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第20話 待ちきれない!

 そのロッジは今日も静かで、キラキラと輝く木漏れ日に包まれていた。

 和洋折衷型の貴賓室のような内装の部屋に入るなり、唇が重なった。どちらからともなく舌を絡ませ、愛を確かめ合う時間が始まる。

「南月……」

 慈愛と欲――。

 相反する物に満ちた声が南月の鼓膜を揺する。それに促され、南月は服から腕を抜いた。

「社長――」

「違う。響牙と呼んでくれ」

「きょ……響牙、さん……」

 呼び捨てにすることができずにいると、天黒がフッと笑った。

「南月……」

 鼻先を触れ合わせたまま天黒に名を呼ばれる。それだけで指先まで痺れた。

「俺が南月の世界を創造する」

「はい……」

「共に歩み、家庭も街も笑顔と幸せで満たしていこう」

「はい!」

 あぁ、と南月は歓喜の涙を零した。このアルファは違う。自分の全てを愛してくれる魅力的なアルファだ。

「響牙さん……」

 潤んだ瞳で南月はうつ伏せになった。

 髪を掻き分け、うなじを晒す。

 オメガはアルファにうなじを噛まれることで至高の幸せを手にすることが出来るという。

 ただ、それは一度きり――。それが今だ、と南月は確信していた。

「……ありがとう、南月」

 青く輝く瞳で天黒が答え、一糸纏わぬ姿で背後に回った。

 逞しい胸板を背中に感じる。

 うなじに口付けされた。その瞬間が近付くのを感じ、南月は四肢を震わせた。

「響牙さん……」

「俺が南月を幸せで満たすと誓う」

「はい」

 息苦しいほど強く抱き締められた。

 速い拍動が伝わってくる。

 熱い吐息をうなじに感じた。

「響牙さん……」

 もう、待てない――。

 南月が素直な気持ちを口にした瞬間、皮膚を裂く痛みが南月を襲った。

「ぁぁぁっ!」

 牙が食い込んだ。くっきりと痕が残るほど強く噛みつかれる。

「ぁっ……っ……、っぅ……!」

 うなじを襲う痛みの余波が手足の先へ伝わる途中、じわりと快感に変わっていく。その心地よさに南月の体が蕩けた。

「……南月、愛している」

 鼓膜を揺する天黒の声が南月の心を妖しく揺らす。血の滲むうなじを繰り返し舐められて沸き起こる劣情を抑えきれなった。

「ぁっ……、ぁ、はっ……」

 熱っぽい吐息を零しながら肩越しに振り返り、口付けをねだる。舌を絡め合うだけでは足りなくて、南月は強い束縛を求めた。

「響牙、さ、ん……ギュッて……抱き締めて」

 背を預ける安心感で気持ちが解れ、本能が解放されていく。胴を抱き、胸元を撫でる天黒の手に、南月の心は信じられないくらい乱れた。

「なんだか……変、です……。発情したみたい……」

 劣情を抑えきれなくて、南月は天黒の腕をギュッと握った。早くひとつに溶け合いたくて堪らなかった。

「ツガイになると、オメガはその相手にだけ発情するようになるそうだ」

「え……?」

「そうなってくれると、俺は嬉しい……」

 そこで言葉を切った天黒の指が唇を這った。すぐにそれを甘噛みし、口に含んで舐める。二本の指に舌を絡めたとき、耳朶を噛まれた。

「必ず満足させるから……」

「……はい」

 全てを充足してくれる存在――。

 過去も現在も、ありのままの南月を包み込んでくれるアルファに、南月は身を任せた。

 その指の動きに息が乱れた。

 濡れた指が首筋を這い、鎖骨を撫で、胸の突起を押しつぶす。何度もそこを捏ね回し、爪でいじめた後、さらに下降した。

 指の行き先は――?

