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読者ゼロ作家の俺が伝説の作家に土下座したらラノベ界の頂点を目指すことになった件
読者ゼロ作家の俺が伝説の作家に土下座したらラノベ界の頂点を目指すことになった件
月亭脱兎
現実世界仕事・職場
2025年01月04日
公開日
1万字
連載中
俺の人生、まさに「Re:ゼロ」 ただしReder(読者)ゼロって意味な。 テンプレ詰め込んだ「最強勇者」も、「俺TUEEEE系ハーレム」も、ことごとく撃沈。 1年間の執筆で得られたのは誰にも読まれない、深い孤独と絶望 だけ。 おまけにバイト辞めたせいで生活費も限界突破寸前。 「ああ、これが底辺ラノベ作家の終焉ってやつか……」 そんな俺の唯一の癒しは、神保町の古書店「心ラノベ屋」。 憧れの作家・九頭竜炎牙の名作『七聖戦記アルファナ』を眺めていると、なんとか心を保てる場所だ。 ……のはずが、ある日店内でこんなことを言われた。 「そんな古臭いラノベ、今どき読む人なんているんだね」 は? 古臭い? 傑作中の傑作に何てこと言うんだ、このポニテ美人。 俺は思わず熱弁をぶちかまし——そして、とんでもない事実を聞かされた。 「ありがとう。私がその古臭い本を書いた、九頭竜炎牙だよ」 ……は? 九頭竜炎牙? 本物がこんなところに? 人生何が起きるかわからない。気づけば俺は土下座していた。 「お願いします!俺に小説の書き方を教えてください!」 『才能で書くな、欠点で戦え――物語はそこに宿る。』 こうして、伝説の作家・九頭竜炎牙の弟子になった俺。 『あなたをジャンル1位にしてあげるわ』 いきなり掲げられた超絶無謀な目標値。 しかも彼女の指導は俺のプライドをへし折る冷酷な指摘のオンパレードだった。 果たして、俺は読者ゼロ作家から脱出できるのか——いや、その前に生き残れるのか!?

第1話「弟子にしてください!」ラノベの神様に土下座す

 今回の作品も、まったくダメだった。


 いや、正確に言おう。「まったく」なんて言葉では生ぬるい。


 新作を投稿して三日。星ゼロ。コメントゼロ。ブクマも、ゼロ。ゼロ、ゼロ、ゼロ。 おいおい、これじゃ「三重苦」どころか「三重ゼロ」じゃないか。


 俺の執筆活動を表す数字は、まるで赤点のテスト用紙みたいだ。というか、下手すりゃ赤点以下? 


 赤点の向こう側、みたいな。え、そんなとこあるの?

 ていうか、これ小説にしようかな……いやないわ。


 どれだけテンプレを駆使しても、「異世界最強主人公」も「神殺しの剣」も、読者の心には届かない。いや、そもそも読んですらいない。


 トップを飾る小説と俺の小説と何が違うってんだ?


 まさかとは思うが、もしかして俺がネット小説家としての才能を持ってないとか?いや、才能を持ってないなんて、実はもう気づいていた。でも、認めたら終わりだと思って、ずっと目を逸らしてきた。


 何度も同じ問いをぐるぐると頭の中で繰り返すが、答えは出ない。出ないどころか、だんだん心が沈んでいく。


 まさかこのまま鬱になって、そんな恐ろしい可能性が脳裏をよぎる。


「もうやめるか、これが俺の限界かも……」


 そうつぶやきながらパソコンの画面を閉じる。ネット小説の執筆を始めて1年。時間も、努力も、生活費も、全て投稿サイトに捧げた。それなのに、結果がこれだ。いっそ諦める方が楽なんじゃないかとも思う。でも……。


「なんで俺、ネット小説家なんてものになろうと思ったんだっけ……?」


 自分に問いかけてみる。そう、きっかけは――あの作品だ。


『七聖戦記アルファナ』。


 中学生の頃、初めてあの本を手に取った瞬間を、今でも鮮明に覚えている。


 神聖な七つの国を舞台に、剣と魔法の戦士たちが織りなす壮大な冒険譚。緻密な世界観と息を呑むような戦闘描写。最弱ゴブリンに転生してから無双するっていう奇想天外な設定。


