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第71話 ハードラックへの制裁④

「チッ……なんで電話に出やがらない!」

 大山に連絡がつかなくなり、中尾は思わず手にしていたスマホを壁に投げつけ、画面を滅茶苦茶に割ってしまった。


 とにかく祈りの指環がすぐに手に入らないのだから、まずは金だけでも返さなければ、自分自身の身もあぶない。


 だが金を返そうにもそれも不可能だった。中尾が投資したFXは、順調だった筈が、なぜかここにきて、ことごとく失敗した。増やした筈の金はすべて消えてしまった。


 また1棟買いした筈の自社ビルは、他人の名義を勝手に使った売り手が出した物で、裁判で売りに出していないことが認められ、支払った筈の金は持ち逃げされたことがわかった。よくあることだなと起業家たちからは笑われた。中尾は描いていた成功者としての姿が、足元から崩れていくのを感じていた。


 金を振り込んだ口座を凍結するよう手配した時には既に遅く、金は引き出された後で、また口座も、昔口座を作るのに身分証もいらなかった時代に作られたもので、警察の調べで記載された住所も名前も連絡先もデタラメだと判明した。詐欺の為に売買されている口座を使ったのだろうと言われた。


「くそったれ!!何が起きてやがる!?」

 中尾の手元には何も残らなかった。あるのは膨大な借金と、闇オークションからの制裁の準備だけだった。


 そこへ、自宅のピンポンとノックが連打される。ここに来られるのは限られた人間だけだ。大山がやって来たのかと思い、中尾は特に確認もせずにドアを開けた。


「──ダンジョン協会だ。仮所属の中学生たちへの不当な契約書、またそれを利用して国から不正な利益を得ていた証拠があがっている。大人しく我々の取り調べに応じろ。」


 と、ダンジョン協会が警察を引き連れて、中尾の自宅に押しかけてきた。これも祈りの指環を手に入れた金で購入したいわゆる億ションであり、マンションに無関係の人間は入り込めない筈であった。


 おそらく1階のコンシェルジュが、警察の礼状を見てこの階までのロックを解除したのだろう。中尾は舌打ちをした。


 この分ではギルドにも手が回っていることだろう。ひょっとしたら、大山と連絡が取れないのはこれが理由かも知れない。


 既に警察に捕まって、中尾の所在をはかされたのかも知れない、と中尾は思った。

「簡単に捕まるか──よ!!」


 中尾は靴を引っ掴み、自分をおさえようと服を掴むダンジョン協会職員と、腕を掴んでいた警察を跳ね除け、マンションのベランダから1階へと飛び降りた。


 中尾は長年ギリギリ上位層の探索者をやっていたのだ。いくら探索者スキル持ちであっても、ダンジョン協会職員や、警察程度では取り押さえることなど出来なかった。


 人混みに紛れ、安全に寝られる場所を探して、金を貢いでやった女の自宅などを尋ねたが、中尾が既に金がないことを知っているのか、すげなく追い返された。


 仕方なく、手持ちの現金でネットカフェに泊まることにする。ホテルに連泊出来るほどの現金を持ち合わせていなかった。


 漫画などは読む気にならず、ネットを見ていたが、ふと、剣呑寺いおりの配信を見ることを思いついた。


 動画配信サイトで検索すると、既に20万人を超えるリスナーが配信を視聴していた。

 中尾は剣呑寺いおりのいるダンジョンには見覚えがあった。


 ワイアームと戦っている剣呑寺いおり。ワイアームは手足のないドラゴンの亜種と言われる魔物で、ドラゴン程でないにしても強い。


 方南町ダンジョンの深淵だ。中尾はニヤリとしてパソコンをシャットダウンすると、ネットカフェを精算して方南町へと向かった。


 スーツのスラックスにワイシャツ姿でダンジョンに潜る中尾は、他の探索者たちから奇異な目で見られていた。だが気にすることなくどんどんと深淵まで進んでいく。


 そして、ついに深淵へとたどり着いた。中尾は美織と戦うワイアームに、ダンジョンの入り口から手をかざした。岩陰に隠れている為、美織が中尾に気付く様子はない。


 飛び回るワイアームは、なかなか反応を示さなかった。だが、美織に斬りつけられ、一瞬空中から落ちかけて体勢を整え、羽ばたき直そうとした瞬間、反応があった。


『──捕らえた!!』

 中尾はニヤリとした。中尾のスキルはテイマーだった。深淵の魔物と戦える程の力はない。だが、深淵の魔物を操ることは出来る。


 いつも無茶苦茶な使い方をする為、すぐにテイムした魔物を死なせてしまうせいで、最近は何もテイムしてはいなかった。


 魔物をテイムする為には、魔物に勝つか、魔物に認められるか、弱っているところを捕獲するしかない。


 中尾は捕獲のスキルを持っていた。弱ってさえいれば、捕獲器を使わなくとも、遠くからでも魔物をテイムすることが出来るのだ。


 自分では深淵の魔物は弱らせられない。だがここには美織がいる。美織自身の攻撃で弱るところを、中尾は待っていたのだった。


 中尾は手中におさめたワイアームに、自身のスキルをかけた。テイマーはテイムした魔物に、バフをかけることが出来る。


 今美織の目の前にいるワイアームは、中尾のバフにより、すべてのステータスが1.5倍へと変化していた。


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