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第108話 女神の天秤

「──女神の天秤が欲しい?また難しいものが欲しいんですね?沙保里ちゃん。」

 美織は突然相談があるとやって来て、目の前で正座しつつ俯いている沙保里に、不思議そうに首を傾げた。


「女神の天秤ってあれでしょ?相手に罪がある場合、今まで犯した罪と同等の罰を受けるっていうアイテムよね?」


 足を組んでソファーに座りながら、組んだ腕の片方の手を持ち上げながら獄寺ちょこも尋ねている。


「はい、それです。」

「なんだってそんなものが欲しいのよ?それに使うには膨大なMPを必要とするし、手に入れたところで、使えないじゃない?」


「……友だちを助けたいんです。」

「友だち?」

「お友だちに何かあったんですか?」

「掛川りこさんってわかりますか?」


「いえ、存じ上げないですね?」

「あたし知ってる。最近出て来て急に人気が出たダンチューバーよね?ルカルカがアイドル配信をやめたから、次世代のアイドル配信者って言われてる人よね。」


「その人の妹さんが、転校先の同じクラスにいるんですけど……。掛川りこさんが人気が出たことで、友だちが目立ち始めて、それをやっかんだ一部の女子生徒から、いじめを受けるようになっちゃったんです……。」


「それは由々しき事態ですね。先生や親御さんには報告したんですか?」

「たぶんしてないと思います……。その子たちに脅されてるみたいで。」


「脅されてる?」

「──裸の写真、撮られたみたいなんです。その子たちが話してるのを、偶然聞いてしまって、それで……。」


「タチ、悪っ!」

 思わず獄寺ちょこがそう叫んだ。

「それで誰にも相談出来ないでいるんですね……。無理もないです。」


「もし親や教師に言ったとしても、素直にやめると思えないし、写真をばらまかれたらアウトです。だから同じ目に合わせて、自分たちがやっていたことが、どれだけ酷いことだったのか、理解させてやりたくて。」


「それで女神の天秤ってワケね。確かにそれが罪だと判断されれば、同じ目に合わせられるから、嫌でも理解出来るだろうし。」


「そうですね。このまま社会に出たら、人に迷惑かけて平気な大人になりそうです。学校がなあなあにしようとしたら、それこそ。」

 美織は真剣な表情でそう言った。


「正直その可能性はあるわね。被害者1人の人生より、加害者数名の人生を救おうとする国だもの、日本って。」

 と獄寺ちょこは肩を竦めた。


「……大人になって大きな犯罪を犯す人は、子どもの頃に既になんらかの罪を犯していて、それを人に知られなかったか、知られても大した罪に問われなかった人の率が、とても高いんだそうです。」


「そうなの?」

「はい。だから罰をきちんと受けないと、歪んだ大人になるということです。」


「悪い成功体験を重ねてしまう、ってことですね?自分はそれが許される存在だと思っちゃうのかも知れないですね……。」

 と沙保里が言った。


「子どもだから許すのではなく、子どものうちにきちんと、悪いことは悪いと考えを改められる環境が大切だと言うことです。子どもの為を思うのなら、むしろ許してはいけないんだと、私は思います。」


「なら、手に入れる?女神の天秤。」

 獄寺ちょこが美織を見つめる。美織は獄寺ちょこを見つめ返すと、こっくり頷いた。


「はい、やりましょう。沙保里ちゃんのお友だちをこれ以上辛い目に合わせない為だけでなく、その子たちを歪んだ大人として成長させない為にも。」


「いじめっ子の為っていうのが、美織らしいわね。」

 と獄寺ちょこが笑う。


「大人なら、自分のしたことに自分で責任を取るべきですし、変わるには手遅れなことが多いですが、子どものうちなら、まだチャンスはありますから。」


 美織はニコッと微笑んだ。沙保里はずっと俯いたまま、何かを考えているようだった。

 数日後、美織と獄寺ちょこは、奈良県にあるとあるダンジョンの深淵に挑んでいた。


 ここにいる深淵のフロアボスである魔物が、女神の天秤をドロップする為だ。

 巨大な池の中央に、ドーナツの穴のように池と同じ形の島があった。


「いきますよ、ちょこさん。」

「オーケー。」

 美織と獄寺ちょこは、池を飛び越えて島へと渡った。


「こんなにデカけりゃ、さけられないでしょ!新爆弾の的になりなさい!」

 獄寺ちょこが、ユニコーンの角の素材から生み出した爆弾を降り注いだ。


 爆発した爆弾は、そこから内部入り込み、植物を急速に発芽させて体内を侵食した。

 相手のMPを奪って育つ植物であり、育つと聖力を持った花を咲かせ、実がなる。


 実がなる時には相手は死んでいるという、恐ろしい寄生植物だ。グラグラと地面が揺れて、魔物が姿を現した。


 島はアスピドケロンという、亀のような魔物だった。体の周囲を水瓶のようなものが覆っていて、それが池の水となっていたのだ。


 アスピドケロンは首を落とさないと死なない為、まずは隠れている本体を引きずり出す必要があったのだ。


:でか!

:島自体が魔物とか、攻撃当て放題じゃん?

:ちょこタン向きの魔物だな!


「ピュー!!」

 甲高い笛のような鳴き声をあげ、アスピドケロンがのたうちまわる。


「すみませんが、大人しくやられてくださいね!」

 美織は飛び上がると、アスピドケロンの首を正確に一刀両断した。配信画面に、


【確定ドロップアンケート。

 1.失われし黄金の蜜月(0.12%)

 2.女神の天秤(0.63%)】


 と表示された。


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