「色々変な事に巻き込まれましたねぇ。私達の車に追いついてきて、話すだけ話してどっか行っちゃいました。あの人……」
「な、なんやったんやろうねぇ……」
一応通報したけど、野菜動物園に生まれたばかりな格好をしたオカマが出没したというのを信じてくれなかった。
「面識無いですけど、一樹くんは何か知ってるんですか?」
「自分も一回しか会ったこと無いし、会話すらしてないなぁ。なんだったんだほんと……?」
唯一わかってる事。あのオカマは五月親衛隊に所属していることだけ。
五月親衛隊は俺のことを殺しにきてる集団である。しかし今回、あのオカマは俺を助けた。どういう風の吹き回しだろうか?
まあいいか。別に知らなくてもいい。考えたくもない。ピーマンの如く泳がせておこう。
「時間も時間ですし、昼食にしましょうか」
「ああ、もうそんな時間かぁ。どこで食べる? ビックマ◯クとか食べたいなぁ」
「たまには外食じゃなくてお弁当とかどうでしょう?」
お弁当。五月は徐に風呂敷を広げていく。そしたら何段と重なったお弁当箱が姿を現した。
「ウォォォォ! 彼女の手作りお弁当だァァァァァ!」
想定外のイベントに俺は歓喜の咆哮を上げた。
「そこまで興奮することですかね?」
「もちろん! 逆に興奮しないやつの気がしれないぜ」
言うならば彼女の手作り弁当である。大半の人間は感情を昂らせるだろう。
ちなみに弁当は二段になっており、一段目はおかず。二段目はご飯等に分けられていた。
にんじんとこんにゃくのきんぴら。豚ロースのしそレモン炒め。ほうれん草の胡麻和え。青梗菜と卵のオイスター炒め。
わかめの混ぜご飯に卵焼き。盛り沢山なラインナップだ。
「料理好きなおじさまに教わりました。召し上がってください」
おじさま?
ああ、そういえば五月親衛隊の大半は五月に尽くす奴らだったなと、俺は改めて実感した。
「いただきます」
パクッと一口。食べ物を口の中へ招待した。
こ、これは……
家庭的な味がする。朝から仕込んできた努力の結晶。母さんの味がした。
もう一口パクリ。さらにパクリ。箸が止まらない。
「美味い! 美味いっ! 美味ぁぁぁい!」
「お気に召してくれてよかったです!」
(一樹くんの胃袋を掴むことに成功しました。また一歩、私の理想に近づきました!)