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第2話【一】和希―隠れゲイの野望!②

「ちょっと、お兄さん!」

「え?」

 誰かに呼び止められて商店街の横道を見ると、若い女性が白い息を吐きながら立っていた。

 東北の夜の気温は零度に近い。

「あたし、行くとこないんだ。お兄さんとこに泊めてよ」

「……」

「一万円くれるならエッチしてもいいよ」

 その娘(こ)はだんだんと俺に近づいて来た~。

 やめてくれ~。俺女の子怖いし、ちんこ勃たないよ~。

「いりません!」

「え、なんでよ!」

「間に合ってますから!」

 早くおでん食べたいよ~。

「ちょっと、なんでよ!」

 ガシッ。女の子は俺の腕を掴んで来た!

 ひえええ。

「は、離せよっ」

「おっと、お嬢ちゃん。ここで売春してもらっちゃ困るなぁ」

「「!」」

 振り向くとそこには、さっきの強面さんがそびえ立っていた。

 強(こわ)面(もて)ブン太さん(和希命名)が、女の子の腕を掴んで俺を解放してくれた。

「離してよ、オッサン!」

「!」

 ブン太(た)さんは眉間にシワを寄せる。

「最近ここらでうちの客にウリしてるのはお前だな? 病気撒き散らしやがって、とんでもねー女だな」

「え、病気?」

 うわ~、まさかのエイズとか梅毒? 売春こわ~い。俺にうつそうとしたわけ? この娘?

 女の子はブン太さんの言葉に青ざめていたが、また暴れ出した。本能で逃げなきゃヤバイと感知したのだろう。

 この娘どうするつもりなんだろう。まさかボコボコにしたりしないよね? 俺が訊ける訳もなく、ただふたりを見守っていた。

 ブン太さんがその娘を引きずるように歩き出した。

「離してよオッサン。あんた、助けてよ!」

「え、やだ」

「ぶっ」

 俺の返事にブン太さんが吹き出した。

「正直すぎだろ」

「だって梅毒怖いもん」

「梅毒じゃねぇ。カンジタとクラミジアだ」

「真(さな)田(だ)さん」

 横丁の暗がりから人が出てきた。

「あれ、テツさん」

 なんと、探偵屋のテツさんだった。彼は家業の二代目で二十代半ばだ。うちとテツさんの親父達は幼馴染なのだ。

「おう、和希じゃねえか。ナンパか?」

「この女に絡まれてたぞ。知り合いか?」

「ああ。ところでその女は?」

「組長が探してる女だ。やっと捕まえた。テツ、一緒に運んでくれ」

「了解」

 組長。運ぶって、龍(りゅう)青(せい)会(かい)の事務所に。まさか海に沈めないよね?

 テツさんは俺の顔を見て、苦笑いしながら頭を撫でてきた。

「おい、お前の好きな任侠映画の筋書き想像してんじゃねーぞ。家出人捜索の依頼でこの娘を探してたんだよ。海に沈めねえから安心しろよ」

 ガーン、思考がバレてる~?

「じゃあな、和希」

「うん、さよならテツさん」

 強面ブン太と視線が合い、ペコリと頭を下げた。ブン太さん、いや真田さんはニヤリと笑ってから暴れてる娘に何かささやいた。

 娘はビクリと身体を硬直してから、大人しくなった。

 え……、なんか絶対に怖いこといったよね?

 ガタイのいい男達に挟まれて、ウリをしていた若い娘は連行されて行った。


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