「はい、そうなりますね!歯が鋭くて、噛まれると傷口が深くなるので、上級ポーション必須と言われる魔物です。大きさによっては手足を噛みちぎられることもありますね!」
あっさりとニコニコしながら言う美織。
「あたしもアースモライのいるエリアは隠密で抜けるよ?あいつめんどいじゃん。1箇所に数がい過ぎるからソロ向きじゃないよ?」
獄寺ちょこは消極的だ。
「そうですか?ちょこさんなら余裕で倒せる魔物ですよね?」
「倒せるけど、四方八方から噛みつかれるからさ、まったく噛まれずに倒すのが無理なんだよ。中層の魔物に上級ポーション使ってたら、割に合わないっつの!」
:確かに
:よっぽど素材欲しいとかじゃなきゃ、ソロは挑まんよな
:あれは数の暴力
:弓と魔がきついのよな
:近距離いないと無理ゲー
:たまにアースモライ耐久配信してる配信者いるくらいだしな
:巣穴から出て来る虫のごとくにわきよる
「じゃあ、ちょこさんは、今回一緒に行ってくださらないんですか?」
美織が寂しそうに眉を下げる。
「べ、べつにそうは言ってないでしょ!アースモライくらい、大したことないわよ!」
プイ、と腕組みしつつ、頬を染めてそっぽを向く獄寺ちょこ。
:知ってた
:安定のツンデレ
:もう2人のチャンネルでいいじゃん
:獄寺ちょこがこんな風になるとは、かつてどのリスナーが思っただろうか
:イチャイチャまでがワンセット
結局獄寺ちょこも一緒に行くことになり、日にちを約束して配信は終了した。配信後、予告通り料理動画がアップされたのだが、あまりの獄寺ちょこの料理ベタさと美織へのデレっぷりに、コメント欄は大草原だった。
──ジェリーバルーンの皮膜狩り配信の当日、美織よりも30分も早く来て待っていた獄寺ちょこは、お待たせしてしまってすみません!と、時間より少し早く来た美織に、ニコニコと素直にそう言われて、別に、あたしも今来たし!と強がっていた。
「皆さま、こんいお~!剣呑寺いおりです!今日はジェリーバルーンの皮膜狙いで狩りをしていきたいと思います!今日も素敵なゲストさんがいらっしゃいます!」
「ちょ──」
:ちょこっとイタズラしちゃうゾ☆?
:今日も安定のイチャイチャ配信
:知ってた
:ま た お ま え か
「ちょっと!挨拶くらい、させなさいよ!」
獄寺ちょこが挨拶をする前に、リスナーがコメントで弄りだした為、それを見たちょこが直ぐ様リスナーに突っ込んだ。
「んっ!うん!改めまして!ちょこっとイタズラしちゃうゾ☆?獄寺ちょこよ。
いおりだけじゃ不安だからね。ついて来てあげたのよ!」
:ウンウンヤサシーネ
:片時もいおりんと離れたくないんだね
:お前どうせ、いおりんよりすっごい先に到着して待ってたろ
「なっ……!なんで知ってんのよ!!」
思わずコメントに反応してしまうちょこ。
「え?そうなんですか?ちょこさん。」
キョトンと首を傾げる美織。
:マジで先に待ってたwww
:好き過ぎて草
:もう認めろってwww
「うるさいうるさいうるさ~い!これ以上イジってきたらお前らブロックするかんな!」
:お前がどうやるんだよ
:怖くないよ~だ
:チャンネルないって悲しいね
「隠密で隠れて、美織のスマホをこっそり操作するくらい、わけないんだかんね!」
:ごめんなさい
:俺たちが悪かったです
:ブロックはやめてください
「ふん、最初からそうすりゃいいのよ。」
獄寺ちょこは腕組みをしながら、美織のスマホを覗き込みつつそう言った。
「それではさっそく中層に降りて行きましょう!今日はジェリーバルーン目当てなので、他の魔物は無視して突っ走ります!」
「おっけー。」
そう言うが早いか、獄寺ちょこが隠密で姿を消した。
「皆さん画面酔いに気を付けて下さいね!」
:画面酔い?
:どゆこと?
視聴者が混乱するのは一瞬の間だった。凄まじいスピードで揺れる視界。一気に中層まで駆け抜ける美織を追いかける、浮遊タイプの自動追尾配信機器の画面が、前後左右に揺れるジェットコースターのようにブレる。
:……おえっぷ
:画面酔いってこれか……
:どんなスピードで移動してんだよ!?
「はい!到着しました!」
「あんた、あたしみたいにスキルがあるわけじゃないのに、なんであたしと同じ速度で移動出来るワケ!?何ならちょっと早いし!」
ジェリーバルーンの出るエリアに到着した獄寺ちょこは息を切らしていたが、美織はケロッとしたまま画面に手を振っている。
「それじゃ早速、アースモライを退治していきましょう!」
:え?ジェリーバルーンじゃないの?
:アースモライをある程度減らすってことか?
:確かに間引いたほうが楽ではある
コメント欄が多少混乱する中、美織は剣の柄を柄よりに握ると、突然ダンジョンの壁をガンガンと叩き出した。
「な、何やってんの?あんた。」
「ここを、まずは7回です!」
いち、にい、さん、と数えながら、壁を叩いていく美織。続けて床も叩き出す。
床は5回。すると、天井、壁、床から、大量のアースモライがニョルっと出てくるという、非常に気持ちの悪い絵面になった。
「アースモライって、こことここを叩くと、壁の中にいられなくなるんですよね!」
画面に向けてニッコリと説明する美織。美織のアースモライRTAの始まりだった。
────────────────────
この作品は読者参加型です。
アンケートが出たらコメントお願いします!
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。