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第96話 海外勢、ジェーニャ・ボイコ

「無事契約書を処分出来たわ。やっぱり転写されてたみたい。契約書の原本があれば、普通に裁判やっても勝てたんだろうけど。」


 獄寺ちょこが、美織の部屋で出された飲み物に口をつけながらそう言った。


「正規な手段で手に入れた物じゃないと、証拠として認定されないから、相手が証拠を提出しないだろうし、証拠の確保が難しいことで、証明が難しいって弁護士に言われた時はどうしようかと思ったけど……。」


 獄寺ちょこのスキル的に、偽造された契約書を盗み出すことは簡単だったが、それだと裁判をおこしても勝てない。


 警察に被害届を出しても、証拠を確保してもらえるか分からず、またしてもらえるとしてもそれまでにかなりの時間がかかる。


 またあちらに契約書がある限り、それまで仕事をしなくてはならない可能性が高い、と弁護士に言われたことで、獄寺ちょこは契約書をコッソリ処分することに決めた。


 だがその前に事務所が倒産するとは思っていなかった。コッソリ侵入せずともよくなり、また放っておいても問題がなかったかも知れなかったが、万が一にも誰かの手に渡る可能性がないとは言い切れない。


 なので念の為処分することにした。これで完全に事務所とは手が切れ、獄寺ちょこはようやく安堵したのであった。


「そうですか、良かったですね、ちょこさん。それにしてもなんだって目をつけられたんでしょうね。ちょこさんが魅力的なのはわかりますけど……。」


 美織が祈りの指環を指にはめ直しながらそう首を傾げた。

「わかんない……。なんであたしを罠にかけてまで、手に入れようとしたのか……。」

 獄寺ちょこはそうため息をついた。


 有名な女優や歌手を抱いてみたい、という男たちの欲求は昔からあるものだが、それがダンチューバー界隈や、ダンVtuber界隈まで伸びただけの話であることを、獄寺ちょこも美織も知らなかった。


 迷惑配信者時代の獄寺ちょこは、普段仮面で顔を隠して行動していたが、上位探索者相手に、顔を隠したまま相対することは難しい場面も多かった。


 その為獄寺ちょこの美少女ぶりは、既に一部では有名だった為、手が伸びただけのことだ。美織の美少女ぶりの噂が届いていれば、美織だって被害者になる可能性があった。


 TV業界しか知らない彼らは、ネットの情報にうとい。ネットにいる人間たちについてはもっとうとい。それだけの話である。


 その頃、リスナーたちは、新たな玩具を見つけて盛り上がっていた。


 剣呑寺いおりさんに会いたい、と日本語で書かれたタイトルの配信枠は、海外勢のジェーニャ・ボイコと名乗る、ダンVtuberの男性配信者の雑談配信だ。


 金髪オッドアイの、襟足の長い髪型をしたイケメンのガワである。リスナーたちが彼に興味を持ったのは、流暢な日本語を話す海外勢だという理由からだ。


「頑張って日本語覚えたんよ。でもワイ女子とほとんど会話したことないでな。どうしたらええかわからんわ。」


:なんで関西弁?www

:顔とのギャップが凄いwww

:いや、これどっちかっていと、J民だろw


 J民とは、匿名掲示板の中でも、実況板にいる人間の総称である。掲示板の中でも独特の文化を持ち、関西弁に似た独自の言語で会話することが特徴である。


「お、ようわかったな。掲示板で覚えたで。いつもいおりん実況スレ徘徊しとるで。」


:匿名掲示板で日本語覚えんじゃねえよwww

:こいつ顔と声がいいだけの俺らだwww

:海外勢なんて珍しいし、コラボ頼んでみたらいいんじゃね?見知らぬ相手でも、案外許可してくれんじゃね?


「許可してくれるやろか?こんなキモイやつ近付けんとこってギルドに判断されん?ワイ実際キモヲタやし。」


 と消極的に発言するボイコ。出身はウクライナとのことだった。


:ウクライナ人なら、中の人も相当なイケメンなんだろうな

:確かにウクライナ人は美人が多い

:オフコラボ提案したら、ワンチャン顔に釣られるんじゃないか?いおりんだって女の子だろ


「確かに顔だけは自信あるで。」

 と言い切るボイコ。


:こいつハッキリ言いやがったよw

:嘘に思えてきたw

:中身俺らだろ?なら気のせいだw


「ほんまやって!ワイイケメンなんやから!ガワのまんまでビックリするで。ほんま顔だけ見てくれたらええんやけどなあ。」


:はい、嘘〜

:悲しくなるからやめとけって

:こいつイジられキャラだろw絶対w


 と、女性ダンVtuberと出会いたいという枠にも関わらず、すっかりリスナーに自分たち側の人間と判断されたボイコは、視聴者を味方に付けた様子だった。


 配信を終えたボイコは、リスナーから剣呑寺いおりがギルド女神の息吹所属であることを教えられ、ネットで住所を確認していた。


「──ワイ以外にスキルを消す能力を持つスキル、<アンケート>なあ。こりゃ会いに行かんわけにはいかんやろ。」


 そう言って冷たく目を細める美貌は、確かにガワと同じ金髪にオッドアイでボイコそのまま。ボイコは日本行きの飛行機を手配し、次の日には機上の人となっていたのだった。


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