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第67話 はぐれた


宮本が転送ゲートをくぐった瞬間、ウェイスグロとはまったく異なる冷たくて邪悪な雰囲気が全身を襲った。


再び地面に足をつけた時、宮本は自分が一人きりで暗い沼地に立っていることに気づいた。


「…おーい!川谷!山崎!!」

返事はない。


「…琴音!零ちゃん!彩雲ちゃん!アリスさん!」

まるですべての音を吸収するような沼の静寂。


「……ッ、みんな…どこに行ったんだ」



数分間待ったが、宮本は確信した。

自分が転送ゲートを通過した際、仲間たちとはぐれたことを。


(ただ、俺だけがはぐれた可能性もあるし、他のみんなもそれぞれ魂の監獄のどこかに一人で入った可能性もあるな)

(こういう異常な現象は、だいたい大きなリスクが伴う。俺たちが罠をしかけようとしたら、逆に餌になっちまったのかもな…)


とはいえ、自分の実力に絶対的な自信を持っている宮本はモンスターなどあまり気にしなかったが、同時にここに来た仲間たちのことが心配だ。



頭をフル回転させながら、彼は空間リングから配信機材を取り出した。


突然、Y社の公式サイトに、全ユーザーに向けた目立つ通知が表示された。


『TOP10配信者――宮本次郎チャンネルの配信』



数秒で、宮本の配信には数万人の視聴者が集まり、その数字は驚くべき速さで増えていった。

ウェイスグロ防衛戦を経て、宮本はすでに322万の登録者数を誇るY社トップ10の配信者となっていたから、それも全然おかしくはなかった。


ウェイスグロ戦からすでに一週間以上経過し、久々の配信ということで視聴者たちも興奮を隠しきれず、コメント欄で大盛り上がりだった。



:待ってましたーーー!!!(大声)

:今日は運がいいぞ!遅くまでモンスターペットミーム漁ったらまさか宮本おじさんが配信するとは!

:どこ?w

:環境を見る限り……さっぱりわからん!

:なんでキュウちゃんいないんだとう?見たかったのに



宮本は視聴者数とコメントが少し落ち着くのを待ち、視聴者数が27万人を超えたタイミングで、ようやく話を始めた。


「皆さん、こんばんは。今、俺は洞爺湖の中心にある『魂の監獄』というダンジョンにいます。早速だが、俺今ちょっとした問題に直面してるんで、皆さんの協力が必要です」


:なんだなんだ

:あの宮本おじさんが、俺たちの協力を!?

:おー!視聴者参加型か!

:何があったんだろうな…

:今すぐ来いっじゃなかったらなんでもありだよー

:人類を守るヒーローの役に立てるなんて光栄だ

:(100000円投げ銭)私で…よければ……♡


宮本はコメントを流し読みしながら、真剣な表情で「魂の監獄」に入る理由や今の状況を視聴者に向けて説明した。


「皆さんもご存知だと思うが、ダンジョン内では長年掛けて発明された配信機材しか使えないんだ…。というわけで、ズバリ皆さんには琴音ちゃんとアリスに連絡を取ってほしいんです。二人とも二大配信サイトのトップ配信者だから、こういう状況に遭遇した時もきっと配信を通じて仲間と連絡を取るはず」



:麻宮琴音、今配信してるよ!しかも彼女一人だけじゃなく、めっちゃ大きい斧を担いだかわいい女の子も隣りにいる

:アリスちゃんはT社だっけ? たしか登録しているはずだから、今すぐ確認しに行く

:今2窓してるけどことちゃんにもおじさんに連絡するようにと言われたよ

:情報来ました!アリスちゃんも配信を開始したけど、今は会話どころか、沼のモンスターに囲まれて戦ってる最中…

:アリスちゃんも一人じゃない心配しないで!彼女の周りにはあの陰陽師の美少女とヤンキーっぽい男も一緒にいる。現状ではまだ余裕そうだけど、モンスターの数が多すぎて片付けるのには時間がかかりそう

:なんでキュウちゃんが神楽ちゃんの側にいるんだろう?飼い主違うんだろー!!

:三つの配信画面に映る環境はどれも沼地だから距離はそんなに離れていないはず

:おじさん周りの景色をカメラに映してみて。他の二人のと照らし合わせてみたら道分かるかもしてない

:ことちゃんもモンスターに囲まれてる、しかも人形…?

:モンスターたちの攻撃は激しいけど、なんかおかしい……どこかで指示を受けてる…いや、操られている感じかも



宮本はコメントを速読しながら、役立ちそうな情報を素早くピックアップしていた。


その時、突然、遠くの暗い沼地から不気味な笑い声が響き渡った。

一匹の人型モンスターが、黒いローブに包まれ、まるで幽霊のように宮本の十メートルほど前の位置まで進んできて、そこで足を止めた。


そのモンスターは、すぐに宮本を攻撃しなかった。

が、腰にぶら下がった小さな太鼓を、指先でリズムよく叩き始めた。



ドン、ドン、ドン



と響く鼓の音と共に、沼地の泥から不気味な人間の手が次々に地面を突き破り、瞬く間にその数は百を超えた。


まるで死者が蘇るかのような光景だった。


だんだん、手足がもげ、目は空ろなままの人間たちが泥の中から次々に這い出てきて、彼らは太鼓の音に操られるかのように、揃って宮本を取り囲んだ。


「愚かな人間よ、お前もすぐにこれらの人形たちと同じ運命をたどり、仲間になる。お前の魂は、我が王に捧げられる。運がいいと思うがいい、誰もが知っていることだが、我、キヌスは決して獲物の肉体を壊さぬ。お前はきっと、全身無傷のままで死ぬだろう…」


その人型モンスターが言い終わるか終わらないかのうちに、宮本は動き出した。


その動きの速さは常識を超えており、音速を突破するような爆音が空気を震わせて、周囲に轟き渡った。


「お前、うるさいな」


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