「ピーッ!」
試合が始まった。これまでとは違い防戦だった。相手はコントロールがうまい。エースストライカーはこっちの味方だからサッカー部の主力が欠けているように思えたが、そんなことなかった。某炎寺と俺のフォワードの二人も下がって守りに徹するしかなかった。攻めるチャンスが前半一度もなく、後半を残すだけになった。奇跡的に無失点なのが救いか。勝ちを目の前にぶら下げられて、果たして食いつけるか。
後半開始前に休憩が挟まれた。
「咲くん、咲くん。頑張って。ファイト!」
「……小春。なんだ、こっちに来ていたのか」
「はい。女子は一回戦で負けてしまいました」
「そうか。それなら、仕方ないな。でもな、こっちも相手がやたらと強いんだ。奮闘してはいるが、厳しい。優勝まであと少しなんだけどな」
小春との会話に祐希が入ってきた。
「なになに、二人で話しちゃったりして。恋の密談? いいねー、おあついねー、お二人さんは」
「サッカーの決勝戦、勝負の後半がこれから始まるんだ。冗談でもやめてくれ。ほら、試合が始まるぞ」
コートには人が集まって来ている。そろそろ行かないと。応援にやって来た各クラスの外野も増えてきた。決勝戦だもんな。声を出して応援を始めたクラスも。祐希の部活復帰の事しか考えてなかったけど、クラス優勝も掛かってるのか。重圧だ。
「ピーッ!」
後半が始まった。最後の二十分。早々に、攻められてシュートを打たれた。あれは危なかった。やられてばかりだ。
ゴールキックからボールがディフェンスへと回り、祐希にボールが。どこで覚えたのかドリブルを披露し始め、うまいことひとり、ふたりと躱し、ボールを進ませてパスが飛んだ。こぼしながらもボールを受けた。チャンスだ。良いところに某炎寺も走って、フリーだ。俺は急いでクロスを上げ、某炎寺が飛んだ。
「フレイムシュート!」
火の出そうな勢いのその球は、そのシュートはゴールの隅を捉え、そしてそのままーー。
「ああーっ、くそっ。惜しい。入らなかったか」
残念ながらゴールキーパーに阻まれ、ゴールならず。その後カウンター攻撃をくらい、ゴールを決められて劣勢。そのまま試合終了。球技大会は準優勝で幕を閉じ、祐希の軽音楽部復帰は見送りとなった。
球技大会が終わると、日常を取り戻すためにだろうか。四人は屋上に集まった。
「あーあっ、ちくしょう! 最悪だぜ。あと少しだったったてのによ」
「いいドリブルだったよ。まあ、しょうがないさ。また機会があるだろうよ。それまではさ、この屋上で音楽やればいいじゃないか」
「屋上での音楽も、悪くはないんだけど。だけども、やっぱりな……」
球技大会の終わり、その放課後に懲りずに今日も屋上に集まっていた二人。女子二人は学級委員だから遅れるとか。別に無理して集まらなくても良いんだけど。
「うごーっ! くそーっ、くやしーっ!」
祐希はどうしても軽音楽部に戻りたいらしかった。しかし、俺はここでの音楽も同じじゃないかと、やはり思ってしまう。むしろ屋上で一緒にやっていたほうが楽しいんじゃないかと。いや、そうであってほしいと俺は願っているのか。こいつとの時間がかけがえのないモノになりつつあり、心を許すことができる数少ない時間の一つになっているから。俺はわがままを言いたいのか。だから優勝できなかったことが、それが嬉しいのか。
「明日からゴールデンウィークだ。気を落とすなよ。軽音部への復帰はまた機会があるだろうから、ここで練習を怠らないようにすればいいだろ。これまで通り付き合うからさ」
「まあ、そうなー。それもそうなんだよなー」
仕方ないよな、仕方ない。そう言い聞かせるようにして、祐希は今日もギターに手を伸ばした。球技大会の日くらい休めばいいのにと思うが、ゴールデンウィークでしばらく聞くことができないと思うと、惜しみなく聞きたいとも、そんな気分にもなるのであった。