 そして、主人公とキャラクターたちとの熱い絆。


 俺が小説の世界に引き込まれたのは、この作品が全ての始まりだった。


「俺も、こんな物語を書きたい――」


 そう夢見て、ネット小説に挑戦した。けれど現実は、夢を砕くほど厳しかった。テンプレを駆使したところで、あの作品が持っていた“本物の輝き”には到底及ばない。


 今の俺の書いているものなんて、ただの模倣品だ。


「こんな時こそ……初心を忘れるな、かな」


 布団に寝転びながら呟くと、目に入ったのは本棚に並んだ古びたラノベの背表紙。中学生の頃、俺が夢中になった『七聖戦記アルファナ』。伝説の作家・九頭竜炎牙の代表作だ。その青い表紙は、今でも俺の心を動かす力を持っている。


「こんな熱い物語、俺も書きたかったよな……」


 その瞬間、頭に浮かんだのは、いつもの古書店「心ラノベ屋」の光景だ。もう新品では手に入らないラノベが並ぶ店。紙の匂いと古びた木の床の軋む音がする、俺にとっての「聖地」。


「……行くか」


 体を起こし、伸びきったスウェットのズボンのまま部屋を出た。


 神保町にある心ラノベ屋――俺が憧れを取り戻すために通っている、古びたラノベ専門の古書店。


 そこには、俺の背中を押してくれる“何か”がある。いや、あると信じている。


 心ラノベ屋はいつも通り、静かだった。棚に並ぶのは、もう新品では手に入らないネット小説から書籍化されたラノベの数々。木の床が少し軋む音がする。懐かしい紙の匂いが鼻をくすぐる。


 俺は店内を歩き回り、いつものコーナーに向かう。そこには九頭竜炎牙――俺の憧れた作家の作品がずらりと並んでいる。


 特に『七聖戦記アルファナ』。その青い表紙を目にするだけで、何かが胸の奥から湧き上がる気がする。


「やっぱいいなぁ、まったく古さを感じない……」


 思わず手に取り、ページをめくる。読んだ回数はもう覚えていない。それでも、新しい感動がそこにはあった。俺が書きたいのは、こういう物語だ。今の俺に欠けているのは、この輝きなんだ。


 テンプレートを使って書いている今の自分の作品なんて、ただの模倣。『七聖戦記アルファナ』が持つ、ラノベ文化そのものを描いたような独特の世界観――そんな“本物”には到底及ばない。


「これなんだよ……俺も、いつか」


 ぽつりと呟くと、ふと視界の隅に動くものが見えた。


 一人の女性が、俺と同じ『七聖戦記アルファナ』を手に取っている。黒髪をポニーテールにまとめた清潔感のある女性だ。ラノベ好きには見えない――むしろ、雑誌のモデルに載っていそうなタイプの美人だ。


 少し驚きながら、俺は思わず声をかけていた。


「あ、それ……好きなんですか?」


 彼女はこちらをちらりと見ると、小さく笑った。


「うーん、まあね。好きだったと言うべきかな」


 その言葉に、俺の胸が少しざわつく。


「だった?どうして過去形なんですか?『七聖戦記アルファナ』って、今読んでも最高じゃないですか。これ、ラノベの歴史そのものですよ?」


 彼女は少し首を傾げ、無関心そうに答えた。


「歴史なんて大層な……ラノベの世界じゃ時代遅れって感じかな。今時こんな古い内容を読む人なんて、いるとは思えないね」


 その一言に、俺は熱くなった。


「……そんなことない!この作品は、今でも十分通じる名作です!九頭竜炎牙の描く物語には、“真実”があるですよ!登場人物が生きていて、笑っていて、俺たち読者に語りかけてくれるような感覚があって……」


 彼女は口元を緩めて、少し楽しそうに言った。


「へえ、すごい熱意だね。でも……じゃあどうして、今の若い作家たちはこんな本みたいな作品を書かないのかな?面白くないからでしょ?」


「それは……でも俺は、いつかこの作品に続くような作品を書きたいなって」


「へえ君、作家なんだ……ありがとう。私の本を、そんな風に語ってくれる人がまだいるなんて、少し嬉しいよ」


 俺はその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。

 彼女の意味するところが、すぐには分からない。


「え……まさか……あなたが、九頭竜炎牙……?」


 彼女は微笑んだ。


「まあ……そう呼ばれてた頃もあったよ」


 その瞬間、俺の世界が一変した。


「九頭竜炎牙……本物に会えるなんて」


 声が裏返りそうになるのを何とか押さえ込む。

 だが、目の前に立っているこの女性が、俺が中学生の頃から神のように崇めていた作家本人だなんて、どう考えても信じられない。


 いや、信じたい。


 ——俺の中で何かが弾けた。


 これはラノベの神が与えてくれた最後のチャンスだ。

 迷っている暇はない。俺はとっさに決断した。


「弟子にしてください!」


 そう叫ぶと同時に、俺はその場に土下座していた。









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