宮本の突進速度は、人間の動体視力の限界を超えており、最新型の配信機材でさえその動きの軌跡を捉えることが難しい。
百メートルの距離など、一瞬のことだった。
致命的な一撃が予定通り、霊巫王に何の反応の余地も与えずに、その顔面を激しく打ち抜いた。
――――ドンッ!!!!!
衝撃音が広間に響き、霊巫王の頭は宮本の一撃で粉砕され、血や肉片、脳みそが飛び散った。
頭を失った霊巫王の身体だけが、まだその場に不気味に立ち尽くしている。
配信を見ていた視聴者たちは、宮本のその一撃に完全に驚愕した。
:かっけぇ!!!
:(10000円投げ銭)血みどろでグロいけど…クセになる
:なるほど、全部作戦だったか!大量の雷球で十三傀皇を無傷のままで麻痺させ、そして包囲から脱出後に霊巫王に致命的一撃…さすがっす!
:伝説級の存在がこんな簡単に死んじまうとか、雑魚やな
:相変わらずパンチ好きやなー、シンプルイズザベストってやつかw
:スカッとするような、実感しないような…
:ざまぁめ
コメントの流れをざっと目で追いながら、宮本は攻撃前にライーン会長からの助言を思い出した…。
――が、霊巫王の無頭の遺体を一瞥して、宮本は心の中でつぶやいた。
(もう頭もねぇんだぞ。さすがにゾンビもどっかの漫画の鬼もこれで終わりだし、こいつこれ以上どう命を保つんだ…? 会長、ただの心配性じゃないk……)
「ッ!!!」
――宮本が無意識のうちに隣にある無頭の死体に目をやった瞬間だった。
彼のいつもの余裕のある表情が一瞬で変わり、信じられないような驚きが彼の目に浮かんだ。
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その時、アリスたちは黒魂の城の扉の前に到着し、静かに足を止めて互いに視線を交わした。
「何を待っているんだ! 宮本さんが一人で戦ってるんだ、早く助けに行かなきゃ!」
山崎たちはすでにアリスの配信を通じて、宮本が霊巫王と戦っていることを知っていた。
「山崎さま、落ち着いてください。宮本さまと伝説級モンスターの戦いに私たちが参加しても、逆に足を引っ張るだけですわ。 …たとえ三人で力を合わせても、同じことです」
アリスは腕を伸ばして、突進しようとする山崎を静かに止め、続けて分析をした。
「コメントの情報からして、宮本さまの実力はおそらく、私たちの予想を遥かに超えているみたいです。 私たちの総合戦力を考えると…、直接宮本さまと霊巫王の戦闘に加入するのではなく、まずは城内の他のモンスターを掃討し、宮本さまをサポートする必要がありますわ」
その時、隣でキュウを抱えながら二人の会話を聞いていた神楽が、山崎の服の裾を軽く引いた。
「山崎くん…、私もアリスちゃんの言う通りだと思います」
感情に駆られ、城に突っ込もうとしていた山崎は、神楽の手が自分の服を引くのを感じ、一瞬で顔を赤く染めた。
――目を合わせた瞬間、彼の心は完全に神楽に奪われていた。
(かっ、かわいすぎない?!! しかも俺(の服)を触ったんだが??? うわっ、これってもう好きなんじゃねぇかおい絶対俺のことが好きなんだよな………)
「わ、わかった!確かにその通りだな!」
(一生言うこと聞くよマイラブ)
照れ隠しに頭をかきながら、山崎は神楽の側に駆け寄った。
アリスも山崎の明らかな恋心にはすっかり慣れており、微笑んで言った。
「実は、先程ギルドを通じて黒魂の城の地図を手に入れましたの。その地図には、ある重要な場所が記されていて、そこには宮本さんの戦いに役立つ情報が得られると聞きましたわ」
「マジか、それは有難い! じゃあ今すぐ行こうぜ!」
山崎は再び鉄の扉に向かって突進しようとしたが、アリスはまた素早く手を伸ばして止めた。
「ここからじゃないんですわ、ついて来てください」
二人と一匹は、アリスの案内で黒魂の城の左後ろにある、何の変哲もない岩壁の前に辿り着いた。
アリスはしばらくその岩壁を観察した後、手を伸ばして触れた。
手が壁の目立たない黒いぶつぶつに触れると、岩壁が自然に開き、一人分しか通れないほどの小さな扉が現れた。
「秘密通路…!」
神楽と山崎は、声を揃えて驚きの声を上げた。
「ふふ、そうですわ」
アリスは軽く頷きながら説明を続けた。
「この地図の元持ち主は、霊巫王も知らないこの城の隠し道、つまりここのおかげで脱出することができたらしいですわ」
ちょうど山崎が先頭になって城の秘密通路に向かおうとした時、遠くから馴染みのある少女の声が聞こえた――
「アリスちゃん、零ちゃん、山崎くん…!」
三人が振り返ると、そこには元気いっぱいの少女、
――麻宮琴音と寧彩雲が立っていた。
琴音たちも配信のコメントで情報を得て、タイミングよく駆けつけたのだ。
五人が揃うと、残るは川谷だけ…。
川谷の行方が心配な一同にできるのは、城の正門から隠し通路へ続く道に暗号を残しながら、川谷の無事を祈るのみだった。