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第29話 アースモライRTA

「はい、そうなりますね!歯が鋭くて、噛まれると傷口が深くなるので、上級ポーション必須と言われる魔物です。大きさによっては手足を噛みちぎられることもありますね!」


 あっさりとニコニコしながら言う美織。

「あたしもアースモライのいるエリアは隠密で抜けるよ?あいつめんどいじゃん。1箇所に数がい過ぎるからソロ向きじゃないよ?」


 獄寺ちょこは消極的だ。

「そうですか?ちょこさんなら余裕で倒せる魔物ですよね?」


「倒せるけど、四方八方から噛みつかれるからさ、まったく噛まれずに倒すのが無理なんだよ。中層の魔物に上級ポーション使ってたら、割に合わないっつの!」


:確かに

:よっぽど素材欲しいとかじゃなきゃ、ソロは挑まんよな

:あれは数の暴力

:弓と魔がきついのよな

:近距離いないと無理ゲー

:たまにアースモライ耐久配信してる配信者いるくらいだしな

:巣穴から出て来る虫のごとくにわきよる


「じゃあ、ちょこさんは、今回一緒に行ってくださらないんですか?」

 美織が寂しそうに眉を下げる。


「べ、べつにそうは言ってないでしょ!アースモライくらい、大したことないわよ!」

 プイ、と腕組みしつつ、頬を染めてそっぽを向く獄寺ちょこ。


:知ってた

:安定のツンデレ

:もう2人のチャンネルでいいじゃん

:獄寺ちょこがこんな風になるとは、かつてどのリスナーが思っただろうか

:イチャイチャまでがワンセット


 結局獄寺ちょこも一緒に行くことになり、日にちを約束して配信は終了した。配信後、予告通り料理動画がアップされたのだが、あまりの獄寺ちょこの料理ベタさと美織へのデレっぷりに、コメント欄は大草原だった。


 ──ジェリーバルーンの皮膜狩り配信の当日、美織よりも30分も早く来て待っていた獄寺ちょこは、お待たせしてしまってすみません!と、時間より少し早く来た美織に、ニコニコと素直にそう言われて、別に、あたしも今来たし!と強がっていた。


「皆さま、こんいお~!剣呑寺いおりです!今日はジェリーバルーンの皮膜狙いで狩りをしていきたいと思います!今日も素敵なゲストさんがいらっしゃいます!」


「ちょ──」


:ちょこっとイタズラしちゃうゾ☆?

:今日も安定のイチャイチャ配信

:知ってた

:ま た お ま え か


「ちょっと!挨拶くらい、させなさいよ!」

 獄寺ちょこが挨拶をする前に、リスナーがコメントで弄りだした為、それを見たちょこが直ぐ様リスナーに突っ込んだ。


「んっ!うん!改めまして!ちょこっとイタズラしちゃうゾ☆?獄寺ちょこよ。

 いおりだけじゃ不安だからね。ついて来てあげたのよ!」


:ウンウンヤサシーネ

:片時もいおりんと離れたくないんだね

:お前どうせ、いおりんよりすっごい先に到着して待ってたろ


「なっ……!なんで知ってんのよ!!」

 思わずコメントに反応してしまうちょこ。

「え?そうなんですか?ちょこさん。」

 キョトンと首を傾げる美織。


:マジで先に待ってたwww

:好き過ぎて草

:もう認めろってwww


「うるさいうるさいうるさ~い!これ以上イジってきたらお前らブロックするかんな!」


:お前がどうやるんだよ

:怖くないよ~だ

:チャンネルないって悲しいね


「隠密で隠れて、美織のスマホをこっそり操作するくらい、わけないんだかんね!」


:ごめんなさい

:俺たちが悪かったです

:ブロックはやめてください


「ふん、最初からそうすりゃいいのよ。」

 獄寺ちょこは腕組みをしながら、美織のスマホを覗き込みつつそう言った。


「それではさっそく中層に降りて行きましょう!今日はジェリーバルーン目当てなので、他の魔物は無視して突っ走ります!」

「おっけー。」


 そう言うが早いか、獄寺ちょこが隠密で姿を消した。

「皆さん画面酔いに気を付けて下さいね!」


:画面酔い?

:どゆこと?


 視聴者が混乱するのは一瞬の間だった。凄まじいスピードで揺れる視界。一気に中層まで駆け抜ける美織を追いかける、浮遊タイプの自動追尾配信機器の画面が、前後左右に揺れるジェットコースターのようにブレる。


:……おえっぷ

:画面酔いってこれか……

:どんなスピードで移動してんだよ!?


「はい!到着しました!」

「あんた、あたしみたいにスキルがあるわけじゃないのに、なんであたしと同じ速度で移動出来るワケ!?何ならちょっと早いし!」


 ジェリーバルーンの出るエリアに到着した獄寺ちょこは息を切らしていたが、美織はケロッとしたまま画面に手を振っている。


「それじゃ早速、アースモライを退治していきましょう!」


:え?ジェリーバルーンじゃないの?

:アースモライをある程度減らすってことか?

:確かに間引いたほうが楽ではある


 コメント欄が多少混乱する中、美織は剣の柄を柄よりに握ると、突然ダンジョンの壁をガンガンと叩き出した。


「な、何やってんの?あんた。」

「ここを、まずは7回です!」

 いち、にい、さん、と数えながら、壁を叩いていく美織。続けて床も叩き出す。


 床は5回。すると、天井、壁、床から、大量のアースモライがニョルっと出てくるという、非常に気持ちの悪い絵面になった。


「アースモライって、こことここを叩くと、壁の中にいられなくなるんですよね!」

 画面に向けてニッコリと説明する美織。美織のアースモライRTAの始まりだった。


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