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第68話 ハードラックへの制裁①

「も……戻ってる……。」

 手を握ったり開いたりして、確認している沙保里の兄。床に降りて歩いてみたりしていたが、まったく問題ないようだった。


「もとに戻ってる……!ありがとうございました!なんとお礼を言ったらいいか……。」

「妹さんがつてを持っていたおかげよ。お礼なら妹さんに言いなさいな。」


「そうか……。沙保里、母さんがあれこれ言ってたみたいだけど、心配するな。ちゃんと俺が説得してやるから。俺が狙われたのは沙保里のせいじゃない。こうしてもとに戻れたのが、沙保里のおかげなんだって。」


「お兄ちゃん……。」

 沙保里は号泣して兄に抱きついた。

「さて、犯人はわかったわけだけど、証拠がないから逮捕は出来ないわ。私のスキルで見たと言っても、それを証明する手立てがないからね。どうする?美織ちゃん。」


「……墨田さんと深見さんの力をお借りしたいですね。こっそりその人をやっつけるのは簡単ですけど、その前にしっかり絶望を味あわせて差し上げたいですし。」


「──墨田と深見の力?今回のことで美織ちゃんも正式にうちの一員になったわけだし、別に構わないけれど、……なぜ?」


「阿平さん、この祈りの指環、奪おうとすると呪いがかけられるんだそうですよ。決して私が人に譲れない理由なんです。」


「そうなの?……ということは……。美織ちゃん、あなた意外と怖いこと考えるのねえ。死んだほうがマシかもね、彼。」

 阿平は身震いしながらそう言った。


 ──ギルドハードラックのギルマス、中尾龍二は、祈りの指環のオークション落札金額に納得がいっていなかった。


 最終的な落札価格は1329億となった。リザレクトが使える奈落のドロップの指環など、3000億はいかなくてはおかしい。


 だが、祈りの指環が今までドロップしたことのないアイテムだということ、それを手に入れたのがハードラックのギルド員でないことが知られているということから、国際的なオークションではまともな値段がつかず、すぐに取り下げることとなった。


 ハードラックの名を使って出品したことこそが、そもそものところ国際的に信用を欠いたのだと、中尾は理解出来ていなかった。


 奈落の魔物を倒せる探索者はハードラックには存在しない。それを購入希望者たちは事前に調べて理解していた。


 ──今回の出品物は間違いなく盗品。そう思われていたのである。国際的オークションは、当然盗品を取り扱わない。そうとわかった場合、全額弁償させられるからだ。


 個人が持ち込む場合は、オークション側で入手経路を追跡し、盗品でないかを調べた上で出品する。個人を調べることは違法ではない、ということが理由だ。


 だが各国に正式に認められているギルドによる出品の場合は、その出処がわからないまま、正式なルートで入手されたものとして扱われ、オークションに出品される。


 ギルドでは、自身のギルド員が入手したものであれ、売り込みに来た人間から購入したものであれ、入手元を公開出来ない契約を、購入時に結んでいる為、調べることが逆にオークションサイドの違法とされるからだ。


 また正式な組織である、ギルドが所有物を売りたいと言う限り、それは手元にあるものとして、現物がなくともオークションは開催される。落札されて商品がありませんとなった場合、恥をかくのはギルドになるからだ。


 当然責任の所在もギルド側になる為、オークション主催者側はなんら責任を負うことはない。だからこそ出品自体は可能となる。


 過去の所有者を鑑定することは出来ない。盗品と判明しない限り出品は可能だからこそ、購入希望者たちは事前に独自に調査をしている。その結果そっぽを向かれた。


 仕方なく闇オークションに出したのだが、剣呑寺いおりの配信画面から切り取って印刷した写真しかないことで手元にないと予想されているのか、あまり金額がのびなかった。


 現物があれば、そもそも闇オークションサイドで預かって、オークションの場に提出さられた上でオークションが始まる。


 盗品であってもそこは関係がないが、既に入手済みのアイテムと、これから奪う予定の物とでは、当然後者のほうが入札が伸びない。


 現物が渡されなければ、闇オークションサイドで保証があるとはいえ、そこは相手が人間だというのがある。現物が渡されなかった場合の手続きが面倒なのだ。金で解決出来る人間たちがもっとも嫌うのが、金で解決出来ない手続きの煩わしさだった。


『まあいいさ、本来入る予定のなかった金だからな。これでまずギルドのビルを買おう。これでうちも一等地にビルが持てる。それとハイレバレッジにも金を突っ込んで……。』


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