「アルフレッド様、お迎えに参りましたわ。ささ、皆様も馬車へとお乗りくださいませ」
豪華な馬車の中からティファが出てきた。
庶民風ではなく、綺麗なドレスを纏った王女様の姿だ。
お忍びだった朝と異なり、護衛の騎士達もやたらと多く目立って仕方ない。
俺達は戸惑っていると、騎士の一人が前に出てくる。
「驚かれるのも無理ありません。この方はルミリオ王国の姫君、ティファ・フォン・ルミリオ様であります。恩人であるアルフレッド殿とお仲間殿をお招きするため姫様が直々にお迎えに来られた次第です!」
ドヤ顔で言ってきた。
うん、みんな知っているぞ。事前に俺がネタバレしておいたからな。
ただ戸惑っているのは周りから目立ちまくり浮きまくっている状況だよ。
宿屋の主人から宿泊している冒険者達まで全員が口をポカーンと開けて見入っている。
「……ま、まさか王女様とはこれは、とんだご無礼を、なぁガイゼン」
「そ、そうだな。オレぇ、朝は無礼なこと言って申し訳ございません……どうか首ちょんぱだけは勘弁してください、はい」
「アルフレッド様、どうか畏まらないでください。お仲間の方も。わたくしがお食事を邪魔した無礼もあります。決して咎めたりはいたしませんのでご安心を」
ティファは優しく微笑む。
ざまぁされる側だと、ひたすら主人公をヨイショするだけのムカつくネェちゃんだが、味方側だと案外人柄の良いお姫様かもしれない。
俺達は安心して促されるまま用意された馬車に乗り王城へと向って行く。
そんな中、向かい側に座るティファが頭を下げてきた。
「わたくしのこと隠していて申し訳ございません、アルフレッド様」
「……決してそのようなことは。姫様どうか気になさらないでください。それより、どうしてお一人で町におられたのですか?」
「生まれてからずっとお城の暮らしだったので下界の暮らしが知りたかった、わたくしのわがままです。いつも周囲に心配を掛けさせ、お父様にも叱られておりましたが……今後は少し控えようと思っています」
そうした方がいいかもな。
原作でも彼女の家出癖に目をつけ、拉致しようと画策した反国王派の貴族がいたんだ。
んで主人公のローグがいい感じで駆けつけ、お姫様を助けて国王から感謝されたというエピソードがある。
今のキャラ変したローグじゃ到底無理な話だ。そもそもティファとの接点どころか、彼女から怨みさえ買われているだけに……。
慕われるうようになった俺だって自分の身を守るのに精一杯だし、主人公補正もないから論外だろう。
そうこうしている内に王城に到着した。
馬車から降りて兵士に誘導されるがまま客間へと案内される。
国王の準備が整い次第、謁見の間へと通されると説明を受けた。
当然ながら場慣れしてない俺達は緊張しまくる。
「きっと褒美くらい貰えるだろう。貰ったらとっとと帰ろーぜ」
「アルフは随分と王族が嫌いだよな? オレは嫁と娘に自慢話ができると、ちょっぴりテンションが上がっているんだけど」
「ガイゼンはあまり関わりがないから、そういう反応でいいと思うけど……俺は色々と嫌な思い出しかないんだよ」
原作での顛末を知っているだけに余計だ。
などと会話をしていると、兵士達が部屋に入ってきて呼ばれる。
そのまま謁見の間へと案内された。
いよいよか……。
派手な装飾の頑丈そうな扉の前に立たされた。扉が左右に開けられる。
兵士に誘導されるがまま赤絨毯の上を歩かされ、段差から少し離れた距離で跪き畏まるよう指示されて言う通りにした。
「客人よ、面を上げて良いぞ」
低く渋い声質に促され、俺達は顔を上げる。
段差の上に設置された玉座があり、初老の男性が悠然と腰を下ろしていた。
黄金色の長髪に髭を蓄え、頭には王冠が被られている。
高級そうな白いガウンに金色の装飾が縫い込まれた赤いマントを纏っている。
――国王のフレート・フォン・ルミリオ。
コミック版通りの面構えだ。
そのフレート王の隣には娘であるティファが佇んでいる。
何故か俺の方を見つめながら、うっとりとした表情で微笑んでいた。
「勇敢なる剣士アルフレッドよ。其方は数カ月前、娘を助けてくれた恩人だと聞く。娘に変わって感謝するぞ。この度は客人として招き、お礼と褒美を取らそうと思っておる。どうか楽しんで頂きたい」
「はっ、ありがたき幸せでございます(楽しめねぇよ。とっとと返してほしいんだけど)」
フレート王が指を鳴らすと奥から召使いが現れ、丁寧な動作で大きな白い袋を手渡される。
ずっしりと重い感触。予想通り金貨のようだ。
これで少しはピコを購入した借金に当てられるだろうか。
そう思っていた時、側近の男がフレート王に何やら耳打ちしている。
「……うむ、なるほど。其方であったか。一年前、勇者の称号を辞退したという冒険者は?」
チッ、やはりバレたか。
やたら名前だけは売れていたからな。
そう思って既に言い訳は考えてある。
「ハッ。その節は大変なご無礼なことを致しました。真に光栄であり名誉ではありましたが……何分、実力不足であり、この私を選んでいただいた方や陛下、そして祖国にご迷惑をお掛けしてしまうという懸念があり辞退させて頂いた所存です。現に所属していたパーティを辞めたことで、冒険者としての等級が下がったことが何よりの証と言えましょう」
「確か【英傑の聖剣】だったな? 色々と噂は聞いておるぞ。ただこの一年、慈善事業活動にも専念されており、民達からも評判が良いということもだ」
国王め。さも知らなかったフリして、事前に俺のこと調べてやがったな。
きっと娘にちょっかいをかける悪い虫とでも思っているのだろう。実際に悪役だけどな。
褒美を貰ったことだし、ここはさらりと躱して早く帰ろう。
「過去を反省したからこそです。こんな私でもルミリオ王国に暮らす民のため、何か役に立つことがあればと……そう思い行動を起こした次第でした」
俺の説明にフレート王は「ふむ」と相槌を打ち、ティファは「まぁ素敵ですわぁ」と頬を染めている。
なんだか娘と違って、国王の方は髭面だけに感情が読みにくいぞ……。
「報告とは違い、中々誠意ある男よ。気に入ったぞ。国王としての体面は以上だ――ここからは余の客人として持てなそうぞ。どうか気を楽にして頂きたい、宴の準備をしろ」
フレート王は手を叩き、召使い達がそそくさと作業に取り掛かる。
俺達は客人として別室に招かれ、宴会用の正装をすることになった。
帰りたいのに帰れない……下手したら泊まっていくことになりそうだ。
まぁ仕方ない。ここは招待を受けるしかないだろう。
原作と異なりフレート王も変に絡んでこないようだしな。
けど何だ? さっきから嫌な予感がする……。
そう、さっきから都合が良すぎるんだ。
また鳥巻八号のしょーもないガバ設定なのか……何か悪いことが起こる予兆のように思えた。
などと考えながら鎧を脱がされ、召使い達によって身形を整えさせられる。
全身が映る大きな鏡の前に立たされる俺。
目の前にすらりと長身で爽やかな紳士風の青年が立っていた。
てか正装した俺の姿。
まるでどこかの王子様のような身形だ。
にしても
自分の顔なのにムカついてくるんですけど!
なまじ苦労させられているだけに余計になぁ!
――っと、鏡を眺めながらやり場のない怒りを滲ませてしまうのだった。