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第20話 義母上と五月と

 元日、私は何者かに誘拐されました。


 河岸を歩いていたらいきなり袋を被せられてあれよあれよと、無駄に広そうな部屋に軟禁された感じです。


 可笑しいですねぇ。


 チックロッカーとしては美味しい展開なので、チックロック生配信しますか。


「おはようございます。先程何者かに攫われた五月です!」


 開始早々数万の視聴者が集まってきた。みんな暇人なのだろうか?


「随分と肝が据わってるのね。それとも底なしの大馬鹿か。場を弁えなさい痴れ者が」


 チックロック生配信から数分後。突如、女性の声がどこからか聞こえてきた。


「あなた、私を拉致して何の目的なのですか! 身代金ですか? それとも……」


「貴方が小坂一樹の彼女になる人ね?」


 中年の女性な声が私の話を遮った。声の質的に厳格そうな雰囲気を纏っている。


「申し遅れたわね。私は小坂一樹の母です」




 は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?



         ◇



 一樹くんの母上!? つまり、これから義母上になる人!?


「えっ、どういうことか説明を求めます!?」


「ああそう。ならばまず、刺客を倒してから改めて聞きなさい」


 パチンと指を鳴らす音と同時に、部屋の照明が一斉についた。暗闇からいきなり光が灯った眩しさで私は一瞬だけ目を覆った。


 眩しさに慣れて、ぼやけた視界が明るくなってくると。私の目の前には人間サイズの緑色の身体で、手足が生えている人外がそこにはいた。


「オッス! バイトのため一時的に五月親衛隊から離脱したピーマンだ!」


 私は迷いなくバズーカーをピーマンの土手っ腹にぶち込んだ。音も無く後ろへ倒れるピーマン。


「あら、面白い存在だったから雇ったのに。ピーマンが秒殺されたわね。やられ方も地味だし、期待外れもいいところだわ」


 確かにやられ役なら耳が痛くなる様な叫び声を上げて散って欲しいものだ。


 槍玉に挙げられている当のピーマンは無様な姿を晒してセコセコと自己再生していた。ピーマンって自己再生しましたっけ?



         ◇



 ピーマンを倒した後、一樹くんの母上らしき人物が姿を現していた。扇子を右手に持って凄く気品があるお方だった。


「誘拐はいけないことです。一樹くんの母上の職業を教えてください。家の圧力かけて職場ごと潰しますから」


「五十嵐家の令嬢と言っても国家権力には勝てないでしょう。例えば警察官とか」


「あなた、警察官なんですね」


「あら、なんで分かったのかしら? 超能力でも使った?」


 なるほど。これは確かに一樹くんの母上だと思った。親子揃って分かりやすすぎる。


 一樹くんの母上が目の前にいる。すなわちこれは外堀埋めるチャンスなのでは?


「母上、私にあなたの息子さんをください」


「……ええっ。貴方まだ高校生でしょ」


「私は先日18になりました。結婚できます。したいです!」


「それに普通、性別逆じゃない? 私の息子が貴方のお母さんに挨拶するのが筋だと思うのだけど?」


「今は多様性の時代。性別なんて些細な問題。つきましてはこの婚姻届にサインお願いします!」


「怖いわよ?」


「証人欄にあなたのお名前と御住所をご記入してください!」


「聞いて? 息子の彼女に婚姻届渡される身にもなって? 恐怖だから」


「絶対に幸せにします! 義母上!」


「覚悟ガンギマリすぎじゃない? あと義母上じゃあないから。さらに言えば、まだ付き合ってすらないのでしょう?」


「いずれそうなります!」


 外堀を埋める大チャンス。この私が逃すわけないだろう。


「開いた口が塞がらないとはまさにこのことね。貴方が初めてよ。こんな堂々と外堀埋めに行く娘は」


「ありがとうございます!」


「褒めてないわよ? どちらかと言うと呆れてるのよ?」


 義母上は何かを諦めたかの様にため息をついて『まあいいわ』と言ってこう続ける。


「本題に入りましょう。貴方を誘拐した理由はね、貴方が息子の結婚相手に値する様な人か確かめるためよ」


「ピーマンも不死鳥の如く復活!」


「what the hell are you looking at me?」


「what!?」


「go away!」


 義母上がピーマンに向かって英語の暴言吐いてる……


 ピーマンはズコズコと部屋から出ていった。



        ◇



 常々私は、五十嵐五月という名前に不満を覚えていた。だって五という漢字が二つ続いてるし、読み方も同じだし。結婚すれば小坂五月。


 絶対に結婚を認めさせなければならない。


「貴方に試練を与えます。この装置をつけて私の質問に答えなさい」


 義母上が変な形状のヘルメットを私の頭に装着しながら語り始めた。


「私の息子は騙されやすいタイプの人間なの。だから将来の結婚相手には、この機械を使って善良か、悪人か確かめてるの」


 な、なるほど。とても胡散臭いけれど、理解は出来る。


「分かりました! なんでも来やがれください!」


「五十嵐さん、貴方は何カップ?」



 ふぁ?



「いや必要ないですよね!? 胸のサイズとか! 理解できないのですが!?」


「必要よ。あの子も男の子だもの。キャバクラ通いだし」


 キャバクラ? 一樹くんまだキャバクラとかいう馬の餌にもならないところ通ってるの? 少し前に釘刺したのに?


 はっ、私という存在が居ながら?


 それは後で小一時間、一樹くん本人に問い詰めよう。


 今は目の前の問題に取り組む。


「う、ウーン? わ、分かりました。言いますよ。言えばいいんですよね? Bカップくらいですかね。C寄りの」


「胸モッテル。胸モッテル」


「いや待ってください! 盛ってないですよ!?」


「この機械はどんな些細な嘘でも暴く代物よ。さあどうする? このままじゃあ悪人判定になるわよ」


 義母上は悪魔的に笑いながら私を挑発している。


「ええ……それじゃA寄りのBカップぐらいですかね?」


「マダモッテル。マダモッテル」


「クッ……Aカップです……」


「モウスコシ。モウスコシ」


「AA寄りのAですよなんか文句ありますかこの野郎! こんな機械、破壊してやるっ!」


 頭の装置をインファイト。そしたらプシューと機械が音を出してその数秒後、四方分解した。


「フィジカルもあるようね。合格よ。強い娘が来てくれるなら安心だわ」


 何が合格かよく分からなかったが、義母上がやっと顔を緩めてこんなことを言ってくれた。


「遠慮なく息子を尻に敷きなさい。コキ使いなさい。何かあれば私が味方になるわ!」


「義母上……!」


「まだ義母上じゃあありません!」

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