この中華料理屋は、芸能人御用達で、VIP席がゆったりとしたソファーになっている。裏から直接地下駐車場から上がることも出来て、同じ建物内には、通常のエレベーターからはたどり着くことの出来ない、現金に換金出来る違法カジノも併設している。
その人物が日本にいた頃は、よく元ビジュアル系バンド出身で現在はソロのボーカリストの姿があったが、今は海外に拠点を移し、それからはあまり見かけなくなった。
外から直接たどり着く入口がなく、知っている人間しか入ることの出来ない店だ。
向井も1度連れて行ってもらったが、向井自身はあまり興味がなかった。
向井はこの中華料理屋のVIP席が好きだった。よくある回るテーブルではなく、中央に大きな四角いテーブルが1つだけあり、ゆったりとしたソファーは、ベッドの代わりにするのにもちょうどいい広さを持っている。
ようするに、この店は互いの家やホテルに出入りが憚られる有名人の為の逢引場所を兼ねているのだ。──同時に、単なる食事の場所として、初対面の相手を油断させられる場所でもあった。
料理が運ばれ、食事を始めながら、杉本が今後の獄寺ちょこのマネージメントについて主に話し、向井の特番で顔出しのダンチューバータレントとして、ブレイクさせたいという展望を語る。
獄寺ちょこはずっと下を向いたまま、黙々と料理を口に運んでいた。
その途中で杉本が電話をかけると言って席を外した。向井は内線を使ってカクテルを注文した。
すぐに従業員がブルーのカクテルを運んできて、獄寺ちょこと向井の前に置いた。
「ノンアルコールだからだいじょうぶだよ?美味しいから飲んでご覧。」
向井がそう言うと、獄寺ちょこは無言でグラスを持ち上げ──向井の頭にカクテルをぶちまけた。
「──見知らぬ男からの、青いカクテルには気をつけろ。ジョーシキだっての。」
眉間に皺を寄せながら、吐き捨てるように獄寺ちょこが言う。
どうやらバレていたようだ。……睡眠薬入りのカクテルについて。昏睡レイプが一時期流行ったことにより、睡眠薬には水に溶けると青い色がつくように作られるようになった。
だから青いカクテルでないと、睡眠薬を溶かすことが出来ないのだ。睡眠耐性があっても、睡眠薬はまた別の効果の為、耐性がある人間にもきいてしまう。
だから探索者たちは、薬には常日頃から気をつけている。
さすがに未成年とはいえ、探索者相手にナメ過ぎか、と向井は内心苦笑した。
だが、向井にはまだまだ奥の手があった。呼び出しさえすればこちらのものなのだ。カクテルは単なる趣味だ。身動きの取れない女を相手にするほうが面白いという、向井の。
「俺には、世間に公表していないスキルがあってね。これを使ってくる魔物は日本じゃ少ないから、上位探索者であっても耐性持ちはほとんどいないと言ってもいい。だから君も持ってないんじゃないかな。たとえ君が上位探索者であったとしてもね。」
「──なにを……。」
「<誘惑>。」
向井はスキル<誘惑>を発動した。
誘惑は強制的に相手を発情させる状態異常スキルだ。聖魔法による状態異常解除や、専用のキュアポーションでなければ、解除することの出来ないものだ。
この状態異常にかけられたものは、解除されるまで強い性的刺激を求め続けるようになる。状態異常にかからない探索者はいない。
耐性があれば耐えられるが、かかることはかかるのだ。まったくかからない場合は、耐性ではなく、無効のスキルを持っている人間に限られる。
「あっ……!ああっ!」
獄寺ちょこは心臓の鼓動が早くなり、体中が熱くなり、全身にじっとりと汗をかきだした。目から熱い涙があふれてくる。
「そろそろ苦しいだろう?……ほら、楽にしてあげるよ。」
向井はそう言って、苦しむ獄寺ちょこをソファーに押し倒した。
次の瞬間、獄寺ちょこの姿がスッと消える。獄寺ちょこのスキルか、と向井は思った。確か盗賊、隠密、移動速度強化の筈だ。
隠密で姿を隠しても、相手に触れられれば隠密はとける。おそらく移動速度強化を同時に使用したのだろう。
「隠れたって辛いだけだし、出口はそこのひとつだけだ。俺は出口を見張っていれば、君の姿をすぐに見つける事ができるんだ。諦めてお互い楽しもう?」
向井はそう言って、まだ1度も開いていない扉に、獄寺ちょこは室内にいることを確信し、扉を背にして出口を塞ぎ、はやる気持ちのまま服を脱ぎ始めた。
「さあ、早くおいでよ、もう逃げられないんだからさ。」
向井は口の端からも先端からも、ダラダラとヨダレを垂らしながらそう言った。
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