なぜなら複写で作ったものであるとバレた場合、本物を差し出さない限りは、闇オークションからの制裁を受けるからだ。
闇オークションに複写を使ったアイテムが出品される場合は、うまいこと人を騙し、その人間にアイテムを買い取らせ、何も知らない人間が出品をするケースだ。
その場合、当然売った人間は雲隠れしてしまう為、本物を差し出せない、騙された人間が闇オークションから制裁を受ける。つまり今回の中尾がそれに当たる。
本物を差し出せない限り、闇オークションからの制裁が待っている。金を返せばいいという問題ではない。闇オークションの信用を失墜させたことに対する制裁であるからだ。
金を返せば命までは取られない。だがギルドハードラックが今まで通り国に許可された中学生仮所属の仕事を続けるのも、下部組織から上前をはねるのも不可能になるだろう。
なんとかして大山に本物を手に入れさせなくては。闇オークションが本物を提出する猶予をくれている内に。中尾はスマホを取り出して、怒りのあまり何度か誤タップしながら大山に電話をかけた。
「おい、どういうことだ?お前が持って来た祈りの指環、偽物だったじゃねえか!さっさと本物を持ってこさせろ!」
大山を電話越しで怒鳴りつける中尾。
慌てて沙保里の自宅に行った大山だったが、一家まるごと引っ越した後だった。中学校も転校しており、兄も大学を退学し、両親ともに仕事を退職していて、どこにいるのかわからない状態だった。
大山は絶望してそれを中尾に報告に行ったが、キレた中尾にボコボコにされた。探偵も雇って調べさせたが、ようとして蓼科一家の行方は知れなかった。
沙保里が使えなくても、直接奪いにいけばいい。そう思った大山は、美織の配信からダンジョンを特定し、仲間を引き連れて攻撃をしかけたが、美織どころか獄寺ちょこに返り討ちにされ、病院送りになってしまった。
獄寺ちょこも上澄みの1人だ。ハードラックの下部組織のギルマス程度では相手にならないということを、レベル差のあり過ぎる大山は気付くことが出来なかった。
魔物に対する誘引香の仕込まれた爆弾。獄寺ちょこが上澄みの探索者相手に迷惑配信をする際、よく使用していたものだ。最近は使用していなかったので大量に余っていた。
それをぶつけられた大山は、ダンジョンの魔物たちに一斉に襲いかかられてしまった。上澄みの探索者であれば、一斉に襲いかかられても、ちょっと焦る程度のもの。
その焦る様子を見てリスナーたちが笑うのだ。だが大山は美織と獄寺ちょこが潜っていた深層の魔物を、ソロで討伐出来る程の実力がなかった。逃げれば良かったものを、思わず相手してしまった。それが良くなかった。
病院で目覚め、両手両足のない身体を見つめて、大山は思わずゾッとする。あの日の沙保里の兄と同じ状態。まるで自分がしたことが自分に返ってきたかのようだった。
配信を見ていたリスナーの誰かが通報したことで、ダンジョン協会からスタッフが派遣され、ダンジョンから救出を受けたことで大山はかじろうて生き延びた。そうでなければあのまま全身食われていただろう。連れて行った仲間も同じように手足が食われていた。
だが当然それだけでは終わらなかった。ダンジョン協会からは探索者の資格を取り消されてしまった。ましてやその様子が配信で映されていた大山は、かぶっていた覆面が美織にやぶられて素顔が配信にのってしまった。
これが犯罪の明確な証拠となったのだ。獄寺ちょこの誘引香つき爆弾も、死人が出ない限り逮捕はされないまでも、誰がやったか知られれば、ダンジョン協会から警告を受けるレベルだが、直接の対人攻撃は一発アウトの完全な犯罪行為だ。
悪質な探索者への妨害行為として、手足がなく逃げられない状態のまま、警察の事情聴取を受けるはめとなった。
熱を持って痛む両手両足に、早くエターナルポーションが欲しいと思った。そこに枕元の脇に置かれたチェストの上にあったスマホに電話がかかってきた。
自分のズボンのポケットに入れておいたのを、ズボンを切って治療する際に、看護師か誰かが取り出して、そこに置いたのかも知れなかった。なんとか首をひねって画面の上の文字を見ると、中尾からだった。
エターナルポーションを中尾に頼もう!そう思った大山だったが、電話を代わりに受けて欲しいと警察に頼んだが、示し合わせて証拠を隠す可能性があるので、弁護士以外とは連絡を取ることを許可出来ないとすげなく断られてしまった。
仕方がない。弁護士がついたらその人を通じて頼もう、もう少しの辛抱だ、と思った。だがそれは生涯叶わぬ願いだということを、今の大山はまだ知らない。
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