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第46話 ワッフル

 今夜の夕食は、鯖の味噌煮と煮物、サラダ、それに味噌汁だ。

 想真は七時位に帰ると連絡が来た。

 普段よりちょっと早い帰りは嬉しい。

 俺はワッフルの準備もして、想真が帰ってくるのを待った。

 夕食の準備が終わる頃、廊下を歩く音が響く。


「ただいま、俐月」


「お帰り、想真」


 答えながら、俺は料理を盛り付けて食卓へと運ぶ。


「今日のおかず……これ、鯖の味噌煮?」


「そうそう。色々作れそうなもの調べててそれで」


「へえ、すごいね俐月。おいしそう」


 想真に笑って言われ、俺も嬉しくなってくる。


「このあと、ワッフルもあるからちょっと控えめにしてあるよ」


「あぁ、ワッフル! すっごい楽しみにしていたんだ」


 無邪気に笑う想真は、椅子に腰かけた。


「食べようか、俐月」


「うん」


 答えて俺は、椅子に腰かけて手を合わせた。


「いただきます」


「いただきます」


 俺は箸を手にし、鯖の味噌煮に手を付ける。

 自分で作っておいてあれだけど、うまくできてるかも。


「マジおいしいよ、俐月。味噌煮も、かぼちゃの煮物も」


 すっげー笑顔で言われ、俺はほっとする。

 よかった、美味しいって言ってもらえて。


「なあ想真ってなんか好きな食べ物ってないの?」


 前、アルトさんに聞いたら肉を喰わせておけばいいって言われたけど。

 あと想真は甘いものが好きだ。でも他にこれといって好きなものを聞いたことがない。

 すると想真はちょっと考える様なそぶりを見せた後、微笑み言った。


「俐月が作るものは美味しいからね。甘いものは大好きだけど、それ以外は決めにくいな」


 って言い出す。

 そんなこと言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。


「え、あ……でもなんかあるだろ? 好きなもの。クリスマス、お前忙しいだろうけどどっかでごちそう作れたらなって思ってさ」


「そんなこと考えてくれてるの?」


 嬉しそうに笑う想真に、俺は頷き答えた。


「当たり前だろ。だって……クリスマス、だし」


 世の中、クリスマスってなにすんのかな。実家にいたときはお母さんがケン○ッキーを買ってきて、ピザ焼いてくれていたっけ。

 すると想真は箸を止め、考え込みだす。


「どうしよう。クリスマス……日にち……ケーキは二十四日に頼んでるし。でも仕事で……早く帰るようにはするけど……料理……」


 なんて呟いている。

 ケーキ、二個頼んでることを思うと、そんなにごちそういらねえかも。


「……ピザ、作ってみようか?」


 そう俺が言うと、想真がばっと顔を上げる。


「いいね、それ。ピザ!」


「でもそれだとホームベーカリーあったほうが楽、なのかも」


 うちの親はそれで生地を作ってた。その方が楽だからって。

 すると想真ははっとした顔をして、


「ホームベーカリーね。わかった。買おう。後でネット見てみようよ」


 なんて言い出す。


「まじかよ」


 今日見てきたけど、ホームベーカリー、けっこう高いぞ?


「三万は超えてたぞ」


「それくらいならいいよ別に。俐月に必要なら俺、全然お金出すよ」


 まじかよ。

 なんか申し訳ないような嬉しいような。

 そんな複雑な想いを抱えながら俺は想真の申し出に頷き、


「ありがと、想真。じゃあピザ、作るよ」


 と答えた。



 夕食の後、テーブルの上を片付けてワッフルメーカーを用意する。

 それにお皿やホイップにチョコレートソース、メイプルシロップを用意して、俺はワッフルメーカーの電源を入れた。


「家でワッフル作るなんて初めてだよ」


「俺もだよ」


 言いながら俺はワッフルメーカーが温まったのを確認して、そこに生地を流し込む。

 そして焼くこと数分。

 開けると、ふわっとしたワッフルが姿を現した。


「うわぁ、すごい。超おいしそうじゃん」


 弾んだ声で言う想真。

 俺はお皿にワッフルをのせて、二枚載せて、想真に差し出す。

 すると想真は、


「俐月のは?」


 と言った。


「俺は後でいいよ」


 答えつつ、俺は次の生地を焼く。


「一緒に食べようよ」


 言いながら、想真はもう一枚の皿に、ワッフルを一枚のせた。

 別にすぐ焼けるからいいのに。

 そう思ったけど、俺はボウルをテーブルに置き、


「わかった」


 と答えて、皿を受け取った。

 ホイップにメープルシロップをたっぷりかけて。俺たちはワッフルを食べる。

 ふわふわした生地で超うまい。


「うわぁ、おいしいね」


「うん。家なら好きなのかけ放題だしいいな」


 見れば想真はたっぷりのホイップをのせて、チョコレートソースもたくさんかけている。


「お前、かけすぎじゃね?」


「これくらいやりたいじゃん? あぁー幸せ。これ、定期的にやろうよ」


 目を輝かせて言われ、俺は頷いた。


「そうだな。月イチくらいでやろうか」


「それいいね。俐月のお陰で楽しみが増えて嬉しいよ」


 そんな想真の笑顔に俺も嬉しくなる。

 季節によってはフルーツ載せたり、色んなアレンジできるよな。考えてるだけで楽しくなってくる。

 俺は焼けたワッフルを皿にのせ、次の生地をセットした。



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