降りそびれた。
まず最初に思ったのはそのことだった。
終電の電車野中に乗客は、私、秋波楓を含めて2,3人とまばらで、一様にばつが悪そうにしている。
居眠りをこいてしまい降りそびれ、目的の住居の最寄り駅を通り過ぎ、電車は一定のリズムを刻みながら、先へ先へと進んでいた。
終点の駅の近くにある漫画喫茶か24時間営業のファーストフード店あたりで夜を過ごし、明日の始発の便で家に帰るしかなさそうだ。
そう座席にもたれ脱力しながら、私は窓の外の景色を眺めることにした。
すると、違和感にすぐ気が付いた。窓の外では景色が流れていくが、その景色が見慣れないのだ。
窓の外に見えるのはうっそうと茂った木々。まるで森の中のようだ。というか、電車が走っているのはうっそうとした木々で周囲をおおわれたレール。
つまり、電車は森の中を走っているのだ。
それはおかしいことだった。何故なら、私が今乗っている電車の沿線に木々に囲まれられた森の中の地域など存在しない。
つまり今、私はどこか皆目見当もつかない場所に向かう電車に乗っているということだ。
「どこ行ってやがんだ…、駅員も車掌もいねえぞ」
そうこうしていると、他の乗客のうちの一人の、飲み会帰りのサラリーマンらしき人も気が付いたのか声を荒げて唾をとばしながら、車内をうろつきだし操舵室を覗き込んでいる。
どうやら、車掌が行方不明らしい。
「スマホも繋がらない。どんだけ田舎の山の中走ってるの、今」
最後の一人のキャバ嬢のような濃い化粧をした女性も手元のスマホをいじり、いらだしげにしている。
何かおかしなことが起こり、現在進行形でそれに巻き込まれている。
私はそう感じながら、過ぎゆく闇の中、電車内の明かりでうっすらと照らされている木々を眺めていた。