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第123話 高坂依織

「大規模な救出部隊……ですか?」

 自分1人でいこうと思っていた美織は、その言葉に少し引っ掛かりを覚えた。


「ああ。ダンジョンの中は広大だ。特に“異界の門”の中は過酷な自然であることが多い。そんな中から人ひとり探し出すんだ。人手は大勢いるだろうからな。……もちろん最悪の事態をも想定した上で。普通のダンジョンと違って、“異界の門”には基本安全地帯というものがないからな。」


「ああ……そういうことですか。」

 最悪の事態。つまり父親が亡くなっている可能性を想定しているということだ。


 長年“異界の門”の中にいたのだ。むしろその可能性のほうが高いと言えるだろう。

 過酷な自然の中で、いくら高レベル帯の探索者であっても、食べ物を確保し、安全な寝床を見つけて暮らすのは難しい。


 ダンジョンには、安全地帯と呼ばれる場所がところどころ存在する。深いところにまで潜り過ぎて疲弊した場合や、イレギュラーに遭遇した場合に救出を待つ為であったり、ボスに挑む前に準備を整える場所として使われる。


 そんな場所がないのであれば、権藤が最悪の事態を前提として話をしているのも無理のない話だ。


 美織は助けに行く前提で話をしていたが、権藤は遺体回収を前提と話しているのだ。

 魔力探知は生き物にしか基本使えない。死体になり年月が経過し、白骨化した父親を見つけ出すことは、美織にも出来ない。


 その為には確かに人手はたくさん必要だろうと思えた。

「わかりました。すぐに向かうつもりでしたが、権藤さんの連絡を待ちたいと思います。」


「ああ。親父さんは国の功労者だからな。ダンジョン協会にもかけあって、すぐに動くよう手配してもらうよ。」

 権藤はうなずきながらそう言った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その頃、1人の男が洞窟の中にはった<絶対防御>のシールドの中で目を覚ました。

 長く伸びた髪は一定の期間で適当に切っている為、ボサボサではあるが肩にかかる程度に留まっている。


 ヒゲはある一定の長さまで伸びたら、それ以上伸びなくなったので放置していた。

 着の身着のままの服は垢が定着して色がつき、茶色く変色している。


 それでも定期的にお湯で頭や体を洗っていた為、まだマシなほうではあった。


 <絶対防御>は24時間快適に過ごせる安全地帯を作り出すスキルではあったが、外からは丸見えの為、動物や魔物に見える場所にいると、目が覚めた時に周囲を囲われていたりして面倒な為、洞窟の中にいたのだ。


 24時間が経過した後は、24時間のリキャストタイムがある為、その間は少しでも安全な場所に隠れたり、魔物と戦い続けて過ごさなくてはならない。


 何年もその生活を繰り返すうち、まる1日寝て回復し、次の日1日活動するという生活にも体が慣れてきていた。


 外は猛吹雪で何も見えない洞窟の中で、男はマジックバッグから鍋を取り出し、作っておいた小さな焚き火あとから火種を探し出して、ズボンの中に手を突っ込むと、陰毛を引きちぎって振りかけ、息を吹きかける。


 こうすると火が起こしやすいというのも長年の経験で学んだ知識だ。洞窟の外に行って雪をすくって鍋に入れると、焚き火の上に乗せてお湯をわかしはじめた。


 まずはわかしたお湯で体を拭き、軽く頭を流す。その鍋を使ってそのまま煮炊きをするのだ。鍋は1つしかない為、これにも慣れたものだ。


 衣服や血を綺麗に消す生活魔法というものがあり、魔法がこめられた魔石などがドロップすれば、時々それで綺麗にすることが出来たが、この“異界の門”の中の魔物は強過ぎて、そういう弱い魔物がドロップするものは逆にあまりドロップしないのだ。


 眠りにつく前にドロップしておいた肉を取り出し、調理を開始する。ここがダンジョンの中なおかげで、すぐに冷えて血が固まってしまう環境で血抜きをしなくてすむのがありがたい。


 血抜きをしている間に動物や魔物が寄ってきたり、血抜きする前に肉が冷えてかたまって、完全に血抜き出来ないままになることもないからだ。それだけが救いと言えた。


 持ち込んだ調味料は既に底をついている。ダンジョンの中で手に入れたもので味付けをし、温かいだけでごちそうだと感じる食事を済ませると、男は立ち上がった。


「さて、今日も目覚めた時の為に狩りに行くか……。」

 誰に言うともなく1人呟くと、マジックバッグにしまった手帳を取り出し、中から写真を取り出して眺める。


 そこには幼い美織と、妹の依音を抱いた母親の美音の姿が写っていた。手帳をマジックバッグに戻すと、洞窟の奥へと向かう。


 吹雪の中尻丸出しでふんばらなくてもいいように、洞窟の奥に掘ったトイレの穴で用足しをし、土をかけて穴を埋めると、一振りの刀を携え男は洞窟の外に飛び出して行った。


「ゴアアアアアアア!」

 男の姿を見つけた、甲冑をつけたような白いクマのような魔物、アイスベアーたちと、付き従うように行動するアイスウルフたちが、群れで襲いかかってくる。


 男はアイスベアーの上を移動するかのように、的確に頸動脈を切り裂いて飛び回る。ひときわ巨大なアイスベアーの上位種かつボスである、デーモンアイスベアーが現れる。


 斬りかかる男の武器を牙で受け止め、ボロボロに噛み砕いてしまった。すぐさま男は倒したアイスベアーとアイスウルフの、素材や魔石などのドロップアイテムを拾うと、


「──スキル合成、魔道具師、鍛冶職人、付与術師。」

 その場でアイスベアーとアイスウルフの素材を使った双剣を生み出した。


 氷属性の魔石を使った双剣は、魔法を生み出す魔法剣となっていた。そこに付与術師の力で威力を増した魔法は、デーモンアイスベアーの防御力をも上回っていた。


 切り裂かれ、ドロップ品を落として消えるデーモンアイスベアー。

「……今日もまた生き延びちまった。」

 男はそう呟くと、ドロップ品をマジックバッグに詰め、洞窟に引き返すのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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更新遅くなりました。

HANAの「ROSE」いいですね。

鬼リピが止まりません。

これ聞きながら美織のバトルシーンが書きたいですね。


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