五十嵐五月のウィンスタ更新されてるな。
覗いてみると彼氏がいる匂わせ投稿をしていた。
お嬢ちゃんの信者達は阿鼻叫喚の様子だったが、純愛主義者としては結構なことである。
我が親友はなんだかんだ上手くやってるんだな。純愛主義者としてはこのまま結婚まで突っ走ってほしいところだ。
「ん?『佐藤がウィンスタ配信始めました』だと?」
佐藤。友人で飲み仲間である。確か本人はSNS得意じゃないと僕に漏らしていたが、どういう風の吹き回しなのだろう。
気になったのでついでに覗きにいくことにした。
「この飛行機は占領した! 死にたくなかったら俺たちに従え!」
ウィンスタでハイジャック生配信!?
もしかして僕の飲み仲間、極悪犯罪に手を染めてんの!?
もしこの配信が偽物じゃないなら止めた方がいいよな。一旦佐藤に電話してみるか。
「もしもし? 生配信見たんだけど、あれは本物なのか?」
「え? ちゃんと配信できてた? 使い方まだ分からなくて」
「お前、今とんでもないことしてるなら今すぐ辞めろ。今ならまだやり直せる!」
「……なんの話をしてるのかな?」
「しらばっくれるな。お前ハイジャックしてるだろ」
「ハイジャックなどとそんな。おいそこ勝手に動くんじゃねえぶち殺されたいのか!」
ダメだこりゃ、説得の段階じゃなさそう。
これは警察に通報するべきなのか。それともラッパーとして罵倒するべきなのか。
「おいテメェ。やっぱりハイジャックしてんだろ! 今すぐ辞めろ!」
「なんだ二俣。説得なんてしても無駄だ!」
「お前……そんな凶行に走ったってことは何か特別な理由があるんだな? お前は一人で抱え込むタイプだから誰にも相談できなかったんだろ? 僕が話を聞いてやるからハイジャックは辞めろ!」
「二俣……」
「さあ、話してみろ!」
佐藤は何かを振り払うように一呼吸置いて話し始めた。
「五月ちゃんが彼氏らしき人物と野菜動物園に行ってたんだ。それがショックで」
失恋でハイジャック!?
予想斜め上の回答だよ。完璧してくれよ。
「今日の投稿を見てすぐに飛行機に乗り込んだんだ。五月ちゃんと一緒に写ってた男が彼氏なのか確かめたくてね」
淡々と言った調子に佐藤は答えていく。
そういえば佐藤は五月親衛隊とかいうカルト集団に所属していた。アイツらは何するか分からんからな。しかし、よりにもよって佐藤がそんなことをするとは。
「お前そんなくっだらない理由でハイジャックしたのか? 親御さんが悲しむぞ?」
「くだらない理由とはなんだ! 俺からしたら死活問題なんだよ! 五月ちゃんの彼氏になるのは俺なんだ!」
電話先からでも分かるくらい佐藤はヒートアップし始めていた。なので僕は交渉するのを諦め、警察へ丸投げすることにした。
あと、五月親衛隊ってきしょいなって思った。