「あ゛? 何でだよ?」
低いドスの利いた声でけん制しながら、取り乱す様子を見せずに端的に理由を聞いたりんちゃんは、ちゃんと冷静だ。
「あのね、俺は誰かさんと違って賢いから、感情的に動かないの」
屑山は筆川の手を振り払い、さらに挑発した。
「今この場で一番危険なのは、き・み。イキリ太郎くん」
「あ゛ンだテメェ! 女衒未満のうんこカスが!! ぶん殴っぞ!!」
それ、殴ったあとに言っても……。
りんちゃんの顔面パンチを喰らった自称ホストの屑山は、地面に膝をついて項垂れる。ぽたぽたと、鮮やかな鮮血が、殺風景なコンクリート打ちっぱなしの床に彩りを添えた。
「弱ぇなァ? 自称ナンバーワンホストくんよォ」
「ちょっと待って待って! ストップスト~~ップ!」
「暴力はいけないと思います!」
りんちゃんと屑山の間に、宇佐霧と二階堂が仲裁に割って入った。二人ともまだ学生だぞ。いい大人が何やってんだよ……。
しかし、なんか妙だな。
「もしかして、暴力ってペナルティないんか?」
筆川が疑問を口にしたとき
『そうだよ』
一瞬ブラウン管テレビの画面がついて、それだけ言うとすぐに砂嵐に戻った。
「そォかよ。んじゃ、もう一発殴っとくか」
腕まくりするりんちゃんを、さすがに僕が体を張って止めた。真正面から抱きつくという形で。
う、うわぁ……! 久しぶりのりんちゃんの体臭だぁ……ていうか、香水変えた? 胸板も、四年前よりちょっと分厚くなってるぅ……!!
「ひでぶ!!」
殴られた。
「触んじゃねェ」
ひどい……一応、元カレなのに。
じんじんと痛む頬をさすりながら、ある疑惑が頭の中に浮かび上がった。
もしかして、りんちゃん彼氏できた……?
って、こんなこと考えてる場合じゃないだろ! 今はデスゲームの最中! 負ければケツ穴を凌辱されて死ッ!!
ええい! 考えるな考えるな集中しろ!! 浸透滅却煩悩退散煩悩退散!!
それに、もしりんちゃんに新しく彼氏が出来ていたとしても、それをとがめる権利なんて、僕にはどこにもないのだから……。