「これはてめえの仕業か!? いったい何者だ!」
ボスゴブリンがわめいた。ツタが何重にも巻き付き、自慢の怪力を封じている。
「ポスカ様っ!」
サラもツタに拘束されている。自由に動けるのはエステルとポスカだけ。
「大丈夫だ、何もしない。争いをおさめたいだけだ。みんな、少し静かにしていてくれ」
ポスカは村人たちに呼びかけると、ボスゴブリンに向き直った。
「てめえ、何様だ! 関係ねえだろが! 何者なんだ!」
ボスゴブリンはツタを無理やり千切ろうともがいている。
「今、お前に発言権はないと思うが? 状況が理解できるか?」
「うるせえ! こんなもの! ……ぐっ、くそっ!」
やはりどうあがいてもツタは取れない。
「諦めてくれ。さて、聞くが、お前がここら一帯のゴブリンたちのボスで間違いないな? この村に迷惑行為を行なっていたのは、自分の意思か? それとも上からの指示か?」
「てめえには関係ねえ! どこの馬の骨か知らねえが、部外者はすっこんでろ!」
「まだ分からないか。ここまでやれば気づかれると思ったのだが。……エステル」
「はい」
エステルが返事をしたと同時に、ポスカとエステルにかかっていた偽装魔法が解け、魔族の姿があらわになった。
「う、あ、あ……!」
ボスゴブリンは言葉を失い、目を丸くした。
「お、お、お、王子ぃ……!? ポスカ王子ぃ!?」
「正解だ。自己紹介が省けて助かる」
ボスゴブリンはサッと青ざめ、絶望に打ちひしがれた顔になる。数々の無礼な言動は取り返しがつかない。
「も、も、も、申し訳ございませんでしたアア!!! 王子と知っていたら決してあのようなことは申し上げなかったっス! そもそもどうして王子がこんなところに!? ここは地上でも特に田舎で価値のない土地っスよ!? というか、いらっしゃるならご一報いただければ、このような無礼を働くことは絶対になかったのに」
「まあ、それはのちのち話すとして、まずはどうしてお前がこの村を襲うのかを知りたい。エステル、頼む」
「かしこまりました」
エステルが何かの魔法を発動する。
「……そちらの美しいお連れ様は今、何を?」
ボスゴブリンはエステルにもへりくだって尋ねる。
「侍女のエステルです。嘘を見抜く魔法をかけました」
「!? オレはやりたくてこんなことやってるわけじゃないんっスよオオ!」
「本心のようです」
「じゃあなぜ村を襲う?」
「そりゃあ魔王様からの指示で、人間に魔族が優秀な種族であると見せつけろって言われちゃったんだから、やるしかないじゃないっスかアア! 逆らうわけにもいかないっスよね? 仕方ないからこんな辺境の村で、ちまちまと人間に嫌がらせをしているわけっスよ。本心では人間と魔族のどっちが優れてるかなんてこと、どうでもいいんス。オレたちはゴブリンが平和に安定して暮らしていければ、他に何もいらないっス!」
「本心のようです」
「ふむ、あの親父が末端にまでくだらない指示を出していたとはな」
ポスカはため息をつき、ツタによる拘束を緩めた。
「よし決めた。お前たちゴブリン全員に、相応の罰を与える」
「いやアアアアアアッ!! どうか許してくださいオレたちはただ魔王様に逆らえないだけで根は善良なんスよ!」
「いや、許す気はまったくない」
「そんなアア!? じゃあ、せめてこいつらは許してやってくだせえ! ちびたちはオレの指示にしたがってただけなんスから! 悪くないんス! オレのことはかまわないスから、どうかこいつらだけは……!」
「ダメだ。全員一緒に罰を与える。もう決めたことだ」
「そんな……」
打ちひしがれるボスゴブリン。
下っ端たちが彼に口々に声をかける。
「ボス……オレたちも罰をうけるっス」
「そっス、悪いのはボスだけじゃないっス」
「お前ら……」
慰め合うゴブリンたち。サラや村人は少し同情するように、彼らを見つめていた。
「では、お前たち全員への罰を言い渡す」