「二俣が女の子と歩いてた?」
竿役のモデルをしていたら唐突に田中が『二俣先輩の隣にいた女の子を寝取りたいっす』と言ったので、思わず聞き返してしまった。
二俣……? 二俣の隣に女の子!?
「器物損壊や暴行の前科持ちで浪人、停学、留年決定までしている奴が?」
二俣は、居ねえ!
ついさっきまで二俣は居たんだが。そういや変な上機嫌の様子でサークル部屋から出て行っていたな。
「将来結婚したら妻にモラハラDVかまして多額の慰謝料と共に離婚してそうランキング堂々一位の二俣が?」
「散々な言われようっすね。否定はしないっすけど」
「よく殴るもんなアイツ」
瞬間、サークル部室のドアがぶち破られた。
その数秒後、四つん這いでカサカサと動く緑髪の眼鏡が飛び込んできた。ベロを斜めにして目を上下に揺らしながら。
「おお、いつにもましてクレイジーだな鈴木」
「カップルカップルクラッシュクラッシュ」
おまけに片言しか喋れなくなっている。どんだけリア充が嫌いなのだろうこの人。相変わらず面白い奴。
「何はともあれ、めでたいやん。ついに二俣にも春が来たかぁ」(しみじみ)
「ギャルは初めてだったっすねぇ。寝とりたい」
「カップルな関係なのなら、是非ともカップルクラッシャーの名にかけて破局させたいでござる」
「お前ら人の心とか無いんか?」
◇
「一応聞くけど、二俣の親族という可能性は?」
「無いでござる。一樹殿の妹先生が歩いていたでござるからな」
「えっ? 妹っ!? 俺の妹が二俣と歩いてたの!?」
俺の妹、小坂六花と二俣が歩いていただと……? それは話が変わってくる。
二俣の性格はクソよりである。六花が可哀想な目に遭うのは兄として許容できない。
ていうかアイツらにどんな接点が……あっ。
あの時、俺が二俣に『一夜限りじゃない子と接する方法を教えて欲しい』と言ったあの日だ。あれから2人は交流が続いてたのか。
「なるほどなるほど。二人とも、尾行するぞ」
「二俣先輩のGPSは準備万端っす!」
「カップルクラッシュカップルクラッシュ!」
「……頼もしいけど、めんどくさい展開になりそうで怖い」
俺はめんどくさい奴らを連れて部室を後にした。