでも、ライーン会長に対して深い敬意を抱いており、真剣な表情でその降臨を見守った。


まだ赤竜が完全に地面に着地する前に、ライーン会長は軽く一歩を踏み出し、まるで流星のように舞台中央に降り立った。


その瞬間、氷原、大島、美月、イリス、ニーセルの5人は、すぐに立ち上がり、ライーン会長に深く頭を下げて敬意を表した。

これには、五大Delta3級強者としての心からの敬意が込められており、彼の地位に関係なく、彼の人間性と人類世界への貢献を尊んでいる証だった。


ライーン会長が降り立つ姿は非常に威圧的に見えたが、その着地は驚くほど静かで、100メートルの高さから降りたとは思えないほど、まるで羽根が落ちるような軽やかさを感じさせた。


「皆さん、自己紹介は省略します。このじじいのことを知らない方は、おそらくいないだろう、ホホ…」

ライーン会長は、そう言いながら一度軽く笑った後、続けた。


「ウェイスグロから帰還した皆さん、本当にお疲れ様でした。皆さんは人類を救った英雄です。本日の戦いには、心から感謝しています。


 さて、正式に話す前に、皆さんにお願いがあります。少しの間、私と共に、人類を守るために命を落とした探索者たちに、簡単な別れの儀式を行いましょう。

 犠牲になった勇者たちには、私たち生きている者たちが、永遠に真摯な敬意を持ち続けなければならないのです。」


ライーン会長がそう言うと、彼は舞台の右側にある大きな白い布で覆われたエリアへと歩き、その布を静かに引き剥がした。


その下には、なんと数百の棺が整然と並べられていた。


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