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第20話 殺人者は鉄道会社?(4)

「えっ、できるの? でも情報開示の手続きって時間もお金も」

「お金は私に払ってください。そしたら90秒で特定しますよ」

 四十八願はそう当たり前のように言う。

「本当?」

「ここで嘘を言う理由がないです。鷺沢さんも今年の模型の出展費のお金なくて困ってましたよね」

「まあそうだけど」

「刑事さん、5万円でどうです?」

「5万!」

「現金がだめならPayPay送金でもいいですよ」

「うっ、PayPayでもらっても納入する出展費は銀行振込しか展示の運営さん受け付けてなかったけど」

 鷺沢も困った声になる。

「大丈夫ですよ」

「ほんとかな」

「刑事さん、どうでしょう。5万」

 佐々木は苦しい顔になった。

「前の模型代もまだ精算してもらえてない……まだ建て替えになってるのに」

 難色を示す佐々木に、四十八願はさらに続ける。

「じゃ、諦めます? せっかくみつけた重要参考人を5万ケチって取り逃がしたら、多分このアカウント、すぐに別のことで炎上してアカウント消して別のアカウントに『転生』しちゃいますよ。そしたら更に情報開示のやり直しで時間とお金が。結果、高くついちゃうと思うけどなー」

「四十八願、いつの間にそんな酷いことを」

「鷺沢さん、5万円欲しくないんですか」

「そりゃあればできること増えてすごく嬉しいけど」

「ネー」

「自動運転TNOSのNDユニット買えば展示も充実するし、展示物のパーツもこれまで紙で作ってたのを機械でカットした木に置き換えることもできる。正確で精密になる」

「鉄道模型、結局最後はお金ですもんね」

「鉄道は金を失う道と書いて鉄道だからなあ。模型もそう。T鉄道M模型S趣味でT時間Mお金S場所っていうし」

「そこまでわかってて、なんでそれを何度もやるわけ?」

 佐々木が聞く。

「なんでだろうなあ。自分でもよくわからん。業なのかもしれん」

「でもその業かもしれない模型を、夢そのものだって言って毎年見に来る子達がいるじゃないですか」

 四十八願がいう。

「そうなんだよなあ。ほんとわからんけど、毎年展示をやらないで見るだけだとすごくつまんなくて虚しいもんなあ」

「ガムテープもそういうなんか変な機序があったのかもしれないですね。正しくはないと思うけど、我々が思うほど単純ではなさそう。刑事さんもそう思いません?」

 佐々木は困っている。

「5万ケチってただの事故死でまたおわらせるか、5万払って真相を明らかにするか。どうします?」

 さらに鷺沢が詰める。

 佐々木は身悶えしそうな顔になったが、また横目で見てくる鷺沢と四十八願の顔をみて、

「ちょっと電話させて」

 と苦しげにいうしかなかった。


 そして電話を切った彼女は「5万、でいいのね」といった。

「なんなら6万でも構いませんが」

「うっ、なんでここでちゃっかり値上げするんですか!」

「冗談ですよ」

「洒落にならん……。で、銀行の送金アプリ、四十八願さん、持ってる?」

「どの銀行のも大丈夫ですよ。持ってますから」

「そんな一杯?」

「だって、それ作るの私の仕事だったし。テスト用に入れてあります。地方銀行でもかまいませんよ」

「じゃ、この銀行で」

 佐々木はアプリを見せた。

「おねがいします」

 直後にチャリーンという入金音がなった。

「まいどありー。じゃ、特定しますね」

 四十八願がPCを操作する。

「ええっ、いきなり? そんなことしたら不正アクセス禁止法とか個人情報保護法とか」

「5万円はそれもコミコミコースですよ。それに私のそこ追及しても困る人しか出ないと思いますし」

「四十八願、きみ結構酷いな」

「別の言い方では『やばいぐらい有能』、ってとこです。はい出た。操作開始から78秒でしたね」

「本当なの? この子がLTDEXP257?」

 画面には中学生だろうか。子どもの顔写真入りの横浜市の公立中学校の学籍簿が表示されている。

「ほかになにがあります?」

 四十八願は平然としている。

「そりゃそうだけど」

「佐々木さん、急ぎましょう。これにダラダラ時間かけてても仕方がない」


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