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第85話 叔父と愛人の末路②

 美上翼はスキルを発動させた。有効射程距離は5キロメートル。マンションの最上階であろうと、余裕で届く距離だ。


 ましてや図々しいことに、叔父の愛人は自宅のすぐ近くにマンションを借りていた。入口がひと目につきにくく、スーパーなどの生活導線からも外れている。


 その為近所の人間にも、家族にも、気付かれることなく、これまで過ごしてきたのであろうことが予想された。


 ようやく真を苦しめていた奴らに、仕返しをしてやれる。それが出来るのは自分だけなのだ。美上翼は躊躇うことなく、状態交換のスキルを選択して発動した。


 <状態交換>を発動させます。

 下記のいずれかを捧げて下さい。

 ▽寿命

  代替の生贄


 美上翼は代替の生贄を選択した。ギルド女神の息吹を通じて購入し、今は美上翼の手元にあった。代替の生贄が、目から血の涙を流し、苦悶の表情を浮かべて消失する。


 <状態交換>の入れ替え元の対象者を選択して下さい。

 続けて文字が現れる。今度は文字を入力するようだ。


 春田真、と入力する。たまたま春田真が他にも近所にいたようだ。複数の春田真が選択肢に現れた。年齢、性別などを見ることが出来、間違いなく従兄弟を選択する。


 <状態交換>の入れ替え先の対象者を選択して下さい。

 続けて文字が現れる。美上翼は春田直樹と入力した。


 状態の入れ替えが完了しました。結果を確認しますか?との文字が現れる。念の為確認を選択すると、春田真、高血圧。春田直樹、原発性骨悪性腫瘍・Ⅳ期。と表示された。美上翼は思わずプッと笑ってしまう。


 叔父さん高血圧だったのか、と。だが高血圧なら薬でどうにかなる。病院通いはしばらく続くかもしれないが。ガンがなくなったのだから、それくらいは仕方がないと思ってもらおう、と思いつつ、美上翼はマンションの前をあとにしたのだった。


「──あんたのせいであたしまで慰謝料要求されたのに、なんであたしだけ会社をクビにならないといけないのよ!」


 その頃、春田直樹の愛人、奈津子は、会社からどちらかがやめろ、片方は地方に転勤しろ、と言われた春田直樹が、自分が残ることを勝手に決めたことに憤っていた。


 春田の妻が、会社に内容証明を送ったことで、不倫がバレたのだ。双方が個別に呼び出され、先に呼び出された春田が、自分が残ります、と言ったことで、次に呼ばれた奈津子は、その結果を告げられるのみとなった。


「仕方ないだろ、奈津子より俺のほうが給料が高いんだから、どちらか残るってんなら、俺のほうだろ。それともお前1人の稼ぎで、俺を養っていくつもりか?」


 奈津子はグッとひるんだが、

「すぐに別のところを見つければいいじゃない!なんで相談もなしに勝手に決めてんのよ!自主退職じゃなくてクビなのよ!?簡単に次が見つかるとでも思ってんの!?」


「お前との今後を考えてるからそうしたんだろうが!ここを引き払って、転勤先で新しい仕事探せばいいだろうが!」


 そう、喧嘩をしながら、春田直樹は自身の体調が急に悪くなったことを感じていた。息が苦しくなり、倦怠感を感じる。そのまま意識が遠のく中、罵る奈津子の声だけが遠くに聞こえていた。


「……ちょっと聞いて……。なによ、どうしたの?ねえ、ちょっと!」

 気絶してしまったような春田直樹を、奈津子は慌てて救急車で病院に運んだ。


「お亡くなりです。」

「──は?」

 奈津子は医者の言葉に呆然としていた。

「そんなわけないでしょ、さっきまであんなに元気で……。」


「詳しくは病理解剖してみないとわかりませんが……。直接的な死因は心不全ですが、この方その前から具合が悪かったのではないですか?肌の色、爪、むくみ、どれをとっても健康な方の状態ではありませんよ。」


「病気だったっていうの?」

「ご遺族でいらっしゃいますか?2〜3時間あれば終わりますので、病理解剖させていただけないでしょうか?」


「わ、わかったわよ……。」

 死因に納得がいかなかった奈津子は、病理解剖の許可を出した。


 そしてその結果、ご主人はガンでした、と告げられた。それも全身に転移していて手遅れだった、と。我慢強い方ですね、と言われたが、それは息子のほうだった筈だ。


 奈津子は思わずゾッとする。あんなに元気だった人間が、突然ガンが全身転移して死ぬなんて、まるであの息子に呪われたかのようだと思った。


 火葬の手続きがどうのと言われたが、これ以上関わるのは冗談じゃなかった。クビになったばかりだというのに、その金を自分に出せと言うのか。


 奈津子は春田の元妻に連絡し、死んだから引き取りに来るよう、自宅に電話をかけた。番号は以前イタズラ電話をかけるのに、春田の携帯から調べて知っていた。


 春田の元妻は言われた通りにやって来た。後は任せたわよ、あたしはもう関係ないから、と言って、奈津子はマンションに帰っていった。


 人が死んだ家で寝たくはなかったが、金がないので仕方がない。すぐに引き払っていったん実家に戻ろう、と思っていた。


「まさか死んでくれるなんてね……。保険、まだ解約しなくて良かったわ。あの子に財産を残してくれてありがとう。唯一いいことをしたわね、あなた。」

 そう言って、春田の元妻は笑った。


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