「楠木さん、何かいいことありました?」
滝に指摘されてドキッとした。
「え…別に……」
「なんか表情がいつもと違う気がしたんだけどなーー」
相変わらず鋭い滝が怖かった。
「滝さんって和気あいあいとしながら冷静に相手のこと見ていますよね」
「あ、さっきのは図星ってことでいいですか?」
「……ノーコメント」
滝はニヤリと笑ったが、俯いてポツリと話し始めた。
「僕、4年付き合っている彼女いるって言っていたじゃないですか。実は何回か別れているんですよ。」
「一回目の別れの時に、彼女きまずくなって仕事辞めちゃって。彼女の浮気が原因だったから罪悪感を感じたみたいで。しかも浮気相手とは2か月もしないで別れて、何していたんだろうって。でも、浮気の原因って新入社員で仕事不安いっぱいの時に僕が仕事で忙しくて全然話も聞いてやれなかったのがきっかけだったんです。」
「そうなんだ……。」
「僕は彼女の事が好きで裏切られた気持ちになったんですけど、きっかけを作った自分にも改めるところはあるのかなって。だからやり直したいって言われた時は迷ったんですけど、次はちゃんと相手の気持ちや変化に寄り添おうと思って。」
「大事なんだね。」
「そうですね。なんだかんだ言って、彼女以外考えられないんですよね。2回目以降は言い合いがヒートアップして、別れる!分かった!みたいな口喧嘩でしばらくすると、ごめん!!!!って仲直りする感じで別れたのかすら微妙な感じですが、くっついたり離れり繰り返しています。」
「喧嘩激しそうだけど、仲いいんだね」
「まぁ。この前、彼女から『私はこうちゃんとこの先も一緒にいるつもりでいるけど、どう思ってるの?結婚しないの?いつ言ってくれるの?』ってストレートに急かされちゃいました。結婚するの当たり前みたいな言い草に笑ったし、同じ将来を想像していたのが面白くて。」
さきほどの俯いた時とは違い、滝は頬を緩めて微笑みながら言った。
経緯は違うが、自分にはこの人しかいないと想う人に出逢えることは幸せだと思った。恋に溺れているわけではなく、相手を信頼して自然と将来を想像し相手も同じ世界を見ていることが運命的にも感じられる。
「それでこうちゃんはどうしたの?(笑)」
「……楠木さん、いじってくるんですか」
「たまにはね」
「考えているよ。言うタイミング覗っていたから先に言われて焦ってるって伝えました」
「ふふふ」
「彼女も笑ってました。同じ気持ちなら少しずつ準備していこうって。……なんか自分の中で色々考えていたけど、実際は彼女にひっぱられている感じです。本当はクリスマスか年越しに言おうと思っていたのに先越されました。」
きっと彼女は本音を言っても滝なら受け止めてくれると思ったのだろう。安心感や絶対的な存在として側にいてくれるし、自分も側にいるという確信しているのだ。
そして、自分と鈴木も滝たちのようにお互いが側にいるのが当たり前になる関係でありたいと思った。
「滝さんのそういう素直に伝えるところ、素敵だと思う。私も見習ってよかった」
「やっぱり何かあったんですね(笑)」
「なんでもない……」
「来年は楠木さんの話聞けるの楽しみだなーーー。」
「恥ずかしいから言わない」
もうすぐ今年も終わる。
2年半ぶりに鈴木と再会を果たし、想いを確かめ合ったはずが釈然としないまま戻っていった夏。そして、お互いにまだ関係が終わっていないと確信をした12月。
来年はどんな1年になるか鈴木との関係に変化はあるのだろうか。
空を見上げ、遠い地にいる鈴木の事を想った。枯れた葉が風に揺られなびいている。強風なのか右往左往に揺れる葉。
しかし、今の早苗にはその葉が風の流れに身を任せゆらゆらと楽しんでいるように見えた。
『もう、何があっても私はぶれない。浩太との未来を進む』