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秋波楓が変わったとある理由
秋波楓が変わったとある理由
森海ツヅク
ホラー怪談
2025年01月08日
公開日
7,255字
連載中
秋波楓はある日変わった。 友人たちは口々にそういう。 まるで、別人のように。ある日突然。 何故、変わったのか? そのきっかけについて、彼女の口は重かったが、とある飲み会の席で、酔いにそそのかされて彼女、秋波楓はとある体験を語りだした。 「…これはある深夜の終電に乗った時の話」

第1話深夜の終電で

近辺の中心街とはいえ、終電間際の電車内に人はまばらで、彼女、秋波楓(あきなみかえで)は楽になる座席に背を預けることができた。

 これが通勤通学ラッシュ時の朝方ではこうもいかず、すし詰め状態の車内で大事なギターの弦のチューニングやらネックへの影響やらを心配しながら過ごすことになるのだが、もう深夜零時を過ぎた終電の車内は閑散としており、苦も無く座席に座ることができた。

 楓は座席にもたれながら、窓の外に視線をなんとはなしに向けた。

 そこには光 の加減で、窓ガラスが鏡のようになり、バンドのライブ終わりでくたびれて少し眠そうなように見える表情の自分の顔が映っていた。

 思わず、深く溜息をつき、視線をかかえるようにして持つギターケースに向け、楓はギターケースをうつむくように抱きしめた。

 疲労感に任せて、重くなっていた瞼を閉じて目をつむる。今日が終わる。何も今の自分を変えられずに。

 瞼を閉じたことにより、視界の情報は閉ざされて、ただただ静かな真夜中の世界を電車が線路―決められたレールを走る音がする。

 心地よい揺れが、眠気を誘う。ゆっくりと、意識がたゆたって、夜に溶けていくようだ。

 真夜中の電車内で、いねむりなど年頃の娘として不用心である。

 それは楓にもわかっている。

 ただ、少しだけ。この揺れの心地よさに身を任せていたい。

 そう思って、楓は目を閉じ続けた。そして、眠気の心地よさにたゆたっているうちに、溶けるように意識は眠りの世界へ旅立った。

 そう、旅立ってしまった。

 眠りの世界へ、そして、わからないうちに似ているようで違うあの世界へ。

 どこかわからない。でも、どこに存在し、たどり着いた人がいて、ネットでまことしやかに語られる場所に。

 これは、とある女性の体験談。ネット怪談―ネットロアに遭遇した女性の一夜の夢のような体験談。


 悪夢かもしれないけど。

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