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第40話 ご近所さんはバケモーノ

 この住宅街はなんにも面白くない、ドラえもんにあるかの様なごくごく普通の街並みだった。


 数年前、とある化け物が引っ越してくるまでは……


「お、お兄ちゃん!?」


「どうした我が妹よ。らしくなく顔面蒼白になりやがって」


「風の噂でね……?」



         ◇



「バケモーノがここへ挨拶に来るだと……!?」


「う、うん☆五月ちゃんがここに住むと何処からか聞きつけたらしくて……」


「お二人とも、何をそんなに慌ててるのですか?」


 五月はもう既に我が家を我が物のようにくつろいでいた。コイツもう同棲する気でいやがる。


「五月ちゃんは知らんだろうね☆隣人がどんだけバケモンなのかを!」


 マルーデバケモーノ。年齢不明。3mはあるような巨体で全身赤色のバケモン。


「この物語はバケットモンスター。またの名をバケモンだったんだよ☆」


「略さなくてもいいですよね?」



          ◇



「こんにちはー! 同棲祝いとして近所挨拶に来ましたー!」


 来た。マルデ•バケモーノが我が家にやって来た。俺は対戦車ライフルを玄関へ運び、有事に備える。


「は、はーい☆ど、どうも……」


 玄関を開けるとピーマンとトマトが虐殺されていた。緑と赤の液体があちらこちらに飛び散って、凄惨な光景である。


 瞬間、俺と六花は無意識に抱き合っていた。


「声を聞く限りだと温和な人っぽそうですけど?」


 おそらく今も呑気にソファで寝っ転がっているであろう五月が疑問の声色でそう言う。


「人を声で判断するんじゃねえ。食べられちゃうぞ!?」


「どういうことですか?」


 立てば赤鬼、空気をチョップしたら空気が割れ、歩く姿は全市民に恐れられる。


 ここ一ヶ月の死者、数十名!


「ば、バケモーノさん。き、今日はどういったご用件で……?」


「あ、いや。いいとこのお嬢さんと同棲すると聞きましてね。ならご近所挨拶するのが筋ってものでしょう」


 人外にも筋の決め方あるんだ……その疑問は口が裂けても言えないが。


「あっ、ささやかな宇宙名物ですが」


「食べ物か?」


「食い意地がすごい……」


 するといきなり六花に小突かれた。そのあとすぐに耳打ちしてきた『今のは軽率だよお兄ちゃん☆! ウチ達の命がここで終わっちゃっていいの!?』


 六花に言われてハッと思った。確かにさっきの言動はヤバかった。


 幸いにもバケモーノは機嫌を損ねてない様子というか、申し訳なさそうな表情をしていた。


「あの、石けん……」


 せ、石けんだとぉぉぉ!?


 どうする。ここで何か嫌なこと言えば速攻で殺されてしまうだろう。なんとか言いくるめなければ。


「すぅぅぅぅ……カレーにすればなんとか」


「食べれませんから!?」


 ここで六花があらかじめ用意しておいた返礼品を渡そうと、身体をガタガタ震えながらバケモーノに近づいていく。


「あ、あの。お、お返しといいますか……こちら地球名物『喋るブロッコリー』です☆」


「僕ブロッコリー。助けて」


 ふむふむとバケモーノが頷いた後、ブロッコリーを対戦車ライフルの銃口へ引っ付けてそのまま引き金を引いた。


 瞬間、ブロッコリーは爆散。


 俺は察した。ああ、死んだと。次は俺の番なんだと。


「さっきから騒がしいですね? どうしました?」


 色々な覚悟を決めたその時、未だ呑気そうな彼女が部屋から出て来て玄関に向かってくるのが見えた。


「ダメだ!? 逃げろォォォ!」


「貴方が噂のお嬢さんですね。これから末永くよろしくお願いします」ペコリ


 バケモーノがお辞儀をした瞬間、俺は五月を抱き寄せた。数秒後、飛ぶ斬撃が五月がいた場所に降り注いでいく。


 五月は一瞬だけ顔が赤くなっていたが、すぐに青い表情へと変わっていた。そして電動歯ブラシのように震え始めている。


 これで彼女も分かっただろう。バケモーノは近所付き合いと称して人の命を狩るサイコパスということを。



          ◇



 バケモーノが去った後は大変だった。命を余裕で刈り取るような飛ぶ斬撃が家中をわやくちゃに傷つけたからだ。


「……ああ。俺の同人誌がぁ!?」


 しかも俺の同人誌達をついでの如く真っ二つに切り裂いていく始末。


「俺の巨乳同人誌コレクションがぁぁぁ!?」


「まさか一樹くん……巨乳が好きなのですか?」


 やめて五月さん。軽蔑の眼差しで見てこないで!?



◇全身兵器。性格善良。悲しいモンスター。マルーデバケモーノ。


「ご近所付き合い頑張るぞー!」

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