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第69話 ハードラックへの制裁②

 中尾はオークションで儲けられなかった差額を、投資で儲けるつもりでいた。

 そこにオールダンパーのギルマス、大山達夫がやってくる。


「無事……祈りの指環を手に入れました。」

「おお、これか……!どうだ、小娘を脅せばすぐだっただろう?」

「はい、首尾よく……。」


「こいつはいい金になった。またいい物を剣呑寺いおりがドロップするようなら、小娘を脅して奪い取らせろ。小娘の家族が人質のままなんだ。──1度俺たちの言うことを聞いた人間は、もう2度と逆らうことなんて出来やしねえ。剣呑寺いおりの素性が調べられなかった時は焦ったが、調べるまでもなかったな。ああ、この金はお前たちの取り分だ。」


 アタッシュケースに入れた札束を大山に差し出す中尾。

「こ……こんなに……!」

 中尾に怯えていた大山も、現金を目の前にして目の色を変えた。


「子どもを使って政府からチマチマ金を引っ張るより、剣呑寺いおりの血を一滴残らずすすったほうが、余程儲かるってことだ。さっそくキャバクラにでも行くか。どんな女もよりどりみどりだ!」


「はい、お供します……!」

 そう言ってついて行ったものの、奢ってくれるのかと思いきや、支払いは大山が持たされた。アタッシュケースの中の金から支払ったので、自分の懐が傷んだわけではないが、ケチ臭いな、と大山は思わず思った。


 ──中尾が湯水のように金を使い、そろそろ手元に現金が残らなくなった頃だった。闇オークションを通じて連絡が入った。

「は……?祈りの指環が消えた……?」


 闇オークションを通じて相手に渡した祈りの指環が、身につけた状態から忽然と消え失せたとの連絡だった。


 痕跡を調べさせたところ、スキル複写を使って作成された偽物であったことが判明し、本物を差し出せと連絡をしてきたのだ。

「あれが……偽物?」


 スキル複写には似た能力として、複製というスキルが存在する。複製のスキルとは、その名の通りに何かを複製するスキルであり、魔法使いの攻撃と重ねると、同じ魔法を連発することが出来るという、単独で戦う力こそないが、サポートスキルとしては使いようによってはかなり有効な能力である。


 スキル複写の場合は、その下位互換スキルとされ、能力を複製することは出来ないが、代わりに物を複写することが出来る。


 鑑定すらもあざむくことから、国際オークションで複写を使用した物品を出品した場合、2度と国際オークションに関わることが出来なくなるという能力でもあった。


 ただし複製のスキルも複写のスキルも共通点があり、一定時間が経過すると、スキルで作ったものが消えてしまう。ちなみに複写で作ったものが消えるまでの時間は、スキル保持者によって決めることが出来るものだ。


 そこで初めて複写のスキルが使われた痕跡が、スキルや測定機などで判定できるようになるのだ。それまでは本物として扱われる。


 オークションに出して金銭を騙し取る目的がなければ、複写を使ってテロリストの要求するものを用意し、人質が解放されてから消えるように時間設定をするなど、複写も使いようによっては使えるスキルである。


 ただし現金そのものを複写することは、法律的に許可されていない為、複写スキルで複写したものを渡される可能性を懸念して、犯罪者から現金を要求されることも多い。


 ただしアメリカなどでは、大統領の許可を必要とした上で、現金を複製させる場合がある。テロリストには決して屈しないが、国民は助ける、という意思の表れである。


 その為テロリストも、アメリカを含めた、その可能性がある国の国民を誘拐するのを嫌う。今回の取引が大統領の許可を得ていたとすれば、労力が徒労に終わるからだ。


 その点においてテロリストに人気な国が日本である。金を出せずに無視することもあるが、出す時は必ず本物を出してくるからだ。


 責任を取らされることを面倒臭がる日本の政治家たちは、そもそも国会や首相の判断で複写を使った偽金を渡す許可を、まともに議論したことすらない。


 誰かが国会で提案したとしても、のらりくらりと、お決まりの前向きに検討致しております、だ。だから日本が取引を持ちかけてきた場合は100%の本物。


 それが日本人の人質人気に拍車をかけていることは、ネット内で誘拐事件が発生するたび、噂になっていたが、議員の耳には届いたとしても無視を決め込まれた。


 だからいずれはバレてしまう為、闇オークションであっても複写を使って、自分で商品を出費する馬鹿はいないのだ。


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