 それを想像しただけで内腿が濡れた。

 臍まで降りた指が一旦止まる。

 どこへ向かおうか――。南月に相談するようにそこを撫で回してきた。

「響牙、さ、んっ!」

「どうしてほしい?」

「あっ……、そ、それは……」

 言葉に出すのはためらわれた。でも、天黒の指は動かない。

 分かっているくせに――。

 南月は天黒の手首を握った。そしてソコへ導いていく。背後でクスッと笑い声がした。恥ずかしい。でも、快感が欲しかった。

 天黒の指が足の付け根に触れた。そして、既に強さを持ち、起ち上がって涙を流している南月のたおやかな楔に絡みついた。

「はぁぁぁぁぁっ」

 聞くに堪えないような甘く淫らな声が出た。自分でも驚いたが、漏れた声を止めることはできない。

「ぁぁっ、ぁっ……あぁぁぁ!」

 自分でも触れることがあまりないそこを、天黒に許すこと自体が悩ましいのに、根元から先端まで、強弱を付けて撫でられては、感じずにはいられなかった。

「だめ……だめぇ……」

 語尾が溶けていく。

 先端から溢れる蜜を器用に絡め取り、天黒は聞こえるようにクチュクチュと濡れた音を立てて刺激してきた。自分で望んだものの、あまりに恥ずかしくて南月は天黒の腕を強く掴み、止めて、と腰を退く。だが、いざ、刺激が止まるとそれも受け入れがたかった。

「……どうしたい?」

 意地の悪い問いに、南月は首まで真っ赤にして俯いた。

「お願いです……」

「うん?」

「……気持ち良く、してください……」

 天黒の手を再びそこへ導く。ゆっくりと腰を揺らし、その手に楔を擦り付けた。再び快感の波が生まれ、南月の下肢を痺れさせた。

「かわいい……」

 低い声でそっと囁かれて南月は息を飲んだ。

 天黒の手が速くなる。リズミカルに扱かれ続け、楔はあっという間に快楽に満ちた。摩擦の度に敏感になり、積み重なる刺激で、弾ける瞬間に近付いていく。

「ぁっ、だめ、だめ……、響牙さんっ、このままじゃ……」

「このままじゃ?」

「ぁ、あのっ……」

「どうした?」

「ぁ、ぁぁっ……あぁぁ、で、でちゃ、う!」

 言い終えた瞬間、摩擦が強くなった。慌てて腰を退いたが、逞しい体に阻まれる。快楽を逃がすこともできず、強い刺激全てを受けた。あっという間に絶頂に向けて追い詰められていく。

「だめ、だめ……響牙さ、んっ!」

「あぁ、大丈夫だ。イッていいぞ」

「でも、でもっ、ぁ、ぁぁぁっ!」

 天黒の腕を掴んだ。

 ギュッと握り締めたまま、全身を強ばらせる。下腹部から手足の先まで突き抜けていく快楽に、全身が震えた。

「ぁぁぁっ!」

 腰を前に突き出すようにしながら絶頂へ駆け上がる。純白の迸りが宙を舞い、天黒の手やシーツを汚した。

「ぁっ……、んっ、んんん……」

 最高に体が緊張した後、全身の筋肉が急激に弛緩する。長く息を吐きながら、一人で悦楽の極みに登り詰めた余韻に浸った。

「気持ち良かった?」

「……っ」

 優しい声で囁かれ、南月は小さく頷いた。「良かった」と頬に口付けしてきた天黒は、そのまま秘所へ手を移動させた。手に付いた白濁を円滑油代わりにするつもりらしい。

「ここが欲しい……」

「ん……」

「南月……」

 天黒が意味深に何度も囁いてくる。

 言葉で伝わる思い――。

 首元へ甘えるように顔を擦り寄せてくる天黒へ頬ずりしながら南月は小さく頷いた。

「僕も……響牙さんが……欲しいです……」

「ありがとう」

 ヌプッと音がした。

 二本目の指に熱を持つ内壁を押し広げられる。深く浅く、リズミカルに出入りする指は無茶苦茶に動いているが、南月が喜ぶ場所を外すことがない。感じてしまう場所を的確に押され、南月は熱い息を吐いた。

