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第129話 初恋の想い出と2人だけのディナー⑤

 俺は急遽呼び出されたという親方にお礼を言って、一角兎と、ケルピーと、カセウェアリーと、アビスドラゴンの肉を受け取ると、商人ギルドにも立ち寄り、頼んでいた食材を受け取って馬車で自宅へと戻った。

 まずは試しに料理を作ってみなくてはな。いきなり当日に振る舞うのは出来るだけさけたい。


 前回パトリシア王女に無理やり王宮に連れてこられた時には時間がなくて出来なかったが、今回はロンメルとの料理対決の時と同じく、事前に試すだけの時間がある。

 俺が料理をしていると、

「──なにをしているの?」


 円璃花が不思議そうに後ろからのぞきこんできた。

「ジョスラン侍従長の還暦祝いに、メイベル王太后が俺に料理を振る舞って欲しいと言うんでな。手に入れた食材で料理を試してる。」


 俺はキッチンで包丁を使いながら、振り返らずに円璃花に答えた。

「見たことのない質感のお肉ばかりね?

 ……それとこれ、すっごい太っとい木の根っこ?これ、食べられるの?」

「これはマンドラゴラだ。こっちじゃ高級食材なんだぞ?」


「へーえ?味が想像もつかないけど。」

「調理法によって食感と味を変える面白い食材なんだ。以前食べた時はタンみたいな食感だったが、植物としての味と触感で食べることも出来るらしい。だから今回は植物として使ってみようと思ってな。」

「ふうん?」


 そこに、自ら椅子を引きずってきて、頑張って自分で椅子に乗ったカイアが、ひょっこり俺の手元を覗き込んでくる。

「カ、カイア!2階で遊んでいたんじゃなかったのか?これはちょっと見ないほうがいいと思うぞ?2階に行って、アエラキと遊んでいような?」

 俺は慌ててカイアを椅子から降ろした。


 カイアはドライアドという精霊の子株だ。

 俺は自分の子どもとして育てているのだが、ドライアドは植物の中の精霊王であり──当然見た目は太い木の幹である。

 魔物とはいえ、同じ植物の姿をしていて、オマケに顔もあるマンドラゴラを料理しているところなんて、ちょっとカイアに見せたくはない。


 お父さんがやがて自分も食べようとしているんじゃ……なんて思われたら、たまったものじゃないからな。

 そこに、風魔法で空中に浮かんだアエラキも、俺の料理風景を上から覗き込んでくる。

「アエラキ!?お前もか!今日は本当にすまないが、2人で2階にいて欲しいんだ。」


 一見オムツを履いた白ウサギに見える、カーバンクルのアエラキも精霊の子どもだ。カイアと違って両親がいるが、俺を守護すると決めてくれた関係で一緒に暮らしている。

 目が緑で額に赤い宝石のようなものをつけている以外は、仕草などもかなりウサギだ。


 だから一角兎を近くで料理するのは、既に解体されて肉だけとはいえ、ちょっとヒヤヒヤする。俺はアエラキを抱き上げて空中から降ろした。

「……ひょっとしてそれ、ウサギ肉?」

「そのまさかだ。」


 俺の様子に円璃花がこっそり耳打ちで聞いてくる。

「それは確かにあの子たちには見られたくないわね。精霊だから、見た目は似ていても別物だけど、人間の側からすると、ね。

 いいわ。私が上で遊んで気を引いておいてあげるから。」


「すまない、助かる。」

「さあ、カイアちゃん、アエラキちゃん、2階でお姉ちゃんと遊びましょうね?お父さんはちょっと忙しいみたいだから。」

 円璃花はそう言って、カイアとアエラキを2階に連れて行ってくれた。助かった。


 俺は料理を作って、盛り付けまでも試してみたが、

「ああ、駄目だ駄目だ。」

 スープが思ったように盛り付けられない。

「液体だしなあ……。これは容器そのものを作って貰うほかないな。」


 そう思ったが吉日、まだ間に合うな、と思った俺は、作りかけの食材を冷蔵庫へ、当日使う分はマジックバッグに入れ、ちょっと出かけてくる、と2階に声をかけて、急いで馬車に乗った。

「──あら、ジョージ、なんだか結構久しぶりね?元気だった?」


 向かった先はコボルトの集落だ。美しいアフガンハウンドタイプのコボルトであるアシュリーさんが、にこやかに挨拶してくれる。

「はい、お久しぶりです、アシュリーさん。

 実はちょっと、コボルトの食器を作っている方にお願いしたいことがあって来たのですが、ご紹介いただけませんでしょうか?」


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