「ッ! ンッ!」

 二度目の絶頂が近い。

 南月が悦楽に向かって駆け始めると、指はスルリと的から離れた。快楽の積み重ねが崩される寂しさに内壁が締まると、指は再びそこへ戻って来るのだった。

「……いじ、わる……」

 高みへ登れないのが辛い。南月は熱に浮かされた顔を向けた。天黒がフッと喉で笑う。

「すまない。でも……焦らした方が、俺を受け入れた時の反応がかわいいと思って」

 求められたい――。

 そんな願いが伝わってくる。

 天黒がそれを求めるなら……。

 南月はキュッと指を締め上げた。

「響牙さん……もう、……待てません……」

 膝を開き、四つん這いの姿勢で尻を揺らした。剛杭を探すように腰を揺らすと、天黒が負けを認めた。

「……分かった」

 ゆっくりと指が引き抜かれた。

「ぁぁっ……」

 喪失感に嘆く吐息を零した直後、猛々しい昂ぶりが押し当てられた。

 来る――。

 繋がる瞬間がそこにある。淫らな喜びに全身が震えた。

「ッァッ! ……ハッァァァッ」

 秘所の肉輪が剛杭の形に歪んだ。

 強引に肉壁を押し広げ、強い摩擦を伴って侵入してくる感覚に南月は息を詰めた。

 内臓を押し上げられる圧迫感に耐えかね、体が逃げるように前へ進む。だが、天黒の腕で引き戻された。

「ァァッ!」

 ズッと深みへ剛杭が埋まる。

 圧迫感と充足感に負け、南月はベッドへ崩れ落ちた。その腰をしっかりと掴んだ天黒が数回、奥を窺うように腰を跳ねさせる。

「ァァァンッ!」

 蜜園の扉を突き上げられると、無意識に声が漏れた。深みを強く突き上げられるのがいい。体の奥深い場所で教えられる快感に、南月は長く尾を引く甘ったるい嬌声を上げた。

「ァン、ァァッ! ァッ、ヒァァッ」

 背後から攻め立ててくる天黒の息が荒い。その雄の欲に満ちた吐息に興奮して、南月の体はさらに熱を増した。

「ァァァァッ!」

 上から打ち込まれる剛杭の動きが激しくなる。四肢の先端まで痺れさせる刺激がますます強くなり、南月の全身から力を奪い去っていく。

「ィィッ――! ァッ、そ、こぉぉぉぉっ」

 剛杭を全て埋められ、蜜園の扉を強く押し上げながら、グルリと腰を回されるのが堪らなかった。リズミカルに中を掻き乱され、突き上げられ、南月はベッドに顔を埋めて鳴き喘いだ。

 子を宿す宮は柔らかく蕩け、蜜園から溢れ出す蜜が内腿を濡らしていくのを感じる。ヌチュヌチュと音を立てて出入りする剛杭に敏感な場所を連続して攻め立てられ、南月の体は二度目の絶頂に向けて駆け上がった。

「ダメェェッ、ァァァ――ッ、きょうが、さぁぁぁっ!」

 最後は悲鳴に近かった。

 キュゥッと強く剛杭を締め上げながら南月は自分の欲を解放した。

 欲の証で汚れた肌がビクビクと震える。全身の神経が悦楽でショートし、それ以外のことを認識できなくなっていた。

「中が……痙攣している……蜜が溢れ続けて、滑りがよくて……俺も、もう、限界だ」

 人を愛しみ、心を汲んで包み込もうとするアルファも、さすがに我を失う瞬間があるようだ。謝罪のような言葉の後、天黒の行為から優しさが消えた。

「ンッ、ァァァァッ!」

 南月の華奢な体が大きくうねった。

 ベッドが軋み、体がぶつかりあう音が部屋に響く。

「ダメッ! ダメッ! そんな、激しくされたらっ!」

 南月の悲鳴は耳に届いていないのか。

 アァ、と雄の欲に染まった吐息を吐きながら天黒が何度も腰を突き上げた。

「アァァァァッ!」

 達したばかりの体が強引に絶頂へ押し上げられていく。白濁を放たない絶頂という未経験の悦楽に溺れながら、南月は自分の中で脈打つ剛杭を感じた。

 アルファの愛が体の内を満たしていく。

 その熱と喜びにオメガの体は蕩け、至高の喜びに酔った。

「南月……愛している……」

 放たれた熱を受け止めながら南月はゆっくりと頷いた。

 体が繋がり、ひとつに溶け合う感覚――。

 それを長く味わいながら、南月は誰にも聞かせたことがない、淫靡で官能的な嬌声を上げ続けた